ショパン・ワルツ CD聴き比べ

   おすすめ度・第1位:ディヌ・リパッティ(p), EMI盤
   おすすめ度・第2位:シプリアン・カツァリス(p), テルデック盤

1.所有音源

ピアニストレーベル録音ランキング
ルービンシュタインRCA1965年★★★
アシュケナージ英デッカ(ロンドン)1976-85年★★★
リパッティEMI1950年★★★★★
カツァリステルデック1981年★★★★
ダン・タイ・ソンビクター1987年★★★
ヴァーシャリドイツ・グラモフォン1965年★★★

2.短評/感想
ショパンのワルツは他のカテゴリーとは違って、僕にとってのいわゆる「決定盤」には巡り合えていないです。 現在、持っているメジャーなピアニストのCDの中では演奏内容だけ取れば、リパッティ盤が間違いなくダントツトップですが、 1950年の古いモノーラル録音で音質が悪いため、これを万人に対して一押しで奨めることがためらわれますが、 それでもやはりこれはトップに挙げないわけにはいかないとも思います。 かつてクリスティアン・ツィマーマンのワルツ全集(1番〜14番)がLP盤で出回っていて、 これがCDとして復刻されれば僕にとって間違いなくベスト盤になると思われるだけに残念極まりないです(華麗なる大円舞曲だけ 聴いたことがありますが、洒脱で洗練されていて極めて均整の取れた完成度の高い恐るべき名演でした)。 こうした中で、ショパンのワルツに関しては、カツァリスのユニークな演奏が相対的にベストになりうる内容ではあると思います。 ショパンのワルツには隠れた決定盤が他にあるのでしょうか?

アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1963年録音
ルービンシュタイン盤
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※骨太な音色ながら全体として遅めのテンポの淡々とした演奏。原典版に準拠した演奏としても珍しく貴重。
実に落ち着いたテンポ、骨太でコクのあるまろやかな音色で一つ一つのフレーズを噛みしめるように弾き進めていきます。 このワルツ集を録音したとき、ルービンシュタインは既に80歳に手が届こうかという老齢で、そのせいかもしれませんが、 表現意欲というよりも、内からにじみ出る枯れた味わいが深い余韻を残す演奏となっています。 語り口も淡々としていますが、単なる平凡な演奏とは明らかに一線を画しており、 高貴で洒脱な雰囲気が漂い、饒舌に感じるのは、やはりルービンシュタインの音楽性が卓越していることを示しています。 ルービンシュタインが長年、ステージ上で披露してきた華やかな演奏の面影も時々垣間見せる瞬間もあり、 決して迫力不足にはなっていませんが、聴く人によっては物足りない面もあるのではないかと思います。 それとこの演奏では、他の標準的な演奏とは異なる版を使用しているのか、ところどころに奇妙な音があります。 ルービンシュタインは音感は抜群だったと言われていますが、一体どうなのでしょう?? 特に第2番、第5番、第9番で明らかに奇妙に思える音が散在していますが、これは何版を使用しているのでしょうか? ルービンシュタインは幻想即興曲同様、ショパンのワルツの自筆譜も持っている可能性があるのではないかとも考えましたが・・・ その点でも興味深い演奏です。

ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976〜84年録音
アシュケナージ盤
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※美しい音色で教科書通りの模範的演奏。レガートで技術的不備は散見されるものの美しく丁寧な仕上がりと録音の良さは ショパン・ワルツのファーストチョイスに相応しい。
磨き抜かれた輝かしく美しい音色で、ショパンのワルツの抒情性に重きを置きつつも、決して感傷に流されずに バランスを重視した演奏です。快活で舞踏的なワルツでは、やや速めのテンポで軽快に弾き進めていきますが、一方で 抒情的な作品では、アシュケナージ特有の細やかなニュアンスが豊かな感興とともに表出されていて、 美しい仕上がりになっているのは特筆に値すると思います。 ただ、個人的な感想としては、彼のタッチはやや軽く、レガート奏法が完璧ではないようで、速いパッセージでは 音が途切れがちで音楽が浮き足立ってしまうように感じています。 とは言うものの、この演奏は、ショパンのワルツ全19曲が収められたCDとしても、模範的な演奏としても、 十分鑑賞に堪えうる演奏ではあると思います。要は、好みの問題ということで…。

ディヌ・リパッティ(p), EMI盤, 1950年録音<<おすすめ度No.1>>
リパッティ盤
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※不世出の天才リパッティが残した大切な遺産としての貴重な録音。適度に即興的で都会的に洗練された演奏は、 潔癖の人リパッティの音楽的センスの異常な高さをうかがわせるに十分。音質が悪いのが惜しまれる。
録音こそ古くなりましたが、僕自身の中ではショパン・ワルツ集の決定盤。 夭折の天才詩人リパッティが、その晩年、白血病と闘いながら命を削る思いでレコーディングに取り組んだ という事実に対する 同情票も数多く集めていますが、このワルツ集にはそのような苦悩といったものはほとんど感じられないです。 既に、迫り来る「死」を避けがたい運命と悟っていたからなのか、この演奏には苦悩というより、天国の花園を思わせる 純粋無垢な美しさを感じますし、 そのクリアーな音色にも惹きつけられてしまいます。ショパンが、これらのワルツに託したそこはかとない詩情を 実に清潔でしゃれたセンスによって、控えめに過不足なく僕達に聴かせてくれるのです。 これほど普遍的でありながらも完璧に歌われた抒情詩を聴かせてくれる、正真正銘の「ピアノの詩人」は 後にも先にもリパッティただ1人だったと思います。 彼の早すぎる死は 本当に惜しまれてならないです。この人が長生きしていれば、誰も追随できない世界一のショパン弾きだっただろう と、このワルツ集を聴いて思った次第です。 (但しモノーラル録音ということもあり、音質が良くないのが非常に残念です)

シプリアン・カツァリス(p), テルデック盤, 1981年録音<<おすすめ度No.2>>
カツァリス盤
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※ショパンのワルツに新たな発見と工夫を盛り込んだ極めてユニークで興味深い名演奏
超絶技巧ピアニスト・カツァリスがショパンのワルツに対して、かつて他のピアニストが誰も試みなかった面白い工夫を 随所にちりばめ、実にユニークな演奏を聴かせてくれます。実に余裕を持ってショパン のワルツをいわば「赤子の手をひねるように」弾き進めていきます。同じフレーズは登場するたびに異なった 表情付けをする、他のピアニストが気がつかなかった思わぬ内声部を浮かび上がらせてつなぎ合わせる、など、いろいろ 変わったことを欲張ってやってくれます。 超絶技巧のカツァリスにしてみれば、ショパンのワルツは技術的にあまりにも 易しすぎて、弾いているうちにいろいろ変わったことを試したくなるのも分かるような気がしますね。 ただ、それが作品の本質とは違うのではないか、と思う曲(敢えて番号 までは書かない)もあるんですけど、ユニークさを買う人、新しい発見に期待する人にはお薦めです。 最初に聴いたときは僕もかなりの違和感があったのですが、何回も繰り返し聴いていくうちに段々考え方が 変わってきて、 ショパンの音楽に対する深い理解、共感を感じ取ることができる録音と判断したため、ここではおすすめ度第2位に 挙げておきます。特に、前半の技巧系の快活な作品(第1番、第2番、第4番、第5番、第6番等)が出色の演奏です。 また第7番等のユニークな解釈も面白いです。ショパンのワルツ全19曲が収められているCDとしても貴重なものです。

ダン・タイ・ソン(p), ビクター盤, 1987年録音
ダン・タイ・ソン盤
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※教科書通りの不可のない超優等生的な演奏。奇抜な効果を狙う瞬間はなく常に真摯で繊細な表現を心がける姿勢。
第10回ショパンコンクールの覇者ダン・タイ・ソンのショパン録音の中では比較的初期のもの。ごくオーソドックス なアプローチで真面目に演奏したワルツ集で、その意味では伝統的なショパンの演奏スタイルを踏まえた 実に「ショパンらしい」演奏なのですが、これは超優等生的演奏。僕が審査員で10点満点で評価 しろと言われたら10点満点をあげてしまいます。だって減点する要素がないんだもの。 減点法式採点結果と加点法式採点結果がこれほど大きなヒステリシスを描く演奏もないのでは ないかな、と思ったりしています。 聴いている途中泣き出したくなったり気が狂ったように 踊り出したくなる、というような共感を呼ぶ要素があまりに少ないように感じます。 何かもう少し強烈なインパクトが欲しいような気がします。

タマーシュ・ヴァーシャリ(p), DG盤, 1963年録音
ヴァーシャリ盤
※適度に即興的で快活な演奏。ノンレガート基調のテクニック。爽やかな詩情はショパン・ワルツに食傷気味の人にも 良薬となる?
ヴァーシャリの弾くショパンはその洗練された筋のよい演奏技巧に裏付けられた素直な詩情の表出、 自然な音楽性、適度な即興性といったものが最大の魅力だと僕は感じていますが、これもその彼の持ち味 がいかんなく発揮された実に優れた演奏で、聴いていて気分爽快になります。これはあらゆるショパンワルツ集 の標準をはるかに上回る演奏で、そのセンスのよいフレージングは何度聞き返しても全く飽きが来ない です。ワルツの本当の美しさが知りたければ、この演奏を真っ先に薦めたいです。但し、音量も小さいし スケールも小さいのがマイナス点ですが、これはこの人の演奏スタイルを考えると仕方ないでしょう。

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