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管理人のピアノ練習奮闘記〜第6話〜軍隊ポロネーズ

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〜ショパン・軍隊ポロネーズ〜管理人の初ショパン〜
 
ショパン:ポロネーズ第3番イ長調Op.40-1「軍隊ポロネーズ」:体感難易度 7/10, 個人的思い入れ:6/10

管理人のピアノ練習奮闘記、第6話は、有名な「軍隊ポロネーズ」です。 「ええー、この曲、つまんな〜い」という声が聞こえてきそうですが、これをここで取り上げるのには訳があります。 というのも、この曲は僕にとって初めてのショパンだったからです。 後年、ショパンのあらゆる曲を弾きまくってきた僕自身の出発点・原点とも言えるのが、この軍隊ポロネーズというわけです。

ところで皆さんが初めて弾いたショパンの曲は何だったでしょうか?一般的には「小犬のワルツ」、「ワルツ第7番Op.64-2」、「華麗なる大円舞曲」、 「ノクターン第2番Op.9-2」、「ノクターン第20番遺作」、「雨だれの前奏曲」というのが主だったところだと思います。 ワルツやマズルカ、その他の小品にはこれらよりもさらに易しい曲があるのですが、ポピュラリティを考慮すると、 ピアノ発表会や演奏会で弾くには、上に挙げた曲がよりふさわしいと思います。

それなら何故、僕の場合は初ショパンが「軍隊ポロネーズ」だったのか、気になる方も多いと思いますが、 はっきりとした理由はありません。僕自身、実はこの曲には特に強い思い入れがあったわけでもないです。 それなのに何故、この曲が僕にとって初ショパンになったのか・・・。 きっかけは小学校5年生の頃にさかのぼります。当時、ピアノの発表会で弾いたピアノピースが収められた 小品集のレコードが家にあって、そのレコードをよく聴いていたのですが、それを聴いているうちに弾きたい曲が 次から次に出てきてしまい、親に頼んで、ばら売りの全音ピアノピースを買ってきてもらいました。 その中に「これもついでに買ってきた」という楽譜が数点紛れ込んでいました。 そこにはモーツァルトの「きらきら星変奏曲」やメンデルスゾーンの「結婚行進曲」など当時の僕にとっては どうでもよい曲もあり、そこにはショパンの軍隊ポロネーズも入っていました。 とは言っても楽譜を見るだけでは当時の僕には頭の中で音を鳴らすことはできませんでしたし、 実際に弾こうとしても曲を知らない上に♯3つのイ長調の楽譜は当時の僕には難しすぎてあえなく挫折しました (当時の僕は同じイ長調のスケーターズ・ワルツ(ワルトトイフェル)も譜読みが難しいと思いました)。 その後も、僕は軍隊ポロネーズの曲名は知りつつも曲を知らないという状況が続きました。 家にはルービンシュタインのショパン・ポロネーズ集があったので、聴こうと思えば聴ける状況ではあったのですが、 軍隊ポロネーズとルービンシュタインのポロネーズ集が頭の中で結びついていませんでした。

中学校1年生の終わりのピアノの発表会ではメンデルスゾーンの無言歌集から「プレストアジタート」という曲を弾いたのですが、 このピアノ教室には発表会で毎年非常に遅いテンポで弾くだいぶ年上の一風変わった男子生徒がいて、 この部の最後の方でショパンの軍隊ポロネーズを弾いていました。 「あれは本当にあのような曲なのだろうか。もっと速い曲なのだろうか?」と僕は気になり始めました。 帰宅してから、僕は本格的な演奏が聴きたくなり、この曲のきちんとした演奏が何とか聴けないものだろうかと考えを巡らせていたとき、 僕の記憶が蘇りました。「そうだ、英雄ポロネーズを聴き比べたとき、確かポロネーズばかりが収められたレコードがあったはずだ」と 僕は膝を打ちました。そのレコードは探し出すまでもなく、1階リビングのLPプレーヤーの前にありました。 アルトゥール・ルービンシュタインのショパン・ポロネーズ集でした。 曲名を見ていくと、ポロネーズ第3番イ長調Op.40-1「軍隊」と印字されていて、「あった、これだ!」と胸をときめかせました。 早速プレーヤーにかけて溝に針を落とすと、力強く重厚な演奏が始まりました。 これが軍隊ポロネーズか・・・あの演奏との何という違い・・・結構和音が多くて力強く迫力があり、 その割に速い動きが少ない・・・この曲は全音ピアノピースの難易度では「E」となっているけど、 難易度Dのベートーヴェンの「悲愴」ソナタも課題に出されたのだから、そのワンランク上くらいなら、 何とか弾けてしまうかもしれない、少なくとも同じ難易度Eの幻想即興曲よりも易しそうだ、それならやってみようか、 もしこの曲が弾けるようになるのなら、初めての難易度Eということで自信にもつながるのではないかと考え、 この曲に取り組むことにしたわけです。既にこの曲の楽譜が手元にあるのも、この曲を取り組むことに決めた大きな理由です。 この頃はベートーヴェンの「悲愴」ソナタが課題に出されたばかりで、ピアノ教室では原則としてピアノピースの課題は 並行して取り組むことはなかったため、僕は先生に断りなく自主的に軍隊ポロネーズを練習することに決めました。

当初は弾けるようにならなくても仕方がない、ダメモトでもいい、という軽い気持ちで始めたのですが、 一旦練習を始めると日に日に弾けるようになるのが実感できて非常に気持ちよかったのを覚えています。 ルービンシュタインのLP盤もよく聴いていましたが、自分の演奏がルービンシュタインの演奏に日に日に近づいていくことを実感していました。 春休み中で思う存分練習時間が取れたのも大きかったと思います。 当時の日記にも、軍隊ポロネーズを始めてから5日後には「だいぶ形になってきている」と書いてありました。

♯3つのイ長調(中間部はニ長調から開始)で分厚い和音の連続で、譜読みの苦手な僕にとって 結構大変なのではないかと当初は思っていたのですが、譜読みの面では意外に苦労せずに進みました。 この曲は右手第1指で隣り合う白鍵2音、黒鍵2音を押さえる部分があり、 手の大きさは最低でも9度の広がりが必要な曲でしたが、当時の僕は既にこれらの和音を余裕をもって押さえられる手の大きさに成長していました。 中間部には両手のオクターブの半音階の乖離進行(途中から全音階)がありますが、 オクターブは上から余裕をもって押さえられたため、その点での苦労もありませんでした。 こうしてこの軍隊ポロネーズは当初の予想に反して、中学校2年生の始業式の前には通せるようになっていました。 これはいわば「嬉しい誤算」でしたし、「難易度Eの曲が弾けた」という達成感はかなりのものでした。

軍隊ポロネーズはOp.40-1という作品番号ですが、それならその次のOp.40-2のポロネーズはどのような曲か、 皆さんはすぐに思い浮かべられますか?軍隊ポロネーズの陰に隠れて地味な存在かもしれませんが、 実はこの作品40の2つのポロネーズは性格的には正反対で、ショパンの祖国ポーランドの繁栄と衰退を現したものたと言われています。 軍隊ポロネーズが威風堂々とした軍隊行進曲風のポロネーズであるのに対し、その次のOp.40-2のポロネーズは欝々とした悲壮感漂う暗い暗いポロネーズです。 「ピアノの詩人」というのがショパンの呼称として一般的に知られていて、ショパンの作品にはどんな劇的な作品にも「詩」を感じさせる部分が 必ずと言っていいほど垣間見られますが、この軍隊ポロネーズにはそのような要素は微塵もありません。 これは僕自身の私見ですが、Op.40-1の軍隊ポロネーズとOp.40-2のハ短調のポロネーズは、独立したものというよりも、 ポーランドの栄光と衰退の歴史を音で描いた作品ということで、2曲でワンセットと見た方が良さそうな気がします。 そうすると、その一部としての軍隊ポロネーズにショパン特有の詩情豊かな部分が全くないのも理解できるというものです。

ところでショパンは今でもポーランド人の誇りであり「英雄」であることは皆さんもご存知だと思いますが、 実は地元ポーランドの古くからあるテレビ放送では、オープニングに軍隊ポロネーズが流れているということです。 軍隊ポロネーズはオリジナルのピアノ曲だけでなく、後年、管楽器用の合奏用に編曲もされて、親しまれているということです。 これはショパンという作曲家がいかにポーランド国民に親しまれているかを示す事実ではないかと思います。

この軍隊ポロネーズは全音ピアノピースでは難易度Eとなっていますが、実際にはそこまでの難易度はないと個人的には思います。 それでもこの曲は決して易しい曲ではないことを付け加えておきたいと思います。 16分音符の小刻みな和音進行で旋律をきちんと際立たせなければなりませんし、その間、左手の和音連打も きちんと均質なタッチで弾かなければならず、手首を柔軟に保った上での正しい奏法が必要になります。 しかも冒頭第1小節目から左手の和音が9度になり、しかも9度の和音の16分音符の連打になっています。 手が小さい方はここを見ただけで「もう無理」と断念した人ももしかしたらいらっしゃるかもしれません。 その他、16分音符の3連符による同音連打というのも、きちんとした音価でしっかりと鳴らすには、 やはり十分な脱力とある程度の手首のスナップ力が必要と思います。 和音ばかりの曲ですが、和音の配列によっては弾きにくい部分もそれなりにあるので、そこを集中的にさらう必要もあります。 中間部には右手に16分音符の3連符のトレモロ風の音型が出てきて、これをしっかり弾くのは結構難しいと思いますし、 左右のオクターブの半音階・全音階の乖離進行をしっかりと的確に打鍵するのも課題です。 そして中間部後半は両手のトリルの後の32分音符のユニゾンの後の跳躍、16分音符のユニゾンの後の跳躍など、 慌てずにしっかりと弾くための特別な運指もあり、いい加減に弾くと汚くなる部分です。 この曲は和音が複雑で意外に音の数が多いので最初は大変で戸惑う方も多いと思いますが、 この曲は繰り返しが多く、これらの楽句は曲の中で繰り返し使われているため、改めて練習する部分は少なく、 弾いているうちに自然に弾けるようになってしまう曲だと思います。 だから最初だけ気合を入れて練習して弾けそうだという感触がつかめれば、そのまま弾けるようになる可能性が高いと思います。 くじけずに頑張ってほしいと思います。

この曲もこれまでの「奮闘記」と同様に、人前で弾くチャンスがやってきました。 中学校2年生がまだ始まったばかりの音楽の授業が終わった後でした。 僕がピアノを弾くという事実は僕を知る人だけでなく学年全体、先生たちにも知れ渡っていたこともあって、 僕がいる場でピアノの前に群がったときに真っ先にピアノの前に座らされるのは決まって僕でした。 僕は音楽の先生とクラスメート10数人を前にしてピアノに座り、この軍隊ポロネーズを通して弾きました。 その3か月後に弾いた革命のエチュードほどのインパクトを与えることはできなかったようですが、 音楽の先生をはじめ、皆が口々に「すごいね〜上手だね」と驚嘆していました。 これが、中学校2年生の時の音楽の先生やクラスメートの前での初デビューとなりました。 その点でも、この軍隊ポロネーズには特別な思い入れがあります。 中学校2年生時代は、その後、革命のエチュードや幻想即興曲、ベートーヴェンの「悲愴」ソナタなど 様々な難曲を次々に制覇しては学校で披露することになったわけですが、 その第1号となったのが、この軍隊ポロネーズだったわけです。

僕にとっての初ショパン・・・この後、僕は堰を切ったようにショパンばかり弾き続ける生活が始まりました。 初ショパンとしては非常に珍しい曲だと思いますが、この曲に関する様々なエピソードも良い思い出となりました。 今でも心の中で大切にしている作品です。

初稿:2016年1月29日
最終更新日:2016年1月30日

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