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霧と闇と街灯に包まれた、空間を越えて存在する街を彷徨っていた。
時間の概念を奪われた街は今が昼なのか夜なのか夜明けなのか黄昏なのかもわからない。
全てが存在し、全てが失なわれている街。その中にいる俺もまた存在し、幻でしかない。

今となっては何の為に、何を求めていたのかもはっきりとはしない。
そこは木漏れ日の温もりではない、肉体の温もりでもない、居心地の良い監獄。
欲しいと思えば、手を伸ばせば、求めるモノは与えられた甘美なる地獄。
まるで熟れた果実。触れれば崩れ落ちる腐った果実。臨界を越えた狂った世界。
とろけるような世界に、ゆっくりと俺は蝕まれていた。そこは、俺の世界の全てだった。
だが、幼年期は過ぎた。柔らかい世界のカタストロフィだった。

籠の中の鳥は、金網越しの空を自分の空と勘違いして飛び出すのだ。
与えられた世界の王である事を知らず、自分が世界の王だと思い込んで…

人間だろうと超人だろうと叩き潰し歩いた。
街灯に照らされた街を彷徨った。
振り下ろす拳に骨の軋み、砕ける音を覚えさせた。
蹴り続ける足に肉の悲鳴と内臓の破裂音を刷り込ませた。
腱を引き裂く音、関節を破壊する音、マスク越しの返り血の音。
闇に包まれた街を彷徨った。
振り下ろした拳は白い骨を覚え、砕ける音を覚えさせた。
蹴り続けた足は赤い肉を覚え、内臓の破裂音を刷り込ませた。
腱を引き裂く感触、関節を破壊する触覚、マスク越しの返り血の匂い。
霧が支配する街を彷徨っていた。
拳が血に染まり、足が紅く染まり、返り血の味を覚えようと、心が満たされることは無かった。

歪んだ世界であったとしてもそこは楽園だったのだ。
籠の鳥は、例えの望んだとしても、もう元の籠には戻れない。

この街には朝日射す場所などどこにも無いのか?
拳を振り下ろす度に俺は虚無の光を感じた。俺の身体に流れる血族の光。
この街には光射す場所など何処にも無いのか?
足で蹴り続ける程に俺は孤独の闇を感じた。俺の心に刻まれた深遠の闇。
拳が、足が血に染まり、浴びた血が体臭になる程に、俺は独りになる。
光を感じる程に、闇を感じる程に、俺が俺で無くなっていく。
薄闇の中を歩く、光も闇も曖昧模糊とした霧の中を歩く。
誰か、光を当ててくれ。俺の中の闇を照らしてくれ。
誰か、闇に突き落としてくれ。俺の中に光を見出させてくれ。
誰か、誰か、誰か。俺が何者かと叫び続けた。



そんな時だった。
男は霧と闇と街灯に包まれた空間を越えて存在する街に現れた。
男は、昼も夜も夜明けも黄昏も全てが存在し、失なわれた街に現れた。
男の瞳に浮かぶのは夜明けの閃光、黄昏の名残。
その瞳は俺の全てを包み込む純白の闇。
その瞳は俺の全てを塗り潰す漆黒の光。
俺を照らす光、俺を包み込む闇。
俺が俺であるために存在する者。

昼も夜も夜明けも黄昏も、全てを鳥は手に入れたのだ。
鳥はもう、籠を思い出すことは無い。無限の空が広がる、そこが楽園。

俺が与えるものは背徳の悦び。
彼は、俺の半身。
俺が与えられたものは絶望の中の未来。
彼は、俺の半神。





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