「酒場にて」

その店は駅から目と鼻の先にあるにもかかわらずいつもひっそりとしている。
大通りから一本裏通りに入ったビルの地下にある。看板もろくに出していない。
はじめて来た人はまず、テナントがあるとは思えないオフィスビルに入るのを躊躇うだろう。
自動ドアで中に入り、階段を下りる。大抵だったらここで住所を間違えたと思うだろう。
階段を降り切り、通路を左に見るとようやく、店らしい扉が現れる。
「The.Bar」
ひねりのない店名だ。
だがここは本当に穴場だけあった一人で飲みに来るには 最高だ。
騒がしい馬鹿な学生や外見だけを気にする自意識過剰な女やそれを目当ての男もいない。
中央にグランドピアノがあり、廻りにテーブル席が2つ。10人は並んで座れないカウンター。
店の広さからすれば倍の席は確保できるが敢えて空間を優先した配置にしてある。
カウンターの奥には地上から吹き抜けの坪庭があり、日本の古い石灯篭が鎮座している。
久しぶりの来店になってしまった。

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