今日の見回りはパーシヴァルと一緒だ。たったそれだけの事で胸を踊らせながら、ボルスは気分良く城内を歩き回っていた。仕事だけど、傍らに愛しいモノの存在があることが嬉しくて。
 レストラン付近を見回り、城内へと戻ろうかとしたボルスの耳に、不意に子供達の甲高い声が耳の届いた。
「じゃんけんぽん!」
「ぱ・い・な・つ・ぷ・る!」
「じゃんけんぽん!」
「ち・よ・こ・れ・い・と!」
 聞き慣れた、だけども聞き慣れない感じで単語を叫ぶ幼い声に首を傾げながら声のした方へと顔を向ける。するとそこには、城に続く長い階段付近に集まった子供達がジャンケンをし、聞き慣れた単語を口にしては数段昇り、またジャンケンをする。と言うことを繰り返していた。
 それはボルスにとって初めて見る光景だ。子供達がナニをやっているのか見当もつけられない。
 だから、自然と傍らの男に問いかける。自分の疑問に、いつも答えてくれる男に。
「あれは何をやっているんだ?」
「ああ、階段で遊んでるんだ。じゃんけんして、勝ったものの勝った出し手によって階段を上がる数が決まるんだ。一番始めに上まで登り切ったモノが勝ち。そう言う遊びだ。」
 ボルスの問いに視線を流したパーシヴァルは、なんでも無いことのようにそう答えてきた。
 やはり彼は知っていたのか。なんでこの男はこうも博識なのだろうかと内心で呟きつつ、ボルスは更に問いかける。
「勝ち手?」
「ああ。パーならパイナップル。チョキならチョコレートと言う感じでな。言葉は地方によって違うかも知れないが、その勝ち手に通じるような言葉を選んで、その言葉の数だけ階段を上れるんだ。」
「なるほど。」
 なんとなく状況が分かり、ボルスは軽く頷いた。
 そのボルスに、パーシヴァルは更に説明を付け加えてきた。
「パイナップルだと六段で、チョコレートでも六段だな。この二つで勝ってもそう差が出ない。」
「全部食べ物なんだな。では、グーは?グランマニエとかか?」
 それだと同じ段数だ。いや、しかしそれは酒だから子供の遊びには適さない名前だろうか。それに、全部が全部同じ段数だとなんの競争にもならないのではないだろうかと、首を捻る。
 いや、所詮は子供の遊びだから競争的要素は無いのかも知れない。
 そんな事を考えていたボルスに、パーシヴァルが軽く首を振り返してきた。
「いや、グーは・・・・・・」
「ぐーりーこっ!」
「・・・・・・・・・・だ。」
 聞えてきた甲高い声に、パーシヴァルは苦笑を浮かべながらそう付け加えた。
 途端にボルスの眉間に皺が寄る。
「グリコ?なんだ、それは。食い物か?」
 まったくもって聞き覚えのない単語にそう問いかければ、パーシヴァルはちょっとだけ困ったような顔を返してくる。
「さあな。昔からこの地方ではそうなんだよ。理由はわからん。」
「はぁ・・・・・・・・・・・子供の遊びというのは良く分らないモノだな。それに、沢山ある。」
 この城に来て、それまで身近に居なかった子供達の様子を見て実感していたことを思わず呟いた。
 知れば知るほど、その遊びの多さに驚かされる。似たようなものでも微妙にルールが変わり、遊び方も変わってくる。あれだけ多くのルールを子供達がよく覚えている物だと、感心してしまう。自分には真似出来そうもない。
 眉間に皺を寄せているボルスの内心を読んだのか。傍らでパーシヴァルが軽く笑いを零した。そして、どこか優しさの混じる口調で問いかけてくる。
「お前は何をして遊んだんだ?」
「子供の頃にか?」
「ああ。」
「そうだな。・・・・・・・・・・・チェスをしたりとか。」
 問われ、過去を思い出しながらそう答えれば、途端にパーシヴァルの眉間に皺が寄った。
「・・・・・・・・・・・そのわりには旨く無いな。」
「うるさい!あれは俺にはむかないんだ!」
 本当のことを言われて羞恥心を感じ、それを誤魔化す為に怒鳴りつければからかうような笑みを向けられた。
「まぁ、そういう事にしておいてやるよ。」
「おい、どういう意味だ!」
 馬鹿にするような。軽くあしらうような口調に食ってかかれば、子供をあやすような仕草で頭を軽く叩かれた。
 そして、ボルスよりも高い位置にある視線をボルスのそれと合わせるように軽く腰を折り、ニッコリと微笑みかけてくる。
「まぁ、ああ言うのは経験だけではどうしようも無いのかも知れないな。」
「・・・・・・・・・お前。さり気なく酷い事を言ってくるな・・・・・・・・・・・」
 苦虫を噛みつぶしたような顔でそう答えれば、クスクスと軽い笑い声を上げられた。そして僅かに折っていた腰を元の位置に戻したパーシヴァルは、いつものようにピシリと背筋を伸ばし、軽く首を傾げてきた。
「さて。いい加減見回りを続けるぞ。あそこから行こうと思っていたが・・・・・・・・・・邪魔するのも悪いから遠回りだ。」
「あ、ああ。そうだな。」
 城内の平和っぷりに自分が勤務中だと言うことを忘れていたボルスは慌てて意識を引き締め、軽く頷く。そんなボルスの態度をどう受け取ったのか、パーシヴァルが意地悪く口角を引き上げて見せた。
「なんだ?混ざりたいのか?」
「なっ!そんなこと、あるわけないだろう!馬鹿にするな!」
 予想だにしていなかった切り返しに無意識の内に顔が紅潮し、怒鳴り声を上げていた。そんな反応を示したら図星をさされたと思われても仕方ないというのに。
 案の定、パーシヴァルはそう思ったらしい。それまで以上に楽しげに笑いを零しながらボルスの肩を叩いてきた。
「分かった分かった。今度暇な時に有志を募って遊んでやるよ。だから今は仕事に集中しろ。」
「だから、俺は!!」
「置いていくぞ。いつまでも騒いでいるな。」
「バーシヴァル!!」
 ボルスの言い分も聞かずにさっさと歩き去る同僚を慌てて追いかけた。冗談めかして言っている言葉であるが、このまま放って置いたら本当にそんな段取りを取りかねないのだ。この男は。
 何しろ、ボルスをからかうことに生き甲斐を感じているとしか思えないのだから。下手したら、子供の中に放り混まれる事になりかねない。
「俺は、そんなことしたいなんて言ってないからなーーーーーっ!」
 心からの叫びに軽く笑い返される。
 そんなパーシヴァルにまた怒鳴り声を張り上げる。
 通り過ぎる人達が何事だとこちらに眼を向けてきたけれど、気にしないで。
 そんな、回りからみたら馬鹿以外の何物でもないやり合いを出来る今の時間が、ボルスにはたまらなく嬉しかった。


























なんでグリコなのか。私にも分からない・・・・・・・・・・









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