ブラウン管の中から流れ出る下らないトーク。
 時間が経てば経つ程その中身が薄っぺらくなっていく気がする。
 それを見たいわけでも無いのに、聞きたいわけでもないのに、何故かダラダラと流し続ける。
 番組の切れ間はあるのに、画面を消す気が起きない。
 眠れない暗闇の中の静寂が耐えられなくて。

 一人で居ると、下らない事を考える。
 静かな場所だと、聞きたくない音が頭の奥で響き出す。
 その音が聞えてきそうな予感を感じて、深々と息を吐き出した。
 忘れよう。もう関係無いと、毎日のように胸の内で呟く。
 それでも忘れられないのは、未練がありすぎる程あるからだろう。
 そんなモノは無いと言い張っても、心の奥底にある思いを誤魔化す事は出来ない。

 鬱々と考え込んでいたら、ブラウン管の中から大きな笑い声が沸き上がった。
 何があったのかは分からない。
 だが、その溢れ出た品の無い笑い声が癪に触った。

 今の自分を笑われているようで。

 そう思うと、イライラが頂点に達した。
 画面に向って投げつけようと思い、手近にあったリモコンを振りかぶる。
 だが、投げる寸前に思いとどまった。
 モノに当たっても仕方のない事だから。
 無駄に暴れてモノを壊したら、翌日自己嫌悪に陥るだけだ。
 怒りなのか悔しさなのか、それとも悲しみなのか。
 自分にも良く分からない感情で身を震わせながら、ようやくテレビの電源を消した。
 その途端。室内に静寂が満ちた。
 聞えるのは、時を刻む硬質な音だけ。
 ボンヤリしながら、その唯一と言っても良い音に耳を傾ける。
 一定のリズムを刻む音。
 カチカチという音は、いつの間にか脳内で変換され、聞き慣れた。だけで今はもう聞く事の無くなった音へと、移り変わる。

「・・・・・・・・ちっ!」
 
 その音を振り払うように頭を大きく振りながら、勢いよく腰を上げた。
 そして、適当に投げ捨ててあったジャケットに袖を通して部屋を出る。
 家族は皆寝ているだろうが、そんな事を少しも気にせず、大きな音をたてて扉を締めてやった。
 その音で、無意識に自分の存在を主張している事に気づきもしないで。

 外に出ると、冷たい風が全身に吹き付けてきた。
 その風に、ほんの少しだけ身をすくめ、吹き付ける寒さから己の身体を両腕で強く抱きしめた。
 そうしながら視線を辺りに向けると、どの家も電気が消され、人の気配が窺えなくなっていた。
 時々どこかで犬の吠え声が聞えるけれど、生き物の気配は、それだけ。
 ポツンポツンと立っている街灯の明かりが妙に寒々しい。
 その寒々しさに、自分がこの世の全てから見放されているような錯覚に陥った。

「・・・・・・・・・・けっ!」

 小さく吐き捨て、歩を進めた。
 深夜番組と同等に下らない場所に向けて。
 あそこにも自分の居場所は無いけれど。
 それでも、人肌がある分、まだましだと、思うから。


























居場所が欲しい。










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深夜番組