己の親指と親指。人差し指と人差し指をくっつけて、目の前に三角形を作った。
 そして、その三角形の中に見える風景をジッと見つめる。
 手前に流川。傍らにボール籠を置き、黙々とシュート練習をしている。
 奥に桜木と晴子。桜木が夢中で話しかけているが、晴子の視線は微妙に流川に向いている。
「三角関係・・・・・・・・・・か?一応。」
 桜木は晴子が好き。晴子は流川が好き。流川は・・・・・・・・・・・・・・・
「桜木を好きだったら、上手く回るんだけどな・・・・・・・・・・・」
 これこそ本当の三角関係だ。
 なのに何故、そうではない物が三角関係と言われているのだろうか。
「繋がってねーからただの線じゃねーか。」
 何となく納得が行かない。
 やはりここは綺麗な三角を作るために、流川の気持ちを桜木に向けるべきだろうか。
 そんなことを思い、二人の仲を取り持つにはどうしたら良いか考えてみた。
 まず大事なことは、流川に桜木の良さを教え、理解させることだ。
「桜木の良いところか・・・・・・・・・・」
 馬鹿で単純。おだてたら乗りやすく、どこまでも突き進む。頭は悪いが性根は真っ直ぐで人を労る気持ちも知っている。一度惚れたら惚れ抜きそうだ。ああ言うタイプに惚れられ、惚れたら幸せになれるだろう。
 が、流川がそんな幸せを求めているとは思えない。
 あの唯我独尊男は、惚れた相手が自分に惚れていようがいなかろうが気にせず突き進みそうだし。
「一番厄介なタイプだよな・・・・・・・・」
 惚れたらしつこそうだが、興味を失ったら掌を返したように冷たい態度を取りそうでもある。
 となると、奴に惚れられ、その気持に答える気が起きたならば、惚れさせ続けるように努力しないといけないわけだ。
「・・・・・・めんどくせぇ・・・・・・・・・・」
 そんな奴とは絶対につき合いたくないな、と思いながら、再度『流川が桜木に惚れるようにしよう』計画を練り始める。
 流川の生活の中心はバスケだ。バスケが下手な奴には目もくれない。あれだけ女に騒がれていながらも女に目もくれないのは、彼女たちがバスケに結びついていないからだろう。その点で桜木はなんとか視界に入っている。
 素人のくせに時々ハッとするプレイを見せたりするのだが、そんなときは流川も見ているし、試合中や練習中にちょっかいをかけるのは興味があるからだろうから見込みはあるはずだ。
 では、どうやってその興味を恋心に持っていくか。ソレが問題だ。
「・・・・・ってか、なぁ・・・・・・・・・・」
 仮にカップルになってしまったときの事を考えると、ちょっと怖い。
 と言うか、想像出来ない。
 二人がベッドで絡み合っているシーンは。
「・・・・・・・・・・どっちが女役だ?」
 それが分からないから大いに悩む。
 いくら惚れていても流川は桜木にケツを差し出しそうに無いし、桜木は未知の体験に驚き暴れて手を付けられなくなりそうだ。ああ見えて結構喧嘩に強い流川ではあるが、桜木を相手にするのならば、白いシーツの上に飛び散る血痕の意味が違うモノになってしまうだろう。
 だからこう考えた。まずはどちらかに受け入れる時の心構えを叩き込む必要があるのだろうか、と。
 が、よくよく考えれば自分の目指す物は三角関係だ。綺麗に線が繋がった三角関係を築くためには、流川と桜木の二人にカップルになられてはマズイのだ。
 その事に気付き、考えを改めたる。
 やはりまずは、流川が桜木に惚れるようにしなければ。
 考え込んでいた三井の頭上から声がかかったのは、ようやく決まった今後の方針に大きく頷いているときだった。
「・・・・・・・・・・さっきから何難しい顔をしてんすか?」
 その声に視線を上げれば、そこには訝しむような瞳をした宮城の姿があった。その彼に、三井はニッコリと微笑みかける。これ以上ないくらい上機嫌な自分を隠そうともせずに。
「あん?・・・・・・・ちょっと正しき三角関係についてな。」
「・・・・・・・・・・はぁ?何言ってるんすか?」
 訳が分からないと言いたげな宮城の様子に三井はただただ笑い返す。思い切り何かを企んでいる笑みで。
「まぁ、見てろって。・・・・・・・・・・・・取りあえず、まずは特訓だな。おいっ!桜木っ!」
 呼びかけに、晴子との楽しいひとときを邪魔された桜木が不機嫌を露わに振り返った。
「・・・・・・・・なんだね、ミッチー。俺は今ものすごく忙しいのだよ。」
「良いから来い。1On1やろうぜ。」
 その誘いに、言われた桜木だけでなく、部員全員が驚きに目を見張った。
 そんな事を気にもかけずに、三井は不敵な笑みを浮かべて見せる。
「・・・・・・・・・まぁ、俺様に負けるのが恥ずかしいって言うんなら、無理に誘わねーが?」
「なんだとっ!この天才に向かってっ!」
 面白いくらい簡単に反応をしめした桜木が大股で三井の傍らまで歩み寄ってきた。そして、気の弱い人間ならその場で気絶しそうな程凶悪な瞳で睨み付けてくる。
 そんな桜木に、三井はニヤリと、口角を引き上げた。
「だったら来いよ。いっちょ揉んでやっるぜ。」
「うるせーーーっ!ぜってー負かしてやるからなっ!」
 すかさず怒鳴り返してくる桜木の言葉を合図に、珍しい対戦が始まった。
 その様を流川が追っている。だが、その流川の眼差しは、三井が期待する物とは様子が違った。感情を掴み取るのが難しい色の瞳だからいまいち良く分らないが、なんだか妙に桜木に対して敵意を抱いているような瞳をしている気がするのだ。
 時々自分の事も掠める流川の視線も妙に強く、三井は軽く首を傾げた。いったいなんなのだろうかと。
「でもまぁ、桜木の相手をするのも面白いから、良いか。」
 そう内心で呟いた三井は、桜木との勝負に集中していった。
 流川の視線に込められた思いなど、考えもしないで。



 そして、二人の勝負は三井が大勝して幕が下りた。当たり前な事ではあるが、その結果に三井は大いに満足した。
 三角関係は、未だ線のまま、三角になる兆しが見えなかったけれど。























流川は三井が好きなのね。












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三角