目の前に差し出された、綺麗な包装がされた小さな箱。
 それにジッと瞳を向けた後、それを差し出している少女へと、顔を向けた。
 いや、少女というのは語弊があるかも知れない。
 バッチリ化粧が施された顔には若さが無く、少なく見積もっても25.6にしか見えない。今現在高校の校内に居なければ。高校の制服を着ていなければ、彼女が自分と同年代だと言うことに気付かなかっただろう。
 まぁ、それは良い。香水臭い女も化粧が濃い女も好きではないが、自分と関わりのない所でやっていてくれるのならば、一々騒ぎ立てる事はしない。自分の彼女がそうだったのならば、罵詈雑言を放つかも知れないが。
 そもそも、自分がそんな女を彼女にする事はあり得ないだろうと、三井は思う。化粧美人など、連れ歩きたいとも思わないから。
「・・・・・・・あの、三井・・・・・・・・・君・・・・・・・・・?」
 返事の無い三井に焦れたのか、目の前の女が怖ず怖ずと声をかけてきた。
 妙におどおどした態度に苛立ちが募る。怖がる位なら声をかけて来るなと、怒鳴りつけたくなるのをグッと堪える。
 彼女がそう言う態度を取るのは仕方の無いことなのだ。何しろ三井は、ついこの間まで不良グループに属していたのだから。グループを抜けた後でも、強面の男とつるんで歩いている。怖がるなと言う方が無理なのかも知れない。
 だから、好き好んで三井に声をかけてくるものはそういない。未だにクラスメイトから距離を置かれている。
 目の前の女もそのクラスメイトの一人なのだが、今はそんな怖さに戦いていられない程にこの小さな箱の事が大切らしい。
 三井は再度瞳を女からその箱へと移した。
 両手にすっぽりと入る位の大きさのその中に、どれだけの重い思いが込められているのだろうか。
 考えただけでも気分が悪くなる。
 歪みそうになる顔を理性で押しとどめ、胸中とまったく違った表情を浮かべて見せた三井は、バスケ部員には滅多に聞かせない優しく、どこか甘味の混じる声で言葉を発した。
「・・・・・・・・分かった。良いぜ。」
「えっ!」
 女の顔が三井の言葉を聞いた瞬間に朱色に染まり、驚きの声がしっかりとルージュの引かれた口からこぼれ落ちる。
 顔が朱色に染まったのは喜びのためか、三井の声に反応してか。
 どちらにしろ、三井には関係の無いことだ。乱暴にならないよう、女の手から小箱を受け取った三井はニッコリと、男相手には絶対に見せないであろう愛想の良い笑みを浮かべてみせる。
「今日は丁度部活に行こうと思ってたからな。その時に渡しておくわ。」
「・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・ありがとうっ!!!」
 喜色を露わに声をヒックリ返す女に薄く笑みを返し、話は終りだと言わんばかりに身を翻す。
 女の視線が、その三井の背に突き刺さる。多大な期待を込めた視線が。
 その視線に、女から自分の顔が見えないのを良いことに盛大に顔を顰める。
 校舎の角を曲がり、女の視線を振り切ってから、三井は手にしていた小さな箱を放り上げた。ゆっくりと落ちてくるソレを片手で掴み、握りつぶしたくなる衝動を堪えて唇を歪める。
「・・・・・・・・渡してやるさ、一応な。」
 自分に頼む位なのだから、その思いはかなり強いのかも知れないし。
 普通、思いが強いのならば本人に直接渡しに行くと思うのだが、コレを渡すべき本人に直接持っていっても断られる事は確実だから。だから、受け取って貰いたいだけならば第三者の手を借りた方が可能性が高いと考えたのだろう。
 その第三者に三井を選んだのは、なんでのか。クラスメイトと言っても彼女と三井には何の接点も無い。言葉を交わした記憶さえない女だった。ならば、木暮辺りに頼んだ方が彼女も気が楽だったろうに。
 だが、そんな事を考えても意味はない。今現在、彼女の思いの結晶は自分の手の中にあるのだから。
「・・・・・・・・迷惑な話だぜ・・・・・・・・・・」
 なんで自分がこんな橋渡しをと、思う。だったら断れば良いだけの話なのだが、三井はあえて引き受けたのだ。
 それはコレを渡したときの反応が見たかったがために。
 女からの贈り物を持ってきた三井に対して、男が見せる反応を。
「さて・・・・・・・・・・どう出るかな・・・・・・・・・・・」
 小さく呟く。男がどれだけ今日という日に送られるモノを回避する事が出来たのか、どれだけ受け取らざるをえない状況に陥ったのか。
 それを聞くのもまた、楽しみだ。
「まぁ、これで一つは確実だけどな。」
 もう一度小箱を放り投げて呟く。
 箱の中でカタカタと軽い音が鳴っているのを、耳に入れながら。






























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バレンタイン