名前
目の前で黙々と3Pの練習に励む三井の綺麗なフォームを見ながら、宮城はボンヤリと考えていた。
三井
ミッチー
三ちゃん
もっと細かく分ければ「君」とか「さん」とか「センパイ」とか。
この人に対する呼び名は誰よりも多い気がした。
いや、考えてみたら赤木も「ゴリ」だの「旦那」だのと呼ばれているのだからとりたててあだ名が多いわけではないのだが。とは言え、三井が「ミッチー」だの「三ちゃん」だのという呼び名で呼ばれる事を享受している事が不思議でならない。
そりゃあ、最初は嫌がっていたけれど、それはホントに最初だけで。後は二つも年下の桜木や桜木軍団に呼ばれてもなんとも思っていない様子だ。
よくよく考えると、堀田は最初三井の事を「三井君」と呼んでいたはずだ。それがいつの間にか「三ちゃん」に変わっている。
その呼び名に嫌そうな顔はしていても、呼ぶなと怒鳴りチラしている姿はそう見かけない。さすがに試合の応援時には恥ずかしそうにしているが。最初の内は。
そう呼ばれる事に慣れたのか、はたまた怒っても無駄だと気がついたのか。
そう言えば、桜木は最初この人の事を「女男」と呼んでいたなぁ。
と、思ったところで目の前にボールが飛び込んできた。それも、結構な早さで。
「うわっ!あぶねーっ!」
「あぶねーじゃねー。てめーもさっさと練習しろよな。いつまでもボンヤリしてねーでよ。」
間一髪で避けたら、不愉快そうに眉間に皺を寄せた三井にそう言われてしまった。
「・・・・・はいはい。スイマセンね。」
そんな三井に適当に返事をしながら、宮城は自分の脇を通り過ぎて壁に当たり、傍らに転がり戻ってきたボールを手にして軽くドリブルしながら、三井の傍らまで歩いていく。
そして、彼の隣に立ち止まると、スッとボールを構えた。
驚いたように軽く目を見張る三井の目の前で、宮城は軽くボールを放つ。
体育館の中に、ボールがバックボードにぶつかる音と、リングに跳ねる音が響いた。そして、その後には床にボールが跳ねる音が、こだまする。
ネットの音は、コソともしない。
「・・・・・・・・下手くそ。」
「うるせぇ。」
揶揄するような笑みと言葉に、ムッと顔を歪ませる。
「修行が足りねーなぁ。得意な事ばっかやってるからだぜ。」
笑いながら傍らにあるボール籠から一つボールを取り出した三井は、何の気負いも無くボールを放る。
すると、サクリと。ネットを揺らす音と、落ちたボールが弾む音だけが体育館の中に響き渡った。
「・・・・・・・・完璧。さすが俺様。」
ニヤニヤしながらもう一つボールを手にした三井から、宮城はボールを奪い取った。
その行動に唖然としてこちらを見つめてくる三井に、宮城はニヤリと笑み返した。
「俺にも3Pが入るコツを教えて下さいよ。ミッチー。」
「誰がミッチーだ。」
ふざけんなと怒鳴りながらも丁寧に教えてくれる三井の様子に、笑みが浮かぶ。
一度懐に入れてしまったら、その相手に対してかなり寛容なのだろう。彼は。言葉や態度では怒っているようでも、多分見た目程怒っていないのだと、思う。
そんな彼だから、皆親しみを込めて呼び名を付けるのだろう。
「・・・・・・・・三井サン。」
「あん?」
軽く首を傾げて見つめ返してくる三井に、宮城は小さく首を振った。
「何でもないっす。」
「なんだ、そりゃ。・・・・・・・・・ほら、無駄口叩いてないで、次やれ。」
「はいはい。」
偉そうだなぁと呟きながら、練習を始める。
自分の呼び方にも、こだわりがあるんですよ。と、胸の内で囁きかけながら。
あのカタカナ表記には何かポリシーを感じました。はい。
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