自分達を取り囲む敵に、休む間もなく剣を振り下ろす。
 休んだら死が目前までやってくる事が分かり切っているから。
 敵はさほど強くない。
 一対一での勝負なら、30秒とかけずに切り伏す事が出来るだろう。
 だが、今は一対一ではない。
 次から次へと新たな敵が現れるのだ。
 どこにこんなに人が居たのだろうかと、言いたくなるほど。
 
 どれだけの人間を切り捨ててきたのか、既に自分でも分からない。
 分からないが、付いた血脂を拭うことも出来ない己の武器の切れ味が鈍ってきて居ることから、そうとうの数を切っていることがうかがい知れる。
 今の自分の戦い方は、切ると言うよりも殴っている様なものなっているから。
 自分と背中を合わせて戦っている男も同じ状況だろう。
 自分よりも腕力がない分、彼の方が戦いづらくなっているかもしれない。
 彼の細身の剣では、敵を殴り殺すのは難しそうだから。
 辺りに血臭が立ちこめ、足元を赤黒い液体が濡らす。
 それに足を取られないように戦うのは、なかなか骨が折れた。

「さっさと終わらせねーとな・・・・・・・・・・」

 自然に言葉が漏れた。
 この程度の敵にやられる気はさらさらないけれど、数を相手にすれば疲労が溜まる。
 疲労が溜まれば動きが鈍くなり、隙が出来る。
 隙が出来たら、いくら十把一絡げの兵達にもやられかねない。
 そんなこと、ゴメン被るというモノだ。
 だが、敵はそれを狙っているのだ。引くわけがない。
 どれだけ被害が出ようとも、自分と相棒を仕留めることが出来れば大成果だから。
 分かっているから、余計に負けられない。

「・・・・・・・・・・・・・っ!」

 背後で小さく息を飲む声が聞えた。
 その声にチラリと視線を投げれば、相棒の腕から赤い液体が滴っているのが見えた。
 それを見て、眉間に皺が寄る。
 
 相棒を傷つけた敵に怒りを感じて。
 
 こんな敵に遅れを取った相棒に、腹が立って。
 
 だが、感じた怒りは自分よりも相棒の方が強かったようだ。
 背後の気配がガラリと変わる。
 それまで波一つ立っていない湖面の様に穏やかだった彼の気配が、嵐の中の湖の様に荒々しいものへと。
 自分だけでなく、その気配の変化に敵も気付いたらしい。
 ビクリと身体を震わせ、僅かに身を引いている。
 その怯えを感じたのだろう。相棒の口から小さく笑みが零れた。
 その引き上げた相棒の唇の隙間から、牙が見えた気がした。
 いや、実際に牙は剥かれているのだ。見えない牙が。
 眠れる獅子が起き出し、ゆっくりと足を踏み出すように、相棒が剣を握り直す。

 相棒が本気になった。

 牙を剥き、敵を見据える。
 これでもう、奴らの祈りはあと僅かであると決まった。
 彼を本気にさせなければ、あと10分か20分は長生き出来たと言うのに。

 蛇に睨まれた蛙の如く、敵共はみな、その場に凍り付いた。
 いや、彼等にしてみれば目の前の相手は蛇どころのレベルではないだろう。
 蛇などよりももっと強力な恐ろしいモノ。
 竜のように圧倒的な強さを持つモノに、相棒は変化している。
 その相棒に見据えられ、動けるわけがない。

 スッと、相棒の細身の剣が流れた。
 それと同時に、三体の敵兵が床に倒れ伏す。
 固い鎧に覆われた胴を寸断されて。
 嘘のように切れ味の良い攻撃に、敵の包囲が後退した。
 それを視界に納めながら、相棒が口の端を持ち上げ、瞳を僅かに細めてみせる。

 獲物を狙う獣のような眼差しを、敵に向けて。
 紋章の力が行き渡った彼の剣が動くたび、青白い光が残像を残す。

 人を屠るために宿された力。

 彼のむき出しになった牙。

 何よりも恐ろしいモノのはずなのに、その美しさに見惚れてしまう。
 虎の牙よりも物騒な代物だと思うのに。

「・・・・・・・・お前にばっか、良いところを持っていかせるかよ。」

 呟き、自分も剣を振るう。
 彼よりも物騒ではないが、それでも強い力を持つ己の牙をむき出すように。

























r竜どころでは無いくらいな牙を持っていそうですが。あの人は。










竜の牙