船縁から海を見ると、船がいつもより深く沈んでいる事が分かる。
 ついさっき補給を終えたばかりなのだ。それは当たり前のことだろう。
 食料も水も酒も日用品も大工道具も医薬品も、これ以上無いくらいに揃っている。倉庫の中には物が所狭しと詰め込まれている状態だから、今がこの船で一番重い時なのだ。いつも以上に深く沈んでいるのは当然のことだろう。
 そんな、これ以上ない位に深く海に沈んでいる船を見ながら、煙を一筋吐き出した。そして、力無い呟きを漏らす。
「・・・・・・・・・深みにはまってるよなぁ・・・・・・・・・・・・」
 こんなつもりは無かったのだ。こんな、深みにはまる気は。
 最初に彼の手が伸ばされたとき、一回くらいならば犬にかまれたような気分で好きにさせておくか、位の軽い気持ちだったのだ。自分も長い航海で結構溜まっていたし、初めてというわけでもなかったから。
 純情ぶって拒否するのも馬鹿らしかった。断れば斬り殺され兼ねない気配があった事だし。
 別に彼の気配にビビッたわけではない。いつもより殺気立っていたが、恐怖する程のものでもなかった。だが、その態度に腹を立てて喧嘩をふっかける気にもならなかった。断って夜中に喧嘩して、ナミに怒られるのは嫌だったから。
 だから大人しく言うことを聞いておいたのだ。どうせこんなことはこれっきりだろうからと、そう思って。男の身体なんか、抱いても楽しくないだろうから。
 そんな風に、大した抵抗もなくあっさり頷いてしまったのが悪かったのか、それから何度も誘われた。一度受け入れたものを拒否するのは難しく、結果として何度も肌を合わせる事になった。
 島に着き、綺麗なレディと遊んでくれば「やはり男よりも女の方が良い」と思い、こんな馬鹿げた行為を止めるだろと思っていたのだが、一向に止める気配を見せない。
 今更、
「仲間同士がってか、男同士でコレはちょっとおかしくねー?」
 とは言い出せず、身体を合わせた回数が増えていく。最初は己の欲を突き入れる事だけに夢中になっていた奴だったが、行為に慣れて余裕が出来たのか、最近は組伏した相手の欲を煽る事に精を出している。
 性欲処理をしたいだけなら、そんなことをしなくても良いのに。まったくもって彼の行動は理解出来ない。
 そんな不可解な行動を享受し続けている自分自身のことも、不可解だが。
「・・・・・・・・下手に気持ち良いから悪いんだよ・・・・・・・・・・」
 思わずそう口走り、自分の言葉に苦さを感じてフィルターを噛み切った。
 ケツに突っ込まれてよがる自分に腹立たしさを感じるものの、一人でやるよりも気持ちが良いから拒むに拒めない。
 最初はともかく、今は痛みよりも快感の方が強いから、余計に。
「・・・・・・・・・はまってんな・・・・・・・・ホント・・・・・・・・・・」
 元の位置まで浮き上がりたいのに、浮き上がれない。何かが重く、のし掛かっていて。
 一体自分の中に何がつまっているのだろうか。さっぱり分からない。
「食べて飲む事で軽くなったら、楽なのによ・・・・・・・・・・・・・」
 この船のように。
 だが、何を食べて何を飲んだら軽くなるのかが、分からない。自分が管理している倉庫の中身を消費していく順番は、簡単に分かるのに。
 分からないから、何も出来ない。調理も出来なければ、食す事も出来ない。食す事が出来たら、今以上にはまっていたかも知れないが。
「・・・・・・・・・・・・ちっ!」
 懐から一本煙草を取り出そうとして箱が空だと言うことに気付き、小さく舌打ちをした。
 空き箱を忌々しげに握り潰して後方に放り投げれば、それは近づいてきた男の足先にぶつかった。
 その男にチラリと視線を投げ、煙草をくわえていない唇の端をニヤリと、引き上げる。
「陸に綺麗なレディは居なかったのかよ。」
「・・・・・・・・・てめぇには関係ねー。」
「そうか?大いにあると、思うけどな。」
 自分の足元を見付め、クククッと笑いを零す。
 何を言っても無駄なのだろう。この男は、自分を食す事を覚えてしまったから。簡単に、腹を満たす方法を。
 俯けていた顔を、ゆっくりと持ち上げる。
 挑むような瞳を、男に向けながら。
「・・・・・・・・来いよ。食わせてやる。」
 その言葉に、ゆっくりと伸ばされる手を目にして小さく笑う。
 食われているのに、何故軽くならないだろうか。
 軽くなるどころかより一層重くなる気がするのは、気のせいだろうかと、思いながら。





























こっそりとサン誕で。












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