最近、僅かな間が出来るたびに彼の姿を目で追ってしまう。何故かは自分でも分からない。何が切っ掛けだったのかも、分からない。
初めて彼のシュートフォームを見たときに、ブランクを感じさせない綺麗なフォームをしていたからかも知れない。体育館の中が騒がしいと思って走らせた視線の先に、必ずと言って良いほど彼が居たからかも知れない。
なんにしろ、目で追ってしまうのは確かなことだ。今もまた、向けた瞳の先に桜木をからかって大笑いしている彼の姿がある。
いつも本当に楽しそうだ。 馬鹿笑いをして、じゃれるように殴り合って、抱きついて。
そんな彼の姿を見るたびに、あまり動かない自分の顔がほんの少し動いている気がする。
そして、なんだかムカムカする。
何をしたわけでもないのに、抱きつかれた桜木を殴りつけ、宮城を引きはがしてやりたくなる。
なんでそんな事を思うのかは、分からないけれど。
10分の休憩時間。汗を流すために水場に向った彼の姿を見て、なんとなく自分も付いていった。
汗を流したかったわけでも、水を飲みたかったわけでもないけれど、なんとなく。
彼が使っている蛇口から二つ離れた蛇口を捻り、水を出す。折角来たのだから顔を洗おうと思って。
ばしゃばしゃと水の音だけが響く水場に、突然彼の声が響き渡った。
「おい。」
自分にかけられた声ではないかも知れないのに、思わず顔を上げた。
その途端、圧力のある水が顔面にかけられ、息を飲む。
何が起ったのか分からずに呆然としていたら、彼の楽しそうな笑い声が耳に届いた。
「うひゃひゃひゃひゃっ!鈍いな、流川っ!」
「・・・・・・・・にゃろう。」
呟き、未だに流れ出たままだった自分が使っていた蛇口に手を伸ばし、その指先で蛇口に栓をする。そして彼の方にほんの少しだけ隙間を作るようにしてみる。
「うわっ!てめーーーっ、やりやがったなっ!」
狙い違わず、大喜びしていた彼の顔面に水がかかる。途端に怒り出した彼が再び蛇口に手をかけてきた。
蛇口から手を放さない限り逃げられないので、その攻撃を甘んじて受ける。彼は大喜びしていたけれど、その彼も自分の攻撃に晒されて水を被り続けている。それなのに、彼は凄く嬉しそうに笑っている。
その全開の笑顔につられて自分の顔にもほんの少し笑みが広がった。
「こぉらぁっっ!!!!!!!お前等、なにやっとるんだーーーーーーーーーっ!!!」
「いてーーーーーっ!」
地を割りさく様な怒号が聞えたと思ったら、彼共々キャプテンに拳骨を食らってしまった。
その攻撃に、目の前に少々星が飛ぶ。
「まったく、ガキじゃないんだぞ。馬鹿な事をやるんじゃない。濡らしたところは責任持って拭いておけっ。分かったなっ!」
「へぇ〜へぇ〜。」
やる気の無い返事をする彼を睨み付けた後、キャプテンはさっさと立ち去った。どうやら自分達を怒るためだけにここに来たようだ。
折角のタノシイ気分がぶちこわされてなんとなく気分が悪くなった。外から見ても分からないのだが、大層仏頂面で水を止めていたら、傍らで彼が着ていたTシャツを脱ぎだした。
白く引き締った身体が露わになる。筋肉はあるけれど、自分に比べたらその身体は薄い。自分よりも二つも年上だというのに。同じ年でもキャプテンである赤木とは大違いだ。
「・・・・・・・・・なんだよ。」
Tシャツに染みこむ水を絞りながら、彼がそう問いかけてきた。その瞳には訝しむような色がある。それはそうだろう。ジロジロと身体を眺められたら、誰でもいい気はしない。 何か適当な言い訳を口にしないとと、端から見ても分からないだろうがこれ以上無いくらいに慌てていたら、スルリと余計な事が口からついて出た。
「センパイ細すぎ。」
言った途端、ヤバイと思った。
が、時は既に遅く、彼の眉と瞳はこれ以上無いくらいつり上がっていた。
「うるせーーーーっ!余計なお世話だっ!」
吐き捨てるように言い、彼はその場から立ち去ってしまった。足音も荒く。
「・・・・・・・・・・チッ!」
なんとなく面白くなくて舌打ちする。
折角良い感じだったのに。何故自分はこうなのだろうか。
宮城や木暮のように彼ともっと話をしたい。
そのためにはどうしたらいいのだろうか。
なんで、そんなことを思うのか分からない。
でも、そう望む心は強かった。
恋の自覚はまだ遠く。
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人でなしの恋