「・・・・・・・・・今の女、スタイル良いな。」
「え?」
 不意に傍らから聞えた言葉に顔を声の主へと向ける。
「ほら、あのやったら高いヒール履いた女。」
 言われ、彼の指さす方向へと視線を向けると、そこには確かにスタイルの良い女の人が歩いていた。と、言っても後ろ姿だけの判断だが。
「美人でした?」
「さぁ。顔は見てねーからわかんねーな。」
「・・・・・アンタって人は・・・・・・・・・・」
 なんの悪びれもなく言われた言葉に、息を吐き出す。
 通り過ぎた女の人の身体しか見ていない事なんて健全な男子高校生的には普通の事かも知れないが、口に出してしまうのはどうなのだろうかと、非難を込めて。
 その宮城の胸の内の言葉を察したのだろう。三井はムッと顔を歪めて見せる。
「しょうがねーだろ。気付いたときには通り過ぎてたんだから。」
「じゃあなんであの人に注目したんですか?通りすがりに巨乳にでも目がいったんですか?」
 この人はいつも通り過ぎる女の胸を見ているのかと、やや汚いモノでも見るような目で見つめ返す。微妙に距離を取るように後ずさりながら。
 そんな宮城の態度に普段からちょっとした事ですぐ怒る三井はカッと目を見開き、飛びかからん勢いで怒鳴りだした。
「ふざけんな、てめーっ!俺がいつそんな事言ったっ!」
「そうでもなきゃ、通りすがりの女の人に目なんか行かないでしょ?」
「・・・・・・・・・それはてめーの話だろ。」
 ギロリと睨まれ、宮城も負けじと睨み返す。先に目を反らした方が負けだと意気込んで。
 しかし、三井はそう思っていなかったらしい。すぐに話題に上った女性が去っていった方向に視線を投げ、不機嫌も露わに言葉を零してくる。
「・・・・・・・・歩き方が綺麗だったんだよ。あれだけ高いヒールを履いてるのに。」
「歩き方?」
 その答えはかなり意外で、思わず問い返す。その返しに、三井は軽く頷き返してきた。
「そ。モデルみてーに綺麗に歩いてたぜ。最近変な歩き方をした女が多いからな。妙に目がいったんだよ。」
「歩き方ねぇ・・・・・・・・・・・」
「お前は気になんねぇ?スゲー厚底のブーツとか履いて、ダッセー前傾姿勢で歩いてる女。まっすぐ立って歩けねーならそんなもん履くなって言いてぇよ、俺は。」
「・・・・・・・・三井サンって。意外に保守的?」
「はぁ?なんだ、そりゃ。ダセーもんをダセーって言ってるだけだろが。」
 心の底から不思議そうにそう言われたら頷くしかない。
 基本的には裏表の無い人だと思うから、嘘では無いはずだ。今言った事は。まだ付き合いが短いから断定的な事は言えないが、多分、彼の本心だと思う。
「ハイヒールを履くなら着てるもんだけじゃなくて自分の姿勢とかにも気を配れっての。履いただけで格好良く見えると思ったら大間違いなんだよ。まともな歩行も出来ないような女なんて、ナンパしたくもねー。」
「・・・・・・・・・はぁ。」
 ハイヒールを履いた女の人に何か恨みでも有るのだろうかと思うくらいの批判っぷりだ。過去に一体何があったのだろうか。気になり問いかけたくなったが、すんでの所で思いとどまる。
 下手に藪を突くと何が出てくるか分からないから。
 とくに、この人の藪は。
 何しろ、部活に出てこなかった間の二年間に何をやっていたのか多くを語らないのだ。
 関係無いの一点張りで。
 不良だったのは知っているが、どの程度の不良だったのか皆目見当も付かない。何しろ自分は健全なバスケ少年なのだから。
 そんな事を胸の内で考えている間にも、三井はブツブツと言葉を続けていた。
「大体、あんなもん凶器を一緒じゃねーか。満員電車の中でアレの踵に指先踏まれて見ろ。思わずはり倒したくなるぜ?」
「いや、それはいくら何でも・・・・・・・・・・」
 気持ちは何となく分かるが。女の人に暴力をふるうのはどうだろうか。
 そうは思ったが、何やら火が付いている様子の三井には怖くて突っ込みが出来ない。
「足音は響いて五月蠅いし、ヒールが折れたら歩けないとかほざくしよぉ・・・・・・だったらんな高いヒールなんか履いてくんなってんだっ!」
 何やかんやと文句の言葉が止まらない三井の顔をチラリと流し見て、フウッと息を吐き出した。
 こうなったら下手に止めない方が良い。
 一通りぶちかましたらスッキリする人なのだ。その間周りの目が冷たい事には目を瞑ろう。周りの人間との付き合いはこの時限りだが、三井との付き合いはまだ続くのだから。
「・・・・・・・・本当、厄介な人だよ・・・・・・・・・・・」
 そう思いながらも突き放す事の出来ない自分に、少し戸惑いを感じた。





























歩き方には気を付けましょう。(笑)











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ハイヒール