気に入らないこと。
 自分がパーシヴァルよりも背が低いと言うこと。
 別に自分がチビという訳ではない。極々平均的な身長なのだ。
 自分が低いのではなく、パーシヴァルが一般的な男よりも身長が高いのだと分かっている。分かっているが、それが気に入らない。いつも高い位置から見下ろされていて。そのせいで子供扱いされているのではないかと、思ってしまうから。
 それだけが理由では無いと分かっているのだが、それは認めたく無いので気付かないふりをしておく。
 体格という話をするのならば、自分の体重は同じ背丈の一般的な成人男性よりも重いかも知れない。
 だがそれは、職業柄仕方のないことだろう。毎日欠かさず身体を鍛えているのだから。筋肉が増えれば身体が重くなって当然だ。だから、自分が一般的な男性よりも体重が重いのは許せる。
 それは許せるが、自分よりも背の高いパーシヴァルの体重が自分よりも軽い事には納得が行かない。身長が高いのならその分重くなるべきだと思う。なのに軽いとは何事だ。同じ職業なのに。
 本人は筋肉が付きにくい体質なのだと言っていたが、それは本当だろうか。甚だ疑わしい。ボルスが見たところ、身長のわりに食が細いのが理由なのではないかと思うのだ。あの男は、下手をすれば自分の半分も食べていなかったりするのだから。
 パーシヴァルは「お前が食べ過ぎなのだ。」と言うけれど、レオに比べたら自分など子供程度にしか食べていない。その自分の半分なのだから、パーシヴァルなど赤子程度の量しか食べていないことになる。
 自分やレオのようにもっと食事を取ればパーシヴァルだって自分と同じくらいには筋肉が付くはずだ。
 そう思って進言したら本気で怒られた。
 しばらく口をきいて貰えなかったから、余程腹に据えかねたのだろう。なんでそんなに怒るのかさっぱり分からないけれど。
「・・・・・・・・・ふぅ。」
 思考を途切れさせ、大きく息を吐き出した。
 考えるのは苦手だ。好きな人の事を考えるのは楽しくもあるが、相手が相手だけにいつも楽しいことを考えてもいられないので、いつまでも立っても得意にならない。
 でもそれはそれで構わないと思っている。パーシヴァルがいれば、彼が自分の分も考えてくれるだろうから。彼が色々考えて物事を行った方がスムーズに事が運ぶというものだし。自分はパーシヴァルやサロメが落ち着いてゆっくり考えられる時間を作ればいい。それが適材適所というモノだ。
 そんなことを考えながら自室のドアを開けると、涼しい風が吹き抜けていった。
 その風の流れで室内に人が居ることを悟ったボルスの頬が、自然と緩んでくる。
「・・・・・・・・・パーシヴァル。」
「お帰り。今日は随分遅くまでやってたんだな。もう日が沈むぞ?」
「ああ。希望者を募って手合わせをしていたんだ。結構な人数に挑まれて・・・・・・・こんな時間だ。」
「そうか。それはお疲れ様。」
 ニコリと優しい笑みを返され、それだけで身体を包む疲労感が消し飛んだ。
 ドアを閉め、足取りも軽く室内を横切る間に、パーシヴァルはボルスが帰る前まで見つめていたらしい窓の外へと、視線を向け直した。
 その彼の背後1メートルくらいの距離まで歩み寄り、ボルスは軽く首を傾げて見せた。
「・・・・・・・・何を見ているんだ?」
「うん?・・・・・・・・星をな。」
「星?」
「ああ。一番星でも見付けようかと・・・・・・・・・・」
 言いかけた言葉は途中で途切れた。
 遠い空を見つめる形で制止して。
 その彼の視線を背後から追えば、小さな光が見て取れた。
 アレが一番星だろう。
 ボルスも星を見ている事に気付いたのか、パーシヴァルが小さく笑みを浮かべながら呟きを漏らしてきた。
「たまにはゆっくり星でも眺めておかないと、ギスギスした人生になりそうだよな。」
「・・・・・・・そうだな・・・・・・・・・・」
 言いながら、パーシヴァルの背後から彼の細い腰に腕を回し、首筋に顔を埋める。
 突然のボルスの行動に驚いたのか、小さく身体を震わせたパーシヴァルだったが、すぐにクスリと息を漏らし、腰に回したボルスの腕に軽く掌をのせてくる。
 引き離そうとするのではなく、ボルスの抱擁を享受するように。
「・・・・・・・今日は、雲一つ無いから沢山星が見えるぞ。ホラ。」
 言われ、顔を僅かに上げる。
 暗い闇の中に光る輝きを見つめるために。
 自分よりも高い位置にある、パーシヴァルの肩越しに。








































なんだか微妙にラブテイスト?笑!













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肩越し