滅多にない、丸一日部活が無い完全な休日である日曜日。昼過ぎまで眠りこけていた流川の元に、突然三井がやって来た。そして、まだ眠りから覚め切れていない流川に短く一言告げる。
「デートするぞ。」
 その、短いけれどインパクトのある一言で一気に目が覚めた流川は、急いで出掛ける準備を整え、命令されるままに自転車を漕いだ。
 やって来たのはちょっと郊外にある大型スーパー。
 頭の上にクエスチョンマークを飛び散らかせた流川の手を引きながら、なんの迷いも無く店の中に足を踏みいれた三井は、階段を使って階を上がり、ズカズカと店内を突き進む。
 そして何を思ったのか、小さな子供達が靴を脱いで上がって遊び回るスペースまでやってくると、おもむろに靴を脱ぎ、その中に入り込んだ。
 日曜日の昼間だ。そこを利用している子供達の数は多い。
 無邪気な笑い声を上げていた子供達は、いきなり現われた長身の男に。しかも何やら思い詰めたような顔をしている闖入者に足を一歩引き、身を強ばらせた。中には恐怖のあまり泣き出す子供まで居る始末だ。
 周りで子供が遊ぶ様を見ていた親たちは慌ててその場に駆け込み、我が子を救出している。どうやら親に放って置かれているらしい数人の子供達は、逃げ遅れてその場で泣きそうな顔をしていた。
 自分と三井とバスケの事以外はどうでも良い流川ではあるが、さすがにこのままだと子供が可哀想だと考えた。人のための行動など滅多にしないが、こんな場所ではいちゃつく事も出来ないので、この場から彼を連れ去るべく声をかけようと口を開く。だが、流川よりも三井の行動の方が早かった。
 彼は睨むような瞳を流川へと向け、ドカリとその場に腰を下ろした。そして、自分の横の床を叩いてみせる。
 どうやら隣に座れと言いたいらしい。何がなんだか分からなかったが、ここで逆らったら後が怖い。流川は突き刺さる視線の中、靴を脱いで遊び場に足を踏みいれた。
「・・・・・・・なんスか?」
「良いから、座れ。」
 流川の問いに睨め付けるような視線を向けた三井は、バシバシと音をたてながら床を叩いている。深く息を吐き出して言う事を聞いた流川の態度に満足したのか、三井は視線を前方へと向け直した。
 その視線の先で固まっている、年の頃4歳程度の少女に優しく微笑みかけた三井は、その少女に向かって軽く手招きをしてみせる。
 その三井の行動にビクリと身体を震わせながらも、抗えないものを感じたのか、少女は傍らまで歩み寄ってきた。そんな少女の頭を、三井は満足そうに軽く撫でながら流川に対してこんな事を言い出した。
「子供って可愛いよな、流川。」
「・・・・・・・ウス。」
 自分もまだまだ子供の域を脱していない流川にはなんとも言えない所だが、『否』と言えない雰囲気に首を縦に振る。
 そんな流川の反応に満足そうに頷いた三井は、それまで険しかった表情が幻覚だったのでは無いかと思うくらいに満面の笑顔を振りまき始めた。
「そうだよな、流川だって思うよな。将来的には自分の血を引く子供が欲しいって思うよな?」
 15の時点でそこまで考えている男はそう居ないだろうと思ったが、笑顔の奥にある瞳の鋭さに負け、もう一度頷く。
「・・・・・・・・・ウス。」
「そうだよな。流川の子供だったらすげー可愛い子が生まれるだろうしな。産ませないのは勿体ないよな。」
「センパイの子供もぜってー可愛い。」
「当たり前だ。俺は面食いなんだよ。美人以外と結婚する気はねーってのっ!で、美人と俺とのガキなら絶対に可愛いに決まってんだよっ!」
 妙に強気でそう宣言した三井に力強く頷く。自分とつき合っているのだから面食いだろうと、論点からずれた事に対して。
 そんな流川に構いもせず、三井はとんでもない命令をかましてきた。
「ってわけだから、流川。お前、女とつき合え。」
「・・・・・・・・・・は?」
 どういう話の繋がりでそうなったのか分からず、流川はポカンと口を開けた。
「何言ってるンスか?」
「だってお前、今の日本は子供の数が少ないんだぜ?出生率も下がってるんだぜ?将来的には若者よりも年金暮らしの年寄りの方が増えるとかって言われてる時代なんだぜ?」
「・・・・・・・・・・はぁ。」
「そんな時代にわざわざ非生産的な付き合いをすんのは馬鹿げてるだろ?なっ!」
 どうやら何かテレビの番組を見て妙なスイッチが入ったらしい。彼は結構簡単に周りの影響を受けるのだ。
 三井の言葉がどれだけ本気で言い出したものなのか流川には判別が付けられない。だから取りあえず、自分の心に素直に発言してみた。
「イヤ。別に・・・・・・・・・・」
 途端に、三井の眉が跳ね上がる。
「何言ってやがるんだ、流川っ!男が一人で歳くって、子供も無くて一人で死ぬなんてすげー惨めで空しいぞっ!」
「一人じゃねー。アンタと一緒。」
「バカヤローーっ!俺は美人な嫁さん貰うんだよっ!勝手な事言ってんじゃねーってのっ!」
 怒りのあまりにか、勢いよくその場に立ち上がった三井に、流川も立ち上がって応戦する。
「バカも勝手もアンタの方。俺の気持ちは一生もんだ。絶対に逃がさねーぞ。」
「んだと、この!俺がいつ逃げたよっ!」
「今。嫁さん貰うとか言って。」
「あぁ?悪いかこのっ!健全な男の普通の野望だろうがっ!」
「不健全で普通じゃないアンタには関係ない野望だろうが。」
「てめーっ!喧嘩売ってんのかコラっ!」
 怒鳴った三井は、流川の胸ぐらを掴み上げてくる。そして、数センチ上の黒い瞳を睨み付け、ドスの効いた声でこう、発する。
「・・・・・分かった。表に出ろ。流川。決着を付けてやるぜ。」
「望むところ。」
 いったいなんの決着を付けるのか。言った本人である三井も言われた流川にもさっぱり分からなかったが、取りあえずそこで話に決着はついた。
 二人は脱いだ靴を履き直すと、全身から闘志を漲らせてその場に立ち去った。
 残された家族連れの人々は、ただただ呆然とそんな高校生二人組の姿を目で追っていた。
 いったいアレはんなだったのかと。降って沸いた出来事を正確に捉える事が出来る者がその場にいなかったのは、三井と流川にとって幸せだったのだろうか。
 取りあえず、近所で噂になる事だけは避けられた。
 そして、店を出てバスケコートに赴いた二人は心ゆくまで1On1を繰り広げ、大層満足して家路へと付いたのだった。
 昼間の出来事はさっぱり忘れて。




























アホな流川と三井の話は大好きです。
そんなわけで、妙に気に入っている話なのでした。












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イトーヨーカドー