部活が終わり、家に帰ろうと学校の敷地内を歩いていた石丸は、見慣れた細身の男の姿をその視界に捕らえた。
 この学校に在籍する者全てが恐れ、避けて通る男。
 確かに、やることは派手だ。その上、やられたら精神的に大きなダメージを負うであろう事を平気でやってのける。
 そんな彼の行動はどうだろうかと思うのだが、周りの人達が言うほど怖いとは思えない。
 彼が、アメフトに関して本気で取り組んでいる事を知っているから、そう思うのかも知れないが。
「よお、ヒル魔。」
 軽い調子で声をかけると、彼も視線をこちらに向けてきた。
「これから部活か?随分遅くまでやるんだな。」
 コンビニの袋を二つ下げて歩いているヒル魔にそう問いかけると、鼻で小さく笑い返された。
「テメーには関係ねーだろうが。」
「まあね。・・・・今日は、アイシールドさんは来ているのかい?」
「・・・・それこそ、テメーには関係無い話だろ。」
 ニヤリと、尖った犬歯を見せ付ける様な笑みをその顔に描きながら言い返してくるヒル魔に、石丸は苦笑を返す。
 他の人はその表情を見ただけで、恐怖のあまりにその場に倒れ込んでしまうかも知れない。
 だが、石丸は少しも怖いと思わなかった。
 逆に可愛いとさえ思ってしまうのは、何故だろうか。
「関係あるよ。是非とも、我が陸上部に入って貰いたいからね。」
「けっ!テメーんトコのしけた部にあいつを渡すかよ。」
「彼が来てくれれば、良い成績を残せるようになるさ。」
「渡さねーって言ってンだろ。ブッ殺すぞ。」
 鬱陶しげにそう返してきたヒル魔は、慣れた手つきで懐から短銃を取り出し、石丸の心臓へと照準を合わせてくる。
 そんな風に脅されては、引くしかない。
 石丸は、苦笑を浮かべながら両手を上に上げて見せた。
「分かったよ。とりあえず、今は引くとしよう。」
「今だけじゃなくてずっと引いてろ。」
 そう言いながら、ヒル魔はあっさりと短銃を懐にしまう。
 無駄に銃器を振り回している彼ではあるが、本気で人を撃つことはそう多く無い。
 撃っていても、人には当てていない事を、石丸は知っていた。
 悪ぶっているけれど、心の底から悪人というわけではないのだ。
 ただ、自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけで。
 その方法は、世間一般の考えからすると少し間違っているのかも知れないが、情熱を傾けられる物があるのは悪いことでは無いと、石丸は思う。
「・・・・・何、ニヤニヤ見てやがんだよ。」
 不機嫌そうな声音に自分の考えに耽っていた意識をヒル魔へと戻せば、彼がイヤそうに顔を歪めていた。
「ニヤニヤしてたか?」
「ああ。してたね。これ以上無いくらいにアホ面で。」
「・・・・・酷い言われようだな。」
 馬鹿にするような言葉にクスリと笑って返せば、更に顔を歪ませてくる。
 何をそんなに不快に思っているのだろうか。
 問いかけるように首を傾げてみせれば、諦めたように大きなため息を吐かれた。
「・・・・ウゼーからとっとと帰りやがれ。」
 そう言うと、ヒル魔はプイッとそっぽを向いて歩き去ってしまった。
 その態度に何故か胸に小さな痛みが走る。
 どうにかして彼の顔を自分に向けさせたいと、そう思った。
「ヒル魔っ!」
 声をかければ、僅かに振り返る。
 その彼に、少し慌てたように言葉を投げかける。
 短気な彼は、すぐに気分を損ねてしまうから。
「次の試合、また、助っ人するから、声かけろよ!」
 そう言うと、ヒル魔は少し驚いたように瞳を見開いて見せた。
 あまり見ないそんな表情に、鼓動が大きく跳ね上がる。
 一瞬、二人の間に沈黙が流れた。
 彼は、なんと言ってくるのだろうか。
 必要無いと言われたらどうしよう。
 アイシールド21が入った今、陸上部である自分が走る意味が昔よりも無くなっているから。
 そんな事を考え、僅かに身を強ばらせてヒル魔の言葉を待っていた石丸に、彼はニヤリと、いつもと変わらない笑みを返してくる。
「当たり前だ。テメーは、結構使えるからな。」
 その言葉に、身体に大きな震えが走った。
 自分の力が、当てにされているという現実に。
 アイシールド21よりも当てにされてはいなくても、彼の役に立っていると言うことに、何故か喜びが沸いてくる。
 再び背中を見せて歩き去るヒル魔の背中を、ジッと眺めた。
 防具を外した身体は、意外と細い。
 普通の高校生よりも筋肉はついているし、自分よりも身長が高くもあるのだが、それでも、細いという印象がぬぐい去れないのは、何故だろうか。
 ボンヤリとその背を見つめていると、不意にヒル魔が振り返ってきた。
 そして、何か放られる。
 慌ててそれを受け取ると、笑みを含んだ声がかけられた。
「ナイスキャッチ。」
「・・・・・・・・・ヒル魔?」
 何事かと問うような視線を向ければ、そこには口角を上げてニヤリと笑むヒル魔の姿がある。
「やるよ。じゃあな。」
 それだけ言うと、ヒル魔は身を翻していった。
 その後ろ姿を呆然と見送っていた石丸は、ヒル魔の背中が見えなくなってからようやく手の中のモノへと視線を向けた。
 それは、ビニールにくるまれた黒い固まり。
 学校の近くのコンビニで売っている、おにぎりだった。
「・・・・・・ヒル魔。」
 自然と、顔が綻んでくる。
 何故彼がこれを自分にくれたのか分からない。
 分からないが、凄く嬉しい。
 彼が自分に何かをくれた。その事実が。
「・・・・・頑張るよ。」
 次の試合に勝てるように。
 少しでも彼の役に立てるプレイを出来るように。
 自分が出来る事はなんでもやろう。
 手の中にあるおにぎりの温かさを感じながら、今はもう視界に移らない男の背中に語りかけた。
「勝とうな。ヒル魔。」





















なんだかポエムっぽい。
そして、ヒル魔がなんか別人・・・・・汗。




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コンビニおにぎり