ビクトールは深々と息を吐き出した。
子供という生き物は、一度言い出したらなかなか引き下がらない生き物だ。遊んでやらねば、いつまでも、どこまででも着いてくるだろう。
それはちょっと不味いだろうと思う。一見平和そうに見えるが、一応今は戦時中なのだ。いつハイランド軍が攻め込んでくるか分からない。そんな状況の中、軍筆頭戦士である自分が金魚がフンを付けて泳ぐように子供を引き連れて城内を彷徨くわけにはいかない。
そんな姿をシュウ辺りに見つかったら、何を言われるか分かったものではないのだから。
シュウから説教を受けるような事態に鳴らない為には、この場で少しでも良いから子供達と遊んだ方が良いだろう。普通に遊ぶ分にはいつもやっている事なので、そんなに文句を言われないだろうし。
そう考え、ビクトールは気を取り直すように笑みを浮かべた。
多少苦みの混じる笑みになってしまったが、子供達にはそんな表情の変化を読み取れるわけがないから大丈夫だろう。そう胸の内で呟きながら、言葉を返す。
「分かった。遊んでやるよ。ただし、ちょっとだけだからな」
「わーーーーい!」
「やったぁーっ!」
告げた途端、子供達が高い声で歓声を上げた。そして、ワラワラとビクトールの周りに集まり、身体にまとわりついてくる。
抱っこしてくれと言うように大きく腕を伸ばしてくる子供の身体を掴みあげたビクトールは、その子供を肩の上に乗せてニヤリと口角を引き上げた。
「さて、何して遊ぶんだ?」
「みずうみに泳ぎに行く!」
「おままごと!」
「ようへいごっこの方が良いよう!」
キャッキャキャッキャと楽しげに声を上げながら、子供達は話し合いを始めた。
意見はまっぷたつどころか三つにも四つにも分かれている。そして、互いに譲らない。自分がやりたい事をやると、強硬に主張している。
その様を見ながら、苦笑を漏らした。
「あ〜〜こりゃ、すぐに解放して貰えそうも無いなぁ…………」
胸の内で呟き、空を仰いだ。
そこに広がる見慣れた青色を視界一杯に取り込むように。
「まぁ、そんなに急がなくても良いか」
今日中に飲ませられれば問題ないだろう。ホウアンも時間を指定してはいなかったし。
夜になればフリックも自室に帰ってくるだろうから、薬はその時に飲ませよう。そうすれば、どこに居るのか分からない人間を捜し回る時間を、今目の前に居る子供達が満足するまで遊びに付き合う事に使える。
そうするのが、一番良い時間の使い方だろう。
自分の考えに、ビクトールは大きく頷いた。そして、意見のまとまらない子供達に向かって大声で告げる。
「よーしっ! じゃあ、まずは湖に行くぞっ! 着いてこい! そこでおままごとをしたいヤツはおままごとだ。傭兵ごっこは、その後でやるぞ。それで良いか?」
「は〜〜〜〜〜いっ!」
明るく素直な返事を寄越してきた子供達にニカリと笑いかけた後、ビクトールはいつもよりゆっくりとした歩調で足を動かし始めた。
目的地である、湖に向けて。
そこで、どんな遊びをしようかと考えながら、ビクトールは子供達を引き連れながら歩を進めていった。
子供達と遊んでいる間に薬の瓶を壊してしまい、結局フリックに飲ませられなくなるなんて事、想像もしないで。
《完》