こういう場合、素直になるのが一番だ。
室内に入ったすぐの所で立ち止まったビクトールは、室内に入ったフリックに向かって土下座をした。
「すまんっ! フリックっ!!」
実は嘘だったんだ、と叫ぶ前に、悲鳴にも似たフリックの声が耳に届いた。
「こんなにっ?! ふざけんなよっ、シュウっ!!」
「――――あ?」
思っても居なかった言葉に、土下座していた顔を思わず上げる。
すると、部屋の真ん中に置かれたテーブルの上に紙の束が積み上げられているのが、視界に入った。
その束を手にして、フリックがやや顔色を青くしている。
「コレを、2日で………? あの野郎、俺をなんだと思ってやがるんだ…………」
ブルブルと身体を震わせているのは怒りの為なのだろうか。だが、その怒りをシュウに直接ぶつけに行く時間も惜しいらしい。
震える身体を押さえ込みながらさっさとペンとインクを用意したフリックは、忙しない動作でイスに腰を下ろし、積み上げられた書類の山と格闘をし始めた。
そんなフリックの姿を呆然と見つめながら、ボソリと呟く。
「――――う、嘘から出た真ってーのか? コレは?」
冗談みたいな出来事だが、なんにしろ、首の皮一枚繋がった。
「まぁ、終わりよければ全て良しってな――――」
そう呟き、ホッと息を吐いたビクトールは、フリックが書類と格闘している間にそっと室内から逃げ出した。
長々とこの場に留まり、自分の嘘がばれることを避けるために。
ここまで慌てさせたのだ。嘘だとばれたら命の保証はないだろうから。
嘘が嘘とばれずに首の皮一枚で命を繋げたビクトールだったが、そうは問屋が卸さなかった。
二晩徹夜して翌々日の朝に書類を書き上げて持っていったフリックに、それを受け取ったシュウが、
「一週間で終わらせてくれと伝えたはずだが……そうか。あの位の量だったら丸二日程度で出来ると言うことだな。覚えて置こう」
等と言ったため、フリックに嘘がばれたのだ。
そんなわけで、外で子供達と仲良く遊んでいたビクトールに特大の雷が落とされることになり、やはり嘘はつくモノではないなと、心底反省したビクトールだった。
《完》