やはりこんなモノは飲めない。
例え死ぬことになっても、飲めないモノは飲めない。
そんなモノを人に飲ませようと思うなと更なる怒りを買いそうだが、嫌なモノは嫌なのだ。
そう考え、ビクトールはキッと顔を上げた。そして、ビクリと身体を震わせた。

そこに居た男が、自分の知っているフリックではなかったから。

いや、姿形はフリックだ。少しも変わりはない。
ただ、表情が。
発する気配が、まるっきり違う。
「お前…………」
「死を選ぶと言うのなら、それも良い。俺がキッチリと、ゾンビになる事も出来ないくらいキッチリと、殺してやるよ」
クツクツと喉の奥で笑いながら、フリックが腕を伸ばしてきた。
ビクトールの、首元に。
そして、その太い首を両手で力強く握りしめながら、ベッドの上に押し倒してくる。
「ガッ…………はっ………………!!」
本気の絞めに目を剥き、口を大きく開けて喘ぐ。だが、空気は少しも入ってこない。
酸素を得ることが出来ない身体から、徐々に力が抜けていった。
意識も霞み始めている。
そんなビクトールに、フリックは婉然と笑いかけてきた。
「恨むなら、アホな自分を恨むんだな」
楽しげな声を耳にしながら、ビクトールは自分の意識が遠ざかっていくのを感じていた。

「こんなアホな事で死ぬのか、俺は――――」


それが、ビクトールの最後の思考となったのだった。











《完》