今現在人が居ないが、まだ営業時間中だ。いつ誰が来るか分かったものでは無い。
だからここでそんな行動を取るべきではないだろうとは思うのだが、自分の身体をこんな状態にした責任は取って貰わねばならない。煽ったのフリックなのだから。
そんな勝手なことを考えて、ビクトールはフリックの肩に手を伸ばした。
そして、力任せに引き寄せる。
「――――っ!」
ビクトールの行動を全く予想していなかったのか、フリックは閉じていた瞳を大きく見開いた。
彼が何かを言ってくる前に噛みつくように口づけて唇を塞ぎ、細いけれどもしっかりと筋肉の付いた身体を壁に押しつける。
右手は肩を押さえたまま、左手でゆっくりと身体のラインを撫でる。胸の突起に触れた後、引き締まった胸筋を、腹筋を辿り、その下の、湯の中にある剥き出しのモノを手のひらで包み込んだ。
やわやわと刺激を与えると、口づけで塞いでいた口から呻くような声を漏らし、抗うように両手でビクトールの身体を押しのけようとしてきた。
だが、力だけなら自分の方が上だ。その抵抗を難なく抑え込み、一瞬の隙をついてフリックの身体を反転させた。
「てめっ…………!!」
自由になった口が罵声を上げそうになったところを、右手の手のひらで塞ぐ。そして、フリックの身体を再度壁に押しつけ直す。
そうはさせじと、フリックは両手を壁に付き、力を振り絞って押さえつけられる身体を起きあがらせようとした。
小さく舌を打つ。
彼の身体から力を抜かせるために左手を彼の股間に回し、与える刺激を強くした。
「――――っ!」
小さく息を飲み、抗議するように睨み付けてくる青い双眸を無視して首筋に唇を落とし、少しずつ位置をずらしながらゆっくりと白い肌を舐め上げる。
怒りに沸いていたフリックの気持ちを落ち着けようと。
何度も何度も同じ動作を繰り返す。
それが功を奏したのか、フリックの身体から徐々に力が抜けてきた。
普通に考えれば、ここで突然反撃してくることは無いだろうという位に、柔らかく。
呼吸も常より荒くなり、白い肌に浮かぶ朱色が濃くなってきた。
それを確認してから、ビクトールはフリックの股間に刺激を与えていた手を後穴へと回し、ゆっくりと、襞をかき分けるように指をつき入れ、ほぐしていく。
湯の中での作業だからか、いつもより進入が楽だ。そのことに気をよくしたビクトールは、ぺろりと己の唇を舐め取り、目の前の、朱色に染まった首筋に薄く所有の印を刻みつけていった。
翌日に残る程強く刻みつけはしなかったが、今現在はしっかりと目に見える程鮮やかな紅色の印を。
その浮き上がった紅い印を目にしただけで、触れても居ない自分の股間に更なる力が宿っていく。
十分に強度を持ったソレを、十分にほぐしたフリックの後穴の入り口へと、あてがう。
その感触に、フリックの身体がビクリと震えた。
「――――行くぜ」
耳朶をなぶるように囁き、己のモノをフリックの体内に突き入れた。
「――――っ!」
手のひらで塞いだ口からうめき声が漏れる。
だが、ソレを無視して激しく注挿を繰り返した。
いつ誰が来るとも分からないスリルに、身体が、心が、これ以上ない程興奮して。
その動きにあわせて、手のひらで塞いだフリックの口からうめき声が漏れる。
壁を押し返そうとしていた手は、今は縋るように短く切りそろえられた爪でタイルをひっかいている。
いつ誰が来るか分からない公共の場でのスリルを感じて興奮しているのだろうか。フリックの白い肌は、いつも以上に赤く染まっている。
心なしか、抱きしめる身体も常よりも熱い。身体の中はもっと熱く、内に食い込ませたモノが溶けそうな程に気持ちいい。
その熱に煽られ、ビクトールの動きは益々激しくなった。
一度達しても足りず、直ぐさま二度目に突入する。
完全に力が抜けきったフリックの口から罵声が飛び出てくる気配が無くなったため、口を塞いでいた右手を外し、両手で細いけれどもしっかりと筋肉が付いた腰をつかみ取った。そして、力任せに、出来うる限り奥深くまで己の腰を突き入れる。
「あっ……………はぁっ…………」
自由になったフリックの口から、甘い声が漏れ始めた。
その声に煽られ、体内に埋め込んだモノに力が加わる。すぐにでも達したくなるくらいに。

二度目の絶頂を迎えたビクトールは、一切の抵抗を止めてビクトールの思うがままになっていたフリックの身体から己のモノを引き抜いた。
そして、脱力した身体をひっくり返し、向かいあった状態でその身体を抱き直して再度己のモノを挿入し、下から突き上げるようにして細い身体を責め立てる。
「………ふっ………あっ…………ぁっ…………」
いつも以上に甘さを感じる声が風呂場の中に響き、ビクトールの全身に心地よくぶつかる。
その声をもっと聞きたくて動きを強くすれば、もくろみ通りにフリックは甘い嬌声を上げた。
理性を飛ばしているのか、周りに気を使う余裕も見せずに。いつも以上に水分の多い青い瞳をボンヤリと開きながら。
そのいつもと違うフリックの様子に更なる熱を煽られ、ビクトールは動きを強めた。そして、再度己の欲をフリックの身の内に叩き込む。
三回達してようやく満足したビクトールは、フリックの中から己のモノを抜き出した。
「フリック………」
そっと囁き、細い身体を抱きしめる。そして、荒い息を吐く唇に己の唇を触れあわせた。
最初は軽く、ついばむように。そして、徐々に交わりを深くしていく。
フリックの甘い舌先を味わうために、半開きになっている口内に己の舌を差し入れ、口内を思う様蹂躙した。

そこで、ようやく気がついた。


フリックからの反応が、無くなっていることに。


「……………フリック?」
唇を放し、抱きしめていた身体を僅かに離して問いかけるように名を呼んだ。
だが、答えは返ってこない。
グッタリと顔を俯け、全身から力を抜いていた。
なのに、呼吸は荒い。

ザッと音をたててビクトールの顔から血の気が落ちた。
肌が赤かったのは公共の場での交わりに恥ずかしさを感じていたからでもそのスリルに興奮していたわけでもなんでもなく、ただたんに湯当たりしたせいだったのだ。
「おっ…………おいっ! 大丈夫かッ、フリックっ!!」
慌てて両肩を掴み、ガクガクと前後に揺すってみるが、フリックはされるがままに身体を揺らすだけで反応を返してない。

コレはかなりまずい。
早く湯船から出して冷やさなければ。

そう考え、ビクトールは脱力仕切ったフリックの身体を抱え上げ、立ち上がった。
そして、湯船から出て脱衣所に向かおうと足を動かしたその瞬間。
腕の中から恐ろしく低い呟きが聞こえてきた。


「――――死んで、その腐った性根を入れ替えてこい」


殺気がこれ以上ない程込められた、地の底から響くような低い声と共に、全身にもの凄い痛みが駆け抜けていった。

突然の痛みに身体を強ばらせる。
息も出来ずに。
自然と、身体は湯船の中に倒れ込んでいった。

そんなビクトールの腕の中から、フリックはスルリと身を逃した。
そして、湯船の中でうつぶせの状態で浮かぶビクトールに向かって冷ややかな声を落としてくる。
「まぁ、馬鹿は死んでも治らないらしいからな。死んでも救いようの無いアホなままだろうが」
感情の色が見えない声でそう吐き捨ててきたフリックは、ビクトールの身体をひっくり返すこともなく、湯船から、風呂場から立ち去っていってしまった。

フリックが立ち去ったことで、風呂場の中には人の気配が一切なくなった。
それは、自分を助けてくれる者が居ないと言うことだ。
このままだと、溺死するだろう。
間違いなく。
そう思うのに、身体が動かない。
ピクリとも。
指先一つ動かすことが出来ない位にダメージを追っている。
その重いダメージから、今回の雷は手加減の度合いが小さかった事に気付く。
打たれ強い自分でもかなり死にそうだから、相当だ。普通の人間なら死んでいるだろう。

「――――まぁ、ここで死んでも、それなりに満足だけどな……………」

 
最後に天国が見られた事だし。


そんなことを呟きながら、ビクトールは意識を手放したのだった。








ちなみに、フリックが立ち去ったすぐ後にテツが風呂場に駆け込んできたので、死なずにすんだ。
だが、生き延びた喜びを噛みしめることで精一杯で薬の存在は綺麗さっぱり忘れ去ってしまい、フリックに飲ませることは出来なかったのだった。














《完》