「今日は止めておくか。明日だ、明日。別に今日中にって言ってなかったもんな」
そう考えたビクトールは、僅かに残る未練を振り切ろうと、身につけていた衣服を取り払っていつものように適当に投げ捨て、ベッドの中へと身を落とした。
明日、どうやってフリックにあの薬を飲ませようかと、考えながら。



しかし、それらの考えを実行に移すことは出来なかった。
衣服を放り投げたときに一緒に投げた腰に下げる袋が硬いモノにあたったらしく、翌朝小袋を手に取ったときには瓶が壊れて、中身が全て零れ出してしまっていたために。
ホウアンに事情を説明して新しいモノを貰おうと思ったのだが、他の二つの薬は既に処分された後だったらしく、新たなモノを手にすることは出来なかった。
だったら新たに作ってくれと頼んだのだが、媚薬の作り方を書いたノートが何故かなくなってしまったらしく、そうすることも出来なかった。
そんなわけで、ビクトールは結局、フリックに妖しげな薬を飲ませることは出来なかったのだった。









《完》