「いったいどうしたってんだっ!!」
叫び、崩れ落ちるフリックの身体を抱き起こす。フリックはそのビクトールの呼びかけに答える事すら出来ないらしく、苦しげに荒い息を吐いていた。
その様を見て、焦る。フリックが苦しそうな顔を見せる事など、滅多にない事なので。
「何入れやがったんだ、ホウアンーーーーーっ!」
本当にコレは媚薬だったのだろうか。
不安が過ぎる。
はっきり言って、媚薬を飲んだ後の反応としてはおかしい。
どう考えても、劇物を接種させられたとしか思えない反応だ。
「フ………フリック………」
かける声が震えた。嫌な考えが脳裏に浮かんで。
こんな事になるなら、引き受けなければ良かった。
後悔の念で胸を押しつぶされそうになりながら、ビクトールは固く目をつぶった。
「すまねぇ、フリック……………」
今回ばかりは仕置きの雷を甘んじて受けよう。一切の抵抗もなく、真正面からしっかりと受け止めよう。だから、仕置き出来るくらい元気になってくれ。
そう、本気で考えていたビクトールの頬に、ひやりとした指先が触れてきた。
その低い体温に、ハッと目を開くと、そこには妖艶な笑みを浮かべたフリックの姿があった。
先程まで見せていた、苦しげな色は、そこには一切無い。
「――――フリック?」
眉間に皺を寄せて首を傾げるビクトールに、フリックはフワリと柔らかく微笑みかけてきた。そんなフリックの反応にギョッと目を剥いたビクトールの首に、フリックの腕が絡みつく。
そして、口づけを寄越してきた。
突然の事にわけが分からず、目を白黒させていると、フリックが体重をかけ、ビクトールの身体を床に押しつけてきた。
「え? ちょっ…………フリック?!!」
動揺するビクトールの言葉を無視して、フリックが両肩に手を乗せ、ビクトールの身体を床に縫いつけてくる。そして、再度唇を落としてきた。
優しく柔らかい口づけに、驚きで強ばった身体から力が抜ける。
このキスだけで幸せな気持ちになれて。
フリックの手が体側をゆったりと撫でてくる。その動きに誘われるようにフリックの身体に手を回したビクトールは、彼が自分の身体に触れてくるのと同じように、その細いけれどもしっかりと肉の付いた身体を撫で、自然な動きで身体の位置を入れ替えた。
抵抗は、一切無い。
抵抗どころか、先の行為を誘うように、期待しているかの様に青い瞳を熱に潤ませている。
「――――フリック――――」
そっと囁き、口付ける。
滅多に無いくらい素直にその行為を受け入れられ、ビクトールの心臓は大きく高鳴った。
シャツを脱がせても、ズボンを引き抜いても。床の上で求めても文句を言われない。文句どころか、常以上に歓喜の声を上げられた。
その声にビクトールの動きがより一層激しくなる。
いつも以上に甘い身体を放せなくなる。
「なんだかわからねーが、ありがとうっ!ホウアンッ!!」
先程呪いの言葉を吐いた男に向かって、感謝の言葉を大声で叫ぶ。
こんなに従順なフリックを拝めるのならば、また協力してやるぜと、本気で思った。
市販されたこの媚薬がどんなに高かろうと、自分はまたコレを手にしようと、固く決意する程に、本気で思った。
その考えは、翌朝、死の一歩手前まで痛めつけられたことで思い直す事になるのだが。
《完》