やはり放っては置けない。ビクトールは去りかけていた足をもう一度フリックの方へと向け直した。
「フリック。やっぱりオレは――――」
「さっさと出て行けって行ってるだろうがっ!! この馬鹿熊がーーーーーっ!」
残る、と告げる前に、ガバリと起きあがったフリックが、こめかみに血管を浮き上がらせながら怒鳴りつけてきた。
途端に、全身に覚えがありすぎる痛みが駆け抜けていく。
「ぐはーーーーーっ!」
うめき声を上げ、バタリと倒れ込んだ。
倒れ込んだときにテーブルの角に後頭部を強打したのに、その痛みを感じないくらいに全身に強い痛みとしびれが走っていた。
どうやら、怒りにまかせていつも以上に手加減の度合いが低かったらしい。
消え失せていく意識の下でそんな事を考えていたビクトールの耳に、これ以上ないほど憎々しげに発せられたフリックの声が届いた。
「グチャグチャ言ってんじゃねーっ! 鬱陶しいっ!!!」
怒鳴る語尾にあわせて、肩先に鈍い痛みが走った。
どうやら蹴られたらしいと、判断する。
雷を浴びせただけでは彼の胸中に沸いた怒りは納まらなかったらしい。
「酷いぜ、フリック………」
変な薬を飲ませたオレが悪いのだが、そんな死人に鞭を打つような真似をするなんて。
と、胸中で呟きながら、ビクトールは意識を完全に手放したのだった。















《完》