「すっ……すまんっ! 実は…………」
フリックだけならまだしも、ホウアンにまで局部を観察される羞恥プレイには耐え難いモノを感じ、ビクトールは全てを吐き出した。
事のあらましを、全て。
脚色することもなく、事実だけを正確に。
その言葉を無言と無表情で聞き取っていたフリックは、全てを語り終えたビクトールがもう一度、先程よりも深く、土下座する勢いで深く頭を下げた所で口元に笑みを刻み込んだ。
「――――まぁ、今回は、許してやろう。自分の非を認めた事だしな」
思いがけない言葉を返され、ビクトールは下げていた顔を勢いよく上げた。そして、瞳をまん丸に見開いた状態で問いかける。
「ほっ、本当か?」
「あぁ。ただし、最初に誤魔化そうとしたその腐れた根性は、正させて貰うがな」
「え……………? …………ぎゃーーーーーーっ!」
フリックがニッコリと微笑んだのと同時に医務室の中に目映い光が迸り、ビクトールの全身に強烈な痺れが駆け抜けた。
その慣れた、それでも激しい苦痛を感じる痛みにバタリと、身体が倒れ込む。痛みのあまりに全身から力が抜け、立っていることなど出来なくなって。
自分が床上に倒れ込んだ音に続いてもう一つ何かが倒れた音がしたのでチラリと瞳を動かしてみれば、視線の先には微妙に焦げ色が付いたホウアンの姿があった。
どうやら、お仕置きは自分にだけ下されたわけではなかったらしい。
ホウアンが使えなくなる事は軍としては手痛い事だと分かっているだろうに。
それでもやってしまいたくなるくらいに怒りが強いようだ。
その考えを肯定するように、身が凍りそうな程冷たいフリックの声が耳に届いてきた。
「――――二度とこんな下らない企みをするなよ。見逃すのは、一度だけだ」
そう告げたフリックは、それで話は終わりだと、これ以上この場にいることすらも不快だと言わんばかりにさっさと身を翻し、医務室の外へと出て行ってしまった。
そんなフリックの気配を見送り、彼の気配が完全に感じられ無くなったところで、ビクトールは身の内から絞り出すように声を発した。
「――――ホウアン」
「――――はい、なんでしょう」
「――――もう俺を、巻き込むなよ?」
「――――善処しますよ」
『巻き込まない』とは言わないホウアンの言葉に、ビクトールは痛みに歪んでいた顔を更に歪めた。
これだけ痛い目に遇いながら、彼は少しも懲りていないらしい。その根性は、どこから来るモノなのだろうか。医者としてのプライドがなせる技だろうか。しかし、『媚薬』と『医者』はあまり関係ない気がするのだが。
なんにしろ、彼にはまだまだ自分を巻き込むつもりがあるらしい。それは、勘弁して貰い所だ。
まぁ、巻き込まれたく無かったら申し出を断れば良いだけの話なのだが。
だが、誘惑に負けてそれを出来そうに無い自分を大いに自覚しているビクトールは、そんな自分に憐れみを感じてそっと涙をこぼしたのだった。
《完》