どうにか上手く逃げられないかと頭を捻ったが、名案は何一つ浮かばなかった。
そんなビクトールの残されたこの場を死なずに切り抜ける道は、一つしかない。
チラリと、フリックの顔を窺い見ると、そこにはもの凄く冷たい光を宿した青色が二つ、並んでいた。
そこに優しさは欠片もない。
優しさどころか、自分を断崖絶壁に押しやっていこうとするような、強烈なプレッシャーを感じる。
「うぅぅぅぅぅっ………………」
自分でもあり得ない程に情けないと思う声で呻いた。
フリックの瞳から逃れる事は出来そうにない。
今ここで彼の瞳から逃れたら、そこで自分達の関係は終わってしまいそうな、そんな予感が胸を過ぎったから。
ビクトールは涙を流しながらズボンを脱ぎ、パンツを脱ぎ捨てた。
そして、手にしていた小瓶を震える手で開封して、中身を一気に煽る。

この後に起こるであろう悲劇を、脳裏で思い浮かべないようにしながら。





その後に起こった出来事は、ビクトールもホウアンも己の記憶の奥底にしまい込んだ。
一生思い出したくないと思ったので。
だが、互いの顔を見るたびに思い出されてしまい、ビクトールは、今まで以上に医務室に近寄らなくなったのだった。









《完》