「25の男のすることじゃないよな。」
 昼間のボルスの一件に呆れかえったパーシヴァルは、クィーンを相手に酒場で一つ年下の同僚を罵倒していた。
「確かにねぇ。あの探偵坊やに頼んでどうにかなると思っているのは、どうかと思うねぇ。」
 パーシヴァルに適当に相づちを打ちながら、クィーンは杯を勢いよく空にする。
 手酌で再びグラスを満たしたクィーンは、面白がるようにパーシヴァルの顔を覗き込んできた。
「でも、周りが見えなくなるくらいあんたのことが好きって事じゃないのかい?そこまで真剣に惚れ込まれたら、悪い気もしないだろう。」
 クスクス笑うクィーンの言葉に、パーシヴァルは不愉快そうに眉間に皺を寄せて見せる。
「束縛されるのは好きじゃないんだよ。」
「そうかい?その割には、結構構って上げてるとおもうけどね。」
「それは、あいつがしつこく付きまとって来るからだろう。」
「それだけとは、思えないけどねぇ・・・・・」
 思わせぶりに言葉を濁し、クィーンはニヤニヤと笑いかけてきた。
 気を使わなくて良いから話しやすい相手ではあるが、時々年上の女の余裕を見せられて、少し居心地が悪くなる。
「べつに怒っているわけではないんだろ?」
「ああ。呆れてるだけだ。とはいえ、甘やかすと同じ事をしでかすだろうから、制裁は加えるけどな。」
「一週間、口聞かないって?」
「馬鹿にするけど、結構効果があるんだぞ。」
「・・・・あの坊やだからねぇ・・・・・。」
 笑いを含んだクィーンの言葉に、パースヴァルの顔にも笑みが広がった。
 子供の時に、バーツや村の友達と喧嘩したら良く絶交だと言っていたものだが、ボルスにしているのはそのレベルのことだろう。
 それが彼に有効な手だというのはどうした物かと思うが、それはそれで面白いし扱い易いので放置している。
 あんな事でこの先しっかり騎士団をまとめていく中核になっていけるのかと心配にもなるが、仕事面ではきっちりしているので大丈夫だろう。
 少し隙があった方が部下からは慕われるというもの。
 彼の場合、少しで済まない所もあるのだが。
「なんにせよ、しばらく平和な日が続くって事だ。」
 ふうっとため息を付くと、クィーンが嬉しそうに微笑みかけてくる。
「当然、夜は私につき合ってくれるんだろう?」
「ああ。もちろんだ。」
 笑いあった二人は軽くグラスを打ち付け、ざわつく酒場に軽やかな音を響かせた。
 手にしたグラスをそのまま口に運び、中身を口に含んだところで、クィーンが口を開いた。
「そういえばさ、あんたらって、どっちがどっちなんだい?」
「どっちって・・・・何がだ?」
「女役が。」
 予想もしていなかった言葉に、パーシヴァルは飲み込みかけた酒を思わず吹き出しそうになった。
「な・・・・・いきなり、何を言い出すんだ・・・。」
 少し酒が気管入ってしまい、パーシヴァルはゲホゲホと咳を繰り返す。
 そんなパーシヴァルを呆れたような顔で眺め見たクィーンは、席を立って背中をとんとんと叩いてきた。
「何をやってるんだよ。そんなに慌てるような事聞いてないだろう?」
「脈絡が無さ過ぎるんだよ。大体、そんなこと聞いてどうしようって言うんだ?」
「ただの興味。」
 ニッと笑うクィーンの顔に、何かを企んでいる色はない。
 いや、いつも何かを企んでいるようではあるのだが。
「教えないよ、そんなこと。勝手に想像してればいいだろう。」
「勝手な想像はしてるんだけどさ。いまいちリアリティーに足りなくて。」
「・・・・お前なぁ・・・・・」
 あっけらかんと告げてくる言葉に、深く息を吐き出した。
 そんなパーシヴァルに、クィーンはニヤニヤと笑いかけてくる。
「いやさ、坊やにはあんたを押し倒すだけの甲斐性はなさそうだし、だからといってあんたに抱いてくれっ!って、胸に飛び込む姿も想像出来ないんだよ。じゃああんたの方から坊やを押し倒すのかって考えたら、あんな生きのいい男を組み敷くくらいのやる気にかけてるだろう?」
「・・・・酷い言われようだな。」
「でも、的はえてるだろ?とはいえ、あんたから抱いてくれって誘っている姿は、なんとなくキャラクターじゃないしねぇ・・・・。そう考えると、グルグルまわっちまうのさ。ここらで正解をくれないかい?」
「お断りします。」
 キッパリと言い切ると、クィーンはパーシヴァルの隣の席に腰を下ろし、その腕に自分の腕を絡めてジッと下から顔を覗き込んで来た。
「良いじゃないの。私とあんたの仲だろう?」
「大した仲じゃないだろ。」
「つれないこというんじゃないよ!ほらっ!さっさと吐いちまいなっ!」
 焦れたように立ち上がったクィーンは、パーシヴァルの首に己の腕を巻き付け、窒息させん勢いで締め上げてくる。
「ちょっ・・・・!本気で締めるなよっ!死ぬぞっ!」
「死にたくなかったらさっさと吐きなっ!」
「大人気無いぞっ、クィーンっ!もう32だろうっ!」
「まだ31だよっ!失礼なっ!」
 酒場の一角で騒ぐ二人を、周囲の客がチラリと見やるが、すぐに自分たちの話題へと戻っていく。
 酒場の主人であるアンヌも、困ったように苦笑を浮かべるだけで注意はしない。 
 姉弟のように仲の良い二人の喧嘩は、ここでは日常のものとなっていた。
















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