「ほほ〜〜〜〜〜〜い!大丈夫ほほ〜〜〜〜〜い?」
 ギョームの声で、地面に倒れ伏していたゴードンはゆるりと顔を持ち上げた。
 そして、極めて紳士的な笑顔をギョームへと向ける。
 頬に、砂利が付いていたが。
「ええ、大丈夫ですよ。お気遣い頂き、ありがとうございます。」
 そんなゴードンの紳士的な言葉を聞いているのかいないのか、ギョームが唐突に問いかけてきた。
「ところで、何であの男の事を『姫』と呼ぶんだほほ〜い?そりゃあぁ、多少顔が小綺麗だとは思うけど、どこからどう見ても男でしょ!あんな男より、シャボンちゃんの方が絶対可愛いんだほほ〜〜〜〜い!」
 だから、シャボンの事を『姫』と呼べ。そう言いたげなギョームの言葉に、ゴードンは薄く笑みを浮かべて見せた。懐に、手を差し入れながら。
 理由はあるのだ。彼を『姫』と呼ぶ理由が。そして、それは常に己の懐に忍ばせてある。
 軽々しく他の人に見せたくはないと、強烈な独占欲を感じるが、それと同じくらいの気持ちでみんなに見せびらかしたい気持ちも沸き上がってくる、大切なモノ。
 ソレを、そっと取り出した。
「それは、これを見てから仰って下さい。」
「・・・・・・・・・・むむむむむむむむっ!!」
 ゴードンが懐から取り出したモノを一目見るなり、ギョームはそう叫びを漏らした。
 彼の瞳は、ゴードンが見せた写真へと釘付けになっている。それが、たまらなく嬉しかった。やはり『姫』は、『姫』と呼ぶにふさわしい存在なのだと、認識することが出来て。
「こ、これ、ホントにさっきの男なの?」
「ええ。間違いありません。」
「でも、これ、とっても可愛いぞほほ〜〜〜〜いっ!」
「ええ、それはもう、愛らしくも気品に溢れておりますよ。実物は、写真なんかの数倍も数十倍も愛らしかったのです。あなたにも、お見せしたかった。」
「むむむむむむむむっ!これは、シャボンちゃん以上かなぁ?」
 写真に手を伸ばそうとするギョームの手をスルリとかわし、ゴードンは早々に写真を懐にしまう。汚い手で触れられて、『姫』を汚されたくなかったから。
 そのゴードンの行動に、ギョームは大変腹を立ててしまった。
「なんなのよっ!ケチケチしないで、もっと見せなさいよ!一人締めなんて、ずるいわよっ!」
「なんとでも仰って下さい。何を言われようと、これは軽々しく人目に触れさせるわけには行かない代物なのでね。」
「なんなのっ!ケチっ!ケチっ!いいわよっ!もうっ!」
 キィキィと怒りを捲し立てながら、ギョームは自分の店へと帰って行った。ゴードンがすぐに戻れば、先ほどの会話が再び繰り広げられる事になるのだろう。それはそれで構いはしなかったが、なんとなくすぐに帰る気にもならず、ゴードンは再び懐から写真を取り出した。
 それは、一人の少女が移っている写真。
 年の頃は五・六歳といった所だろうか。腰まで届くか届かないかと言った位に長い真っ直ぐの黒髪を伸ばし、抜ける様な白い肌に似合った、可愛らしい薄いピンクのフリルが付いているワンピースを着ている、端正な顔立ちの少女。
 その造作の良さは、この城に住まう子供達など足下にも及ばない位に素晴らしく愛らしい。
「・・・・・・姫。なんと可愛らしい・・・・・・。」
 この写真を見つめるたびに、同じ言葉がこぼれ落ちる。
 写真の少女は、幼少時のパーシヴァル。
 よくよく見ればそこはかとなく面影があるのだが、そのあまりの可愛らしさに、見せた者の誰もがこの写真の少女がパーシヴァルだと気づきはしなかった。
 可愛らしさの中にも滲み出ている、気品。10にもならない子供の身の内にソレを見たゴードンは、直ぐさま虜になってしまった。嫌がる本人になど構いもせず、抗議の言葉を叩き付けてくる彼の両親の言葉を無視して、阿呆の様に写真を撮りまくったのが、ついこの間だった気さえしてくるから、不思議だ。
 パーシヴァルの姿をカメラに納めるのは今でも続いている事だから、その感覚は当然の事なのかも知れないが。
 そのカメラで彼の姿を撮るのは、イクセの村の特殊な祭りの時。もうそろそろ、その祭りの時期になる。
「・・・・・・・楽しみですねぇ・・・・・・。」
 祭り本番のパーシヴァルの姿を思い浮かべて、ゴードンの顔にはこれ以上無いくらい幸せそうな笑みが浮かび上がった。
 早く祭りが来ないものかと。遠足を待ちわびる子供のように、その日までの日数を指折り数えるゴードンだった。

















どこぞの話に続いてます。汗。










                 プラウザのバックでお戻り下さい。

















道具屋の宝物