意識を集中させて、現実とは違う世界にいる敵と対峙する。
 今日の相手はグレッグミンスターの落城時に相対した奴ら。
 傷を負った自分に次々と襲いかかってきた帝国の兵士達。
 その動きを脳内で正確に思い出しながら、あの時よりも素早い動きで切り捨てていく。
 肉を割いても悲鳴を上げない人間達を。
 自分が一つ動作を取るたびに、床に転がる死体の数が増えていく。
 足元には赤黒い液体が溢れ出し、感じるはずのない血臭が鼻腔をくすぐった。
「・・・・・・・・・お前で終わりだ・・・・・・・・・」
 呟き、目の前の敵を頭から切り捨てる。
 ドサリと、肉が倒れる重たい響きが耳に届いた気がして、少し口元を緩めた。
「少し、弱すぎたな・・・・・・・・・・」
 あの時は傷を負っていたせいで苦労したが、万全な体調である今の自分の相手にしては骨が無さ過ぎた。
「もう少し、粘れると思ったんだがな・・・・・・・・・」
 こいつ等を相手にするはもう止めよう。
 そう内心で呟きながら己の視界と意識を現実の世界に引き戻した瞬間。
 フリックは自分の背後に向って素早く剣を切り込んだ。
 ガキンと、固い金属音が響き、近くの木に止まっていた小鳥たちがその音に怯えたように空高く飛び上がった。
「・・・・・・・・危ねーな。何すんだよ、お前。」
 フリックの本気の剣を己の剣で受け止めた男は、顔を引きつらせて冷や汗を垂らしながらそう、抗議の声を上げてきた。
 そんな男に、フリックは一瞬の間に全身に張り巡らせた殺気を霧散させ、己の剣を腰に戻す。
「人のトレーニング中に迂闊に間合いに入るお前が悪いんだろうが。死にたかったのか、ビクトール?」
 軽く首を傾げながらそう問いかけたら、男は・・・・・・・・ビクトールは、心底イヤそうに顔を歪めて見せた。
「死ぬのもゴメンだが、てめーに殺されるのはもっとゴメンだぜ。大体、もう終わってただろうが。」
 何が、とは言わなかったが、彼の言わんとしていることがフリックには分かる。だから、馬鹿にするように笑ってやった。
「俺の意識はまだアソコにいたさ。それに気付かなかったお前が悪い。」
「・・・・・・・・へぇへぇ。以後気を付けますよ。」
 ふて腐れたようにそう答えたビクトールの態度に、フリックの頬は自然と緩む。
「ああ。気を付けてくれよ。俺はお前を殺したい訳じゃないんだからな。」
 クスクスと笑いを零しながらそう告げたフリックは、改めてビクトールの顔を覗き込んだ。
「で、なんの用なんだ?ずっと待ってたみたいだが。」
「・・・・・・気付いてたのか?」
「あれだけ熱烈に見つめられればな。鈍い奴でも気付くさ。」
「だったら途中で止めりゃぁいいじゃねーか。意地悪な奴だな。」
「なんで俺がお前のためにやっていることを中断しないといけないんだよ。」
 呆れたようにそう返してやれば、ビクトールは情けない顔で盛大な溜息を吐き出した。
 だが、すぐに気を取り直すように小さく頭を振り、フリックの青い瞳を見つめ返してくる。ニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべながら。
「・・・・・・・・チッチが探してた。明日からの遠征の打ち合わせをしたいそうだ。」
「そう言うことは早く言えよ、馬鹿。」
 返された言葉に、少々焦る。その場に居るのがチッチだけならまだしも、シュウがいたら五月蠅いことを言われてしまうのは目に見えて明らかなことだから。呼び出されてからどれだけの時間が経っているのかフリックに正確な時間は分からないが、多分奴は怒っているだろう。小言の一つや二つや三つは覚悟していかねばならない。そしてきっと、長いのだ。日頃の鬱憤を晴らすように、くどくどと嫌味を言われるに違いない。
 そう思うと、全身にドッと疲れが押し寄せてきた。先程、見えない敵に相対していた時とは比べモノにならないくらい強い疲労が。
 そんなフリックの心の内を読んだのだろう。ビクトールがニヤリと、からかいの色を含んだ笑みを見せてきた。
「んなの、自業自得だろ。俺の存在に気付いていたくせに無視しやがったんだからな。」
「声をかけてきてたら答えたさ。」
「どうだかな。」
 軽い調子でそう返してきたビクトールは、何を思ったのか、いきなりフリックの肩に腕を回してきた。フリックの細い身体にしなだれかかるように。
 途端に、フリックの眉間に深い皺が刻まれる。
「・・・・・・・・なんなんだよ、この態度は。」
「あん?別になにも?ただ、どうせ行くなら仲良く行こうかなぁとか、思ってよ。」
「・・・・・・・お前の『仲良く』はこういう状態を言うのか?」
「まぁな。本当は手を繋ぎたいところだが・・・・・・・・・・・・」
「そんな事をしたら雷落とすぞ。」
「そう言うと思ったから、コレで我慢だ。」
 そう告げ、後ほんの少し近づいたら唇が触れ合わさるような距離まで接近させた顔をニヤリと笑ませるビクトールに、フリックは呆れの色を大いに含んだ息を吐き出すことしかできなかった。
 ここで嫌がろうと、ビクトールを引きはがす事は出来ないだろうから。逆に、嫌がって騒げば騒ぐほど、この男を喜ばせるような気がしてならない。
 だから、どうでも良さそうに一言、吐き出した。
「・・・・・・・・・勝手にしろよ。」
「ああ。俺はいつもそうしてるぜ?」
 自慢にもならないことを自慢げに言って返すビクトールの態度に、再度息を吐き出した。
 ベタベタした関係は嫌いだが。
 まぁ、でも。
 彼との関係は悪くない。
 そう、胸の内で呟きながら。

































珍しく甘めで。












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