割と近くから凄まじい爆発音が聞えた。
 地面が微かに震える程なのだから、その威力はそうとう大きいだろう。普通ならその爆音を聞き、地面が震えた事を感じた人々は恐怖に戦くだろうに、この城に住まう人達はまったく気にした様子を見せずにそれぞれの作業を続けていた。これくらいのことで一々驚いていたら疲れてしまうから。
 そんなことが日常となっているこの城の将来に少々不安を覚えながらも、チッチはその音の発信源へと足を向けた。
 近づくにつれ、肉の焦げたような匂いが鼻につき始めた。ブスブスと、火がくすぶっているような音も聞えてくる。そして、僅かに立ち上る白い煙が見えてきたところで、風になびく青色がチッチの視界に過ぎった。
 一瞬、足が止る。
 その青色に瞳を奪われて。
 使い古され、元の鮮やかさが無くなっているにもかかわらず、鮮烈な印象を受ける青色に。
 轟音と地震の発信源にもかかわらず、この場にはとても静かな空気が漂っていた。
 何の感情も窺えない。
 あれだけ大きな騒ぎがあったのに。
 怒りも憎しみも、そう言ったマイナスの感情が一切無い。
 いつもそうだ。爆音が轟く前は確かな怒りを感じるのに、鳴った後にはそういった感情を読み取ることが出来ない。その一発で気持ちの整理を付けたと言わんばかりに。
 確かに、いつもいつも下らないことで喧嘩をしている。喧嘩の原因など、すぐに忘れるだろう事で喧嘩をしている。だからといって、そう簡単に気持ちを切り替えられるモノなのだろうか。少なくても、自分にはそんなことは出来ない。どんなに仲の良い者との喧嘩であっても、これだけ盛大に喧嘩をすれば一日二日は引きずってしまう。そうならないのは、彼等が大人だからだろうか。それとも、自分には理解出来ない位に互いのことを理解し合っているのだろうか。
 そんなことを考えながらジッと見つめていた青色が、風の力とは違う力で翻る。そして、その青色よりもなお一層鮮やかで印象的な青い双眸がチッチへと向けられた。
 その青い色の瞳が、柔らかな光を浮かべて微笑みかけてくる。
 自分の姿を認めて。
 自分のためだけに。
 その事に、ほんの少しだけ胸が沸き立った。
 彼に対しては親愛の情しかないけれど。
 それ以上の深い情は無いけれど。
 それでも、この世に存在する何よりも鮮やかな青色に浮かぶ優しい光と、彼の整った顔に浮かぶ笑みは、誰の笑顔よりも美しくて。ときめかない方がどうかしていると思う。
 誰よりも強くて、誰よりも綺麗な人だと思う。だけど、厳しい人だとも思う。無条件に優しいわけではない。誰にでも分け隔て無く優しさを振りまいているように見えて、実際はそんな事は無いのだと、チッチは気づいていた。
 彼が万人に見せる優しさは、上辺だけの物。本物の優しさは、彼のずっと奥深いところにある。
 そんな人に、自分は守られている。精神的にも、肉体的にも。勘違いではなく、上辺だけのそれでもなく。間違いなく、確実に。
 だから、子供らしい笑顔を返す。自分を大きく見せる必要は無いから。力を抜いて、自分自身で居ても大丈夫な人だから。そうしても良いときに、そうしても良い空間を作ってくれる人だから。
 軽く地を蹴るようにして駆け出した。子供で居られる空間に飛び込むために。
 抱きついても怒られないだろうと、確信して。





















































                      ブラウザのバックでお戻り下さい。










空間