「そう言えば、ビクトールさんは意外と毛が薄いですよね。」
 カミューがそんなことを言ってきたのは、酒場で軽く飲んだ後にカミューの部屋に移動して、他愛の無い話をしながら酒を酌み交わしている時だった。
 その言葉に、一瞬酒を飲む手を止めたビクトールは、己の腕をチラリと見た後にコクリと頷いた。
「まぁ、そうだな。そんなに濃くはないな。」
 毛が薄いと言うほどではないが、毛深いと言う程でも無いだろうと自分では思うので。
「それがどうしたよ?」
 何でいきなりそんなことを問われるのか不思議に思って問い返すと、カミューはその整った顔に薄い笑みを浮かべながら軽く首を振り返してきた。
「いえ、なんとなく。ビクトールさんは毛深いイメージがあったので。」
「イメージって・・・・・・・いっつも腕を出してんだろ、俺は。」
「そうなんですけどね。」
 クスリと自嘲するような笑みを零したカミューは、そこで一旦言葉を止めて酒を一口含んで喉の奥に流し込んだ。そして、言葉を続けてくる。
「ビクトールさんは男性ホルモンが多そうで。」
「・・・・・・・・そうか?」
「ええ。筋肉隆々で雄々しいですから。羨ましい限りです。」
 その言葉が本音かどうかは分からないが、確かにそれは一理ある。少なくても、カミューよりは男臭い。ビクトールはコクリと頷いた。
「まぁ、そうかもな。そう言う点から見たら。そうすると、お前は毛が薄いって事か?」
 問いかけて、コレで意外と毛深かったらどうしようかと考えた。女みたいだとは言わないが、男にしては綺麗な部類に入る彼の顔で腕やら足やら胸やらに毛がワンサと生えていたら結構興ざめだろう。千年の恋も冷める。
 そんなことを考えた内心を読まれたのだろうか。カミューは苦笑を浮かべながら言葉を返してきた。
「私はフリックさんと同じくらいですよ。」
 サラリと告げられた言葉に、ビクトールのこめかみがピクリと動いた。なんでお前がそんなことを知っているのだと、思って。
 が、仲の良い二人だ。風呂にも良くつるんで入りに行っている。烏の行水をばりにすぐに風呂から上がる自分と違って恐ろしく長風呂な二人なので、互いの体毛の状態を知っていてもおかしいことではないかもしれない。
 おかしくはないと思いはしたが、そう考えると微妙にむかついてきた。一緒に風呂に入りながら、カミューがフリックの身体を観察しているのかと思ったら。カミューだけではなく、この城に住まう人間全てが風呂場でフリックの裸体に熱い視線を送っているのかも知れないと思ったら、怒りが身の内で沸き上がってきた。
 だが、そんなことで嫉妬して誰彼構わず怒鳴り散らすのは大人げない。此処は余裕で対応しないといけないだろう。懐の大きな男だと言うことをアピールするために。
 そう判断して、ビクトールは満面の笑顔を浮かべて言葉を返した。
「そうか。じゃあ、そこそこ薄目なんだな。」
「貴方がそう言うなら、そうなんでしょうね。」
 ビクトールの笑顔と言葉に、カミューはクスリと小さく笑いを返してきた。とても綺麗な。だけど妙な腹黒さを感じさせる笑顔で。
 フリックほどではないが、この男もなかなかに食えない男である。その綺麗な顔の下で何を考えているのか、読み取るのは難しい。
 二人はしばし微笑みあった。互いを牽制するような空気を作って。
 その空気を破るように、カミューが己の傍らで静かにグラスを傾けていたフリックへと視線を向け、言葉をかける。
「実際の所、どうなんです?」
 会話に加わるつもりは欠片も無かったらしい。フリックは突然話しかけられたことに驚いたように大きく瞳を見開き、数度瞬きを繰り返した。そして、首を傾げる。
「・・・・・・・・何がだ?」
「ビクトールさんの体毛です。腕の毛はそんなに濃くないですけど、すね毛とかはどうなんですか?」
「すね毛?ビクトールのか?」
「ええ。」
 不思議そうに問いかけるフリックに、カミューはもの凄く楽しそうに笑いかけながら頷いた。いったい何がそんなに楽しいのか分からないが、彼は妙に上機嫌になっている。目に見えて分かるほどに。
 もしかしたら彼は、かなり酔っぱらっているのかも知れない。もしかしなくても酔っぱらっていると思うが。
 なにしろ空にした酒瓶は相当な数なのだ。酔っぱらっていない方がおかしい。飲んでもそれ程顔色の変わらない彼が、頬をホンノリ朱色に染めている事だし。これは間違いなく酔っぱらっているだろうと、ビクトールは判断した。
 ビクトールがそう判断を下したとほぼ同時に、フリックが気安い口調でカミューに言葉を返し始める。
「そうだな。そこまで濃くないんじゃないかと思うぜ、俺は。許せる範囲だし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・許せる範囲?」
 付け加えられた言葉を耳にして、ビクトールの身体がビクリと震えた。そして、反射的にフリックの顔を見つめる。彼の言葉に、不穏な気配を感じ取って。
「おい・・・・・・・・・・・・・」
「そうなんですか。じゃあ、胸毛はどうです?あるんですか?イメージ的には結構ありそうなんですけど。」
 かけようとしたビクトールの言葉をかき消すように、明るいカミューの声が室内に響き渡る。その問いに、フリックはまたもやアッサリと言葉を返した。
「いや、無いな。」
「全然?」
「ああ。」
「・・・・・・・・・・・・・・それは意外ですね・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 カミューは真面目な顔で呟きを落とす。そして、ジッと、ビクトールの胸元を見つめてきた。
「・・・・・・・・・・・・確かに、以前チラリと拝見した時は何も無かったような気がしますが。なんとなく、ワッサワッサと森のように茂っているような気がしてましたよ。ビクトールさんの胸毛は。」
「ああ、確かにな。そんな感じはする。」
 ジロジロとビクトールの全身を眺めながら微妙に失礼な感じの言葉を紡ぐカミューに、フリックはコクリと頷き返した。そしてニッコリと、なんの邪気も無いような可愛らしい笑顔を振りまく。
「でもまぁ。実際にそんな風になってたら、速攻で切り刻んでいたな。」
 明るい口調で綴られたその言葉に、ビクトールの身体は意識する前にビクリと大きく震えた。無邪気な笑顔の中にキラリと光る青い瞳に、本気の色が見て取れたので。
 だが、酔っぱらったカミューは気付かなかったらしい。ニコニコと機嫌良く言葉を返してきた。
「そうなんですか?フリックさんは、毛深い人はお嫌いですか?」
「ああ、嫌いだな。指にも巻くほどの毛が生えている男には触られたくもないぜ。胸毛もな。そんなモノを見せられたら、速攻で剣の錆にしちまう。」
 心底嫌そうに顔を歪めながらそう告げたフリックの全身からは剣呑な気配が滲み出していた。本当に条件反射で剣を抜き払いそうな、そんな気配が。
 にも関わらず、カミューは臆する事無く気安い口調で会話を続ける。
「剃れば良いじゃないですか。」
「剃った後のあの妙にチクチクした感触も嫌いなんだよ。そもそも、せっせと胸毛をそり落としてるビクトールの姿なんてもの、想像するのも気持ち悪いぜ。」
「それはそうですね。」
 ビクトール的には納得出来ない内容の言葉だったが、カミューには納得の行く言葉だったらしい。アッサリと頷いた。そして、一点の曇りもないにこやかな笑顔をビクトールへと向けてくる。
「良かったですね。ビクトールさん。胸毛が無くて。」
「まったくだな。そんなモノがあったら、お前は今頃土に帰ってるぜ。」
 綺麗な顔の男が二人揃ってニッコリと微笑みかけてきた。それはもう、思わず胸がときめくほどに綺麗な笑顔だ。
 が。ビクトールは違う意味で鼓動を早くしていた。
 命の危機を感じ取って。
「・・・・・・・・・・・・お、おう。そうだな・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 引きつりながらも笑い返し、気持ちを落ち着けるために酒を飲む。胸の内で、この地に眠る先祖に感謝の言葉を吐きながら。
 体毛が濃くない遺伝子を与えてくれて有難う、と。



























アホ話し。
折角アンケートを取ったので、マイ世界での毛の事情を書いてみたり。笑。
毛深そうなイメージがあっても、想像したくないのでビクトールの胸毛は却下です。
フリックはもっと却下です。でもまぁ、多少の毛はあるとしておきましょう。微笑。




ちなみに、アンケート結果は下記の通りになっております。
ご協力ありがとうございました!
皆様からのコメントは大いに笑かして頂きましたvv
またの機会がありましたら、是非ともお答え下さいませvv




アンケートにお答え下さった方にはダウンロードフリーに致します。
こんな話で宜しければ、お持ち帰り下さいませvv



フリックさんなら人並みよりも薄目の方が好みです。 14名
フリックさんの胸毛は勘弁して下さい。 8名
ビクトールの胸毛なんて、もってのほか! 8名
ビクトールの足毛は人並みだわ! 7名
ビクトールはすね毛がボーボー 5名
いや、ビクトールの腕に毛はない! 3名
ビクトールは腕毛がボーボー 2名
フリックさんはツルツルで! 2名
いや、フリックさんも人並みにある程度で 1名
ビクトールは胸毛がボーボー 1名









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毛の事情