「てめぇがこの騒ぎの張本人だなっ!今、とっ捕まえてやるぜっ!」
 視界が完全に戻った所でビシリと獣に指を突きつけてそう宣言したビクトールは、五人の男が翻弄されている場へと、乗り込んでいった。
「駄目っすよ、隊長っ!」
「網かなんかがないと、コイツを捕獲する事なんて無理ですよっ!ここは一度、体勢を立て直して・・・・・・・・・」
「うるせぇっ!まだコイツはこの場に居るんだ、まだチャンスは・・・・・・・・・」
 気弱な事を言ってくる傭兵達の声に怒鳴り返し、ビクトールが獣に手を伸ばそうとした。だが、それを合図にする様に、それまで自分に群がる人間達を馬鹿にするようにその場で逃げ回っていた獣が、急に近場の木の上に飛び移った。
 どうしたんだと思う間もなく辺りに目映い閃光が走る。そして、先程まで獣がいた地面を強力な雷がえぐり取った。
「・・・・・・・チッ!はしっこい奴め・・・・・・・・!」
「フリックっ!おせーよ、てめーっ!」
 ようやく姿を現したフリックにそう声をかけながら背後を振り返ると、そこにはものすごく気怠そうに手近な木の幹に寄りかかるようにして立っているフリックの姿が。
「・・・・・・・フリック・・・・・・・・・?」
 滅多に見ない彼のそんな姿に、ビクトールは獣の事など忘れて彼の元へと駆け寄った。
「どうしたんだ?なんか、様子がおかしいぜ?」
「・・・・・・・・うるさい。年がら年中おかしいお前に言われる筋合いはない。」
「あのなぁ・・・・・・・・」
 強気な言葉が出るなら大丈夫か。そう判断を下したビクトールは、態とらしく眉尻をつり上げた。
「俺がいつおかしなマネをしたよ。」
「いつもだよ。お前は存在そのものがおかしいんだからな・・・・・・・・・・・・」
「フリックっ!」
 失礼極まりない言葉に言い返してやろうと口を開いたビクトールだったが、その口からは焦りの色が大いに含まれた声で彼の名が発せられた。急にフリックの身体から力が失われ、フラリとその痩身が崩れ落ちたために。
 その身体が地面に打ち付けられる前になんとか掴み取ったビクトールは、そのまま自分の胸へと抱き込んだ。そして、自分の首筋にかかる息の熱さに目を見張る。
「お前・・・・・・・・すげー熱だぞっ!」
 慌ててグローブを脱ぎ捨てフリックの額に手を乗せれば、そこは凄まじく熱くなっていて、思わず叫び声を上げていた。
 その声にうるさそうに眉間に皺を寄せたフリックが、瞳を開こうとするように僅かに睫を振るわせた。だがそんな力もないのか、震えはすぐに収まり、フリックはビクトールの腕の中にグッタリと身を任せてきた。
「おいっ!フリック!フリックっ!」
「どうしたんすか、隊長っ!」
 ビクトールの様子に尋常じゃ無いモノを感じ取ったのだろう。傭兵達が慌てたように駆け寄ってきた。
「・・・・・・・・熱が高い。異様にな。」
 そう言葉短く告げたビクトールは、集まった傭兵達の中で一番小柄で年若い男へと、瞳を向けた。
「ジュノー。すぐにミューズに行って、ホウアンを連れてきてくれ。これはちょっと、おかしい。」
「おっけーっす!」
 真剣な眼差しで頷いたジュノーは、直ぐさまその場から駆け去った。その動きを確認もせず、今度はダレスへと瞳を向ける。
「ダレスは村に行って状況を説明してきてくれ。で、しばらく村に留まって奴が出てくるのを見張ってろ。出てきたらなんとしてでもとっつかまえろ。殺しても構わねー。」
「了解しました。」
「アレクとウィルもダレスに付け。イーオは先に砦に戻ってレオナにこの事を知らせてくれ。戻ったらすぐにフリックを休ませられるようにな。」
「分かりました。」
 指示通りに散っていく傭兵達の後を追うように、ビクトールはグッタリと力の抜けたフリックの身体を抱え上げた。少しでも楽な体勢をと思い、お姫様ダッコと呼ばれる抱え方で。
 力無くビクトールの肩口に頭を預けてくるフリックの額が異様に熱い。かかる吐息も。呼吸の回数も異常に多く、寝ている時は死んだように僅かな寝息も立てないこの男の呼吸音の荒さが耳に響く。
「・・・・・・・・待ってろ。すぐに連れ帰ってやるからな。それまで、我慢しててくれ・・・・・・・・・・」
 呟き、労るように熱い額へと口付けた。
 そして、抱き上げた身体に負担をかけないよう注意しながら走り出す。自分が乗ってきた馬の元へと。少しでも早く、砦に戻るために。 

















続きはオフライン発行物にて。
いつ出るかわかりませんが。笑。




いつの日か発行しようと思いつつラストが書けずに放置状態の話から抜粋。
「たまにはビクトールを活躍させよう」をテーマに書かれているので、フリックが本気で不在話。
果たして、フリックの身になにがっ!
と、しばらく悶えて下さい。微笑。












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「獣(仮題)」から抜粋