「うわっ!」
「どわっ!」
 突然目映い光に包まれたと思ったら身体に凄まじい衝撃を感じて、フリックとビクトールは大きく悲鳴を上げた。
「ビクトールっ!早く退けっ!この、デブっ!」
「あぁ?誰がデブだっ!このっ!」
「い・い・か・らっ!どけっ!焦がすぞっ!」
 何が起こったのか分からないが、腹這いの状態で倒れた所にビクトールに背中から乗っかられていたフリックは、眦をつり上げて己の身体の上から退こうとしないビクトールを怒鳴りつけた。全身にユラリと殺気が沸き上がらせて。
 その殺気を感じ取ったのだろう。ビクトールは慌てて身体を起き上がらせた。
 ようやく身体の圧迫が無くなったフリックは、床に突っ伏しながら深く息を吐き、乱れた髪を掻き上げながらゆっくりと身を起こした。
「・・・・・・・・ったく。なんなんだよ、コレは。またビッキーの仕業か?」
 呟きながら先に立ち上がった男へと視線を向けると、そこにはポカンと大口を開け、間抜けな顔をさらしているビクトールの姿があった。
 そんなビクトールの様子に、フリックは眉間に深い皺を刻み込む。
「どうした?」
「・・・・・・・・・・・・・・アレ・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?」
 要領を得ないビクトールの言葉に少々切れそうになりながらも、彼が指さす方向に目をやったフリックは、ビクトール同様大きく瞳を見開いた。
 目の前に広がっていたモノが、どこからどう見ても先程まで自分達が居た見慣れた城内ではなかったから。城内でないばかりか、陸地ですら無い。
 日の光を反射させて輝いているのは、どこからどう見ても水面だ。しかも、とめどなく広がっている。どんなに目をこらしてみても対岸が見えない。
「何だ、コレは?」
 思わずそう呟きを漏らしてしまった。そんなフリックの言葉に、ビクトールは気の無さそうな声で返してくる。
「さぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこかの湖かな。」
「どこかって何処だよ。」
「さぁな。どうやら此処は船の上らしいから、船室を探せば知ってる奴に会うかもしれねーぜ?」
「・・・・・・・・敵船だったらどうする気だよ。」
「そん時は潔く戦って船を奪い取って城に帰れば良いんじゃねーの?」
「お前、そう簡単にいくと思ってるのかよ・・・・・・・・・・・・・」
 楽天的なビクトールの言葉に、フリックは呆れたと言わんばかりに息を吐き出した。
 そんなフリックの態度は意外なモノだったらしい。軽く目を瞠ったビクトールは、不思議そうに首を傾げながら問いかけてくる。
「なんだよ、お前。やけに否定的じゃねーか?いつもだったらもっと色々と前向きに考えるくせによ。」
「時と場合によるだろうが。こんなわけの分からない状況に突然放り込まれたら対策の立てようが・・・・・・・・・・」
「ちょっとっ!あんた達、どっから現われたのよっ!」
 フリックが言葉を言い終わる前に、甲高い声が辺りに響いた。
 その声に、フリックとビクトールは揃った動きでそちらへと視線を向ける。条件反射で腰の武器に手を伸ばしながら。
 視界に飛び込んできたのは、眦をこれ以上無いほどつり上げたオレンジ色の髪の少女だった。そして、その傍らには楽しげに微笑んでいる麦わら帽子を被った少年がいる。少女の方は緊迫した雰囲気を醸し出していたが、少年は自分達の存在を何も気にしていなさそうなくらい自然体だ。
 その少年の存在を無視するかのように、少女が怒鳴りつけてくる。
「もしかして、海軍?!いきなり現われるって事は、悪魔の実の能力者?!」
「・・・・・・・・・・・はぁ?」
 少女が言っている言葉の意味が分からず、ビクトールとフリックは首を傾げた。そして、互いの顔を見合わせてみる。だが、そんなことをした所で分からないモノは分からないままだ。この状況が良く分らないのはお互い様なので。
 分からない事は聞けば済むことだろう。丁度良く人が現われたことだし。どうやら自分達が想定していた最悪の事態ではないようだし。
 そう考え、フリックは改めて少女へと向き直った。
「悪いんだが、俺たちにはキミが言っている事が良く・・・・・・・・・・・・」
「しらばっくれる気ねっ!益々怪しいわっ!ルフィっ!やっちゃいなさいっ!先手必勝よっ!」
 フリックの言葉をかき消すように、少女がそう叫んだ。どうやらかなり短気な性質らしい。
「おい、ちょっと俺たちの話を・・・・・・・・・・」
 聞けよ、と言う前に、ルフィと呼ばれた麦わらの少年が楽しそうに己の腕をグリングリンと回し始めた。そして、嬉々として叫ぶ。
「おうっ!行くぞ〜〜〜っ!ゴムゴムの〜〜ガトリングっ!」
 少年が叫んだ途端、腕があり得ない位長く伸びてきた。
「うわっ!」
「なんだ、こりゃぁっ!」
 その腕のあり得ない動きに度肝を抜かれてギョッと目を剥きながらも、長年培ってきた経験のお陰で身体が反応し、少年のあり得ない攻撃を避けていく。
 次々と隙間無く繰り出される攻撃は正気付いても裂ける事がかなり厳しいモノだった。それでもなんとか紙一重で裂けていくと、急に少年の伸びる腕が通常サイズに縮まった。そして、楽しげに笑う。
「しししっ!おめーら、すげーな。全部避けてるぞっ!」
 そんな少年に向かって、フリックは珍しく、激しく動揺しながら怒鳴り返した。
「てっ・・・・・・・・てめぇっ!なんだ、その腕はっ!人型のモンスターなのかっ?!」
 その問いに、ルフィと呼ばれた少年とオレンジ色の髪をした少女は不思議そうに首を傾げ、互いの顔を見合わせる。そして、少年がキッパリと言い切ってきた。
「俺はゴムゴムの実を食べたゴム人間だ。」
「ゴムゴムの実?なんだ、そりゃ。」
「悪魔の実よ。・・・・・・・・・・何、あんたら。そんなことも知らずにこの船に乗り込んできたわけ?呆れた。」
 不思議そうに問いかけるビクトールの言葉に、少女は本気で心の底から呆れかえっていると言わんばかりの声でそう言ってきた。そして、ニマリと性質の悪そうな笑顔を浮かべてくる。
「でもまぁ、こっちにしてみれば好都合よね。ルフィ。ガンガン、やっちゃいなさいっ!」
「おう。行くぞ〜〜〜〜」
「待て、ルフィ。俺にやらせろ。」
 嬉々としながらあり得ない腕の回転を見せていた少年の動きを制するように、別の声が割って入ってきた。その声の方へ視線を向けると、そこにはガッチリした体格の、緑色の髪をした少年の姿が。その少年の腰には、3本の刀が差してある。
 その刀の多さに驚き軽く目を瞠っているフリックに、緑髪の少年が不敵な笑みを向けてきた。
「アンタ、そうとうの腕の立つ剣士だろ。ちょっくら俺とやり合ってくれねーか?」
 その言葉に、フリックは軽く片眉を跳ね上げさせた。自分が勝つと言う自信に満ちあふれた言葉だったから。
 確かに、彼の身の内には凄まじい力を感じる。自信を持っても良いだろうと思えるくらいのモノを感じ取れた。だが、自分にも負けない自信はある。少年と自分とでは経験値が違う。いくら身体を鍛えたからと言って、それを補えるわけがない。
 フリックは、薄く口元に笑みを刻んだ。こういう生意気な奴を凹ませるのは大層面白いことなので。
「・・・・・・・・良いぜ。相手をしてやるよ。」
「おい、フリックっ!」
 頷いた途端、ビクトールに咎めるような声をかけられた。その声に視線をビクトールに向けたフリックは、ルフィを相手にした時にうっかり崩したいつもの調子を取り戻した声で言葉を返す。
「大丈夫だ。アイツの腕は、伸びそうも無いからな。」
「腕は伸びなくても、足が伸びるかもしれねーだろうがっ!」
「伸びても、そんな手は使ってこないよ。」
 焦ったように言い返してくるビクトールに、フリックは苦笑を浮かべながらそう返した。
 目の前の少年の瞳を見れば分かる。どれだけ真剣に剣の道を生きているのかと言うことが。そんな人間は、例え変な能力を持っていてもよっぽどの事が無い限りその能力は使わないだろう。そう確信したからこそ、フリックは少年の挑戦を受けたのだ。
 あの3本刀は気になるが、「伸びる腕」という妙な武器ではなく、いつも相手にしている武器と同じような形状をしているモノが相手だから、ある程度の使い方は分かる。刀だったらそう奇抜な使い方は出来ないだろうし、知恵を絞って妙な使い方をしてきてもどうにかなると踏んでいる。伊達や酔狂で生まれてからずっと武器を手にした生活をしている訳ではないのだ。
 そう思い、狭い甲板の中程まで足を進めていく。
 待ちかまえる少年の真正面に立ち、オデッサを抜き払えば、少年も二本の刀を抜いた。
 そんな少年に、笑いかける。
「二本なのか?三本使うんじゃ無いのか?」
「てめーが三本抜くに値する奴なら、抜くぜ?」
 からかいの色を含んだフリックの言葉に、少年は不敵な態度でそう返してきた。
 それはなかなか新鮮な反応だ。最近そんな尊大な態度で出てくる人間の相手をしていなかたので。
「・・・・・・・・ちょっとは楽しめそうだ。」
 呟きながら、ほくそ笑む。そして、剣を握る腕に力を込め、低く声をかけた。
「行くぜ。」
「おうっ!」
 叫ぶような少年の声を合図に、床を蹴った。なんだか妙に身体が軽いなと、思いながら。
 剣を振り下ろして少年と打ち合う。何度も何度も。本気で振り下ろしているのに、少年に傷を与えられないし、隙を作り出す事も出来ない。相手にも与えては居ないけれど。
 鍔迫り合いをし、互いの剣を弾いて後方に下がる。そしてニヤリと、笑い合った。
「・・・・・・・・・・やるじゃねーか。」
「そっちもな。」
 楽しげな少年の言葉に軽く答える。
 なかなか骨のある奴だと本気で思う。勝つのは難しそうだが、負けるつもりはない。
 フリックは口元に薄く笑みを刻み込んだ。何がなんだか分からない状況ではあるが、今は楽しいからまぁいいかと思って。
 そんなフリックの目の前で一度二刀を鞘に戻した少年が、腕に巻いてあった黒いバンダナを頭に巻き始めた。
 途端に、周りの空気が変わる。
 どうやら、少年は本気モードに入ったらしい。目つきがより一層鋭くなり、彼の全身から沸き上がる殺気が強くなった。
「・・・・・・・本気で行くぜ。」
 短く、静かな声で告げてくる少年に笑いかえす。
「望む所だ。」
 答えながら集中力を瞬時に最大値まであげたフリックだったが、その集中力を直ぐさま霧散させてしまった。
 少年が腰に差していた三刀を全て構えた姿を、目にしたから。その構え方のあり得無さに、度肝を抜かれたために。
「なっ・・・・・・・・・・・・・!!!」
「虎・狩りっ!」
 刀を口に銜えているとは思えない位明確な発音でそう言葉を発してくる少年に度肝を抜かれながらも、フリックはなんとかその攻撃を己の剣で受け止めた。
 もの凄い剣圧のせいで身体の脇を突風が吹き抜けていく。その剣圧の凄さにも度肝を抜かれたフリックは、それでも己を見失うことはせずに少年の剣をジリジリと受け止め、力任せに払いのけた。
 そして、軽い足取りで後方に下がって十分に距離を取ってから、少年に向かって怒鳴りつける。
「てめぇっ!なんだ、そりゃあっ!なんで刀を銜えてんだっ!それよりも何よりもなんだ、あのあり得ない剣圧はっ!そっちのガキと同じようにてめーも新種のモンスターなのか?!この野郎っ!だったら容赦しねーぞっ!マジで沈めてやるっ!」
 次から次へと繰り出されるあり得ない事態に、近年まれに見るほど激しく動揺しながらそう怒鳴りつければ、少年は不機嫌そうに瞳を瞬いた後にムッと顔を歪めてきた。そして、言葉を返してくる。
「あ?んだと?誰がモンスターだっ!俺はルフィと違って悪魔の実なんか食ってねーぞっ!正真正銘普通の人間だっ!」
「うるせぇっ!そんな言葉に騙されるかよっ!」
 少年の言葉を聞き入れるつもりなどサラサラ無かったフリックは、ビシリと指先を少年に突きつけた後、素早くオデッサを腰の鞘へと仕舞い込んだ。そして、背後で事の成行きを見守っていたビクトールへと声をかける。
「ビクトールッ!避けてろっ!」
 その言葉だけでフリックが何をしようとしているのか分かったのだろう。ビクトールがサッと身体を動かした。被る被害が少なそうな所へ。
 そんなビクトールの動きを視界の隅で捕らえたフリックは、素早く詠唱を唱えだした。己が放てる最大で最高の技を仕掛ける為に。
 そして、全身に満ちあふれた力を迸らせるために叫ぶ。
「雷のあらしっ!!」
 途端に、頭上に大きな力が沸き上がった。いつも以上に大きな力が。
 その大きさに、ギョッと目を剥く。いつもの倍どころか、四倍も五倍も大きい。詠唱はいつもと同じモノだったのにもかかわらず。
「なっ・・・・・・・・・・」
「おいっ、フリックっ!いくら何でもそりゃぁ、やりすぎ・・・・・・・・・・・」
 自分の放った力の大きさに呆然としているフリックに、ビクトールが慌てた声で言葉をかけてくる。
 そんなビクトールの言葉に被るように、少年達が大きな声で悲鳴を上げた。
「やだっ!アイツ、ゾオン系?!」
「まずいぞ、ルフィ。どうにかしろっ!」
「おう、任せろっ!」
 麦わらの少年の声が響き渡った途端、フリックとビクトールの目の前に目映い光が弾けた。そして、慣れた浮遊感が身体を包み込む。
 と、思ったら、全身に強い衝撃を感じた。
「うわっ!」
「ぎゃあっ!」
 先程と同じような状況で床の上に転がり落ちたフリックの背中の上に、ビクトールが落ちてくる。その圧迫感に小さく息を飲み込んだフリックは、また妙な場所に放り投げられたのだろうかと慌てて視線を彷徨わせてみた。
 そこは、見慣れたビクトールの部屋だった。どこからどう見ても。今朝ビクトールを叩き起こしに来た時と同じようにテーブルの上にグラスが乗っていて、酒瓶は寸分違わぬ位置に転がされていた。だから、疑う要素は低い。
「・・・・・・・・・・戻ってきた・・・・・・・・・・・のか?」
 まさか、良く似ている他人の部屋、と言うことは無いだろうなと内心で呟きながらも、フリックは全身から力を抜いた。その部屋が、記憶にあるモノとまったくと言っていいほど同じモノだったから。置いてあるモノも、匂いも。
 だから戻ってきたのだと確信する。そして、小さく呟いた。
「・・・・・・・・・・なんだったんだ、アレは・・・・・・・・・・・・・・」
 さすがに怖かった・・・・・・・・・・・・・
 誰にも言えない言葉を胸の内で呟きながら、フリックは己の身体の上に乗っかったままのビクトールをはね飛ばしたのだった。































アホでスイマセン。汗

















                      ブラウザのバックでお戻り下さい。





あり得ない話でゴメン(←タイトル。笑。マジにあり得ない話です。ホント、スイマセン。汗)