「この戦いが終わったら、何をしたい?」
 身体が触れあう程近くに座っているオデッサが、無邪気に微笑みながら問いかけてくる。その言葉に、フリックは言葉を濁した。
「何と、言われてもな・・・・・・・・・・」
 とくに何か考えがあるわけではない。オデッサのように何かを成す事を目標にして生きているわけではないので。
 一応、『成人の儀式』の最中と言うことになっているが、ソンナモノはどうでも良いことだ。『功績』を上げたくて戦っているわけではないのだから。
 そもそも、『功績』を上げた所で村に帰るつもりはない。あんな所、頼まれても二度と行きたくないのだから。
 そんなことを考えながらさてどう答えようかとしばし悩んでみたが、結局言える言葉は一つしか思い浮かばなかった。
 なので、その言葉を口に出す。
「普通の傭兵になるかな。」
 その言葉に、オデッサはキョトンと目を丸めた。実際の年齢よりも幼く見える、表情で。
 そして、不思議そうに首を傾げてくる。
「普通の傭兵?」
「ああ。その日を過ごすための金を稼ぐために剣を振るう傭兵に、さ。誰かの夢を叶えるために存在するのではなく、ただ己が生き続けるために剣を振るうだけの傭兵に、な。」
 告げながら、からかうような笑みを見せてやる。今の自分はイレギュラーな活動をしているのだと、その笑みで語るように。
 そのメッセージを正確に受け取ったのだろう。オデッサは戯けたように肩を竦めた後、傍らに座すフリックの肩に己の頭を乗せてきた。己の身体を、フリックの身体に寄り添わせるように。
 そして、呟く。
「・・・・・・・・・・フリックは、戦いが好きなのね。」
「それしか出来ないからな。」
 呟かれた言葉に、速攻で返す。本当に、そう思うから。だが、その言葉に直ぐさま言葉が返された。先程のフリックの発言を否定したがっているような、言葉が。
「そうかしら?」
「ああ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦ってないと、気が狂う。」
 そんなことは無いだろうと言いたげなオデッサに軽く頷いた後に低い声で告げ、肩に乗る小さな頭を掌で軽く叩いた。
 そして、逆に問いかける。
「そう言うオデッサは、何をしたいんだ?」
「私?・・・・・・・・・・そうねぇ・・・・・・・・・・・・」
 フリックの言葉で伏せていた視線をチラリと上げ、瞳を合わせてきたオデッサは、直ぐさま上げた視線を下向けた。己の膝の上に置かれたフリックよりも小さく、頼りなく見える白い掌を見つめるように。
 何かを考え込むようにその体勢を取ったまま動きを止めたオデッサは、しばし間を開けた後、その体勢を崩すことなく、呟くように言葉を漏らした。
「・・・・・・・・・戦って、いたいわ。」
 その言葉は少々以外で、フリックは軽く目を瞠った。
「戦う?何と?」
「色々なモノと。」
 そこで一旦言葉を切ったオデッサは、俯けていた顔を再度上げてフリックの青い双眸に己の両の瞳を合わせた。そしてニコリと、柔らかく笑む。
「ホラ、世の中って納得出来ない事が多いじゃない?だから、そう言うモノと、ね。」
『冗談よ』と付け足しそうなほど軽い口調で語っているが、その胸の内は言葉の調子ほど軽くはないだろう。彼女の瞳には、強い光が宿っていた。
 その強い光に気付いたからこそ、フリックは彼女に向かって柔らかな笑みを浮かべてみせる。
「・・・・・・・・そうか。」
 短く答え、小さな頭を己の肩に押し当てるようにしながら、力強く撫でる。言葉ではなく、態度で彼女の背中を押すように。
 自分の思う道を、突き進めと。

 彼女は言葉通りに戦い続けるだろう。一度走り出してしまったら止まれないタイプの人間だろうから。戦う道を選んでしまったらもう、戦いを止めることは出来ないだろう。
 戦い方が変わることはあるだろうが、彼女の身体が機能しなくなるその時まで、彼女の『戦い』が終わる時はないと、思う。そして、彼女が仕掛ける新たな戦いの手伝いをしてくれとは、言ってこないだろうとも思う。言っても、フリックが頷かないと分かっているだろうから。自分が手を貸してやるのはこの戦いだけだと言うことを、彼女は良く分っているから。
 だから、胸の内で望んでいても口には出さないだろうと、確信している。

 彼女のそんな潔さが、気に入っている。
 強さを、気に入っている。
 その強さの下にある、脆さも。
 離れがたいとは、思わないのだが。

 オデッサが深く息を吐いた。何かを断ち切ろうとするように。決意を固めるように。
 そしてゆっくりと空になった身体の中に新鮮な取り込み、再度吐き出す息と共に、呟きを漏らした。
「・・・・・・・・・・・・・・・そのためにも、まずは、一つ。」
「ああ。」
 強い決意を秘めた言葉に、頷いた。
 別れを意味した言葉に。
 別れても、二人の間に通うモノが変わる事はないと、確信して。
そんな絆がいつの間にか出来ていたことが、面白くて仕方なかった。





























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