絢爛豪華だった城が、血に濡れている。
 常に磨き上げられ、歩く人間の顔を映し出すほどの輝きを放っていた床を、乾いて変色し始めた大量の血液がカーペットのように覆い隠している。
 辺りには血臭が充満し、まともな神経を持った奴が目にしたら5分と正気を保っていられないだろう程、痛々しい姿の死体がところ狭しと転がっている。
 そんな中、フリック黙々と剣を振るっていた。
 彼の目に映るのは目の前で剣を構え、自分に向かってくる敵だけだ。
 床上に広がる血液も、惨たらしい姿で転がる敵や味方の死体など、視界の隅にも入らない。入ったとしても、足元に転がる邪魔な障害物程度の認識しか持たない。
 死体など、嫌と言うほど見慣れている。
今更それを目にしたところで、なんの感慨もわかない。感慨がわくどころか、今まさに自らの手で死体を作り上げているのだ。死者を悼む気持ちで胸を締め付けられる事など、有るわけがない。
 恐怖に戦いてジリジリと逃げを打つ敵の首を力任せに叩ききり、宙に飛ばす。凄まじい勢いで血しぶきを上げながら崩れ落ちる同僚の姿に、敵兵達が身体を強ばらせ、一歩二歩と後ずさる。この場から逃げ出そうとするように。
 確かに、ここで命を張って戦う意味は、もう無い。
 彼等の主は死んだのだ。この場で戦い、フリックを打ち負かした所で栄誉を与えてくれるモノは居ない。命を投げ出すだけ無駄だ。例えそれが恥ずべき行為であっても、この場で命乞いをして捕虜となり、生きながらえる道を選ぶ方が利口だ。
 だが、そんなことをさせる気はサラサラ無い。
 ブンと、風の音がするほど強く剣を振り、こびりついている血液を払う。そんな事くらいで払いきれるモノでは無いと分かっていたが、やらないよりはやったほうがマシだろうと思って。
「・・・・・・・・・・・退場なんて、させねーよ。お楽しみは、これからだ・・・・・・・・・・・・」
 この場にそぐわない甘い声でそっと囁き、目の前の敵にひたりと視線を合わせる。
 その視線の強さで、敵共をこの場に縛り付けるように。
 そして、踏み出した一歩に力を込める。
 目の前の敵を、殲滅するために。





























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血濡れた道