良く晴れた日の午前中。心優しい軍師様から丸一日完全休日を頂戴したフリックは、朝から自室の掃除を行っていた。窓を開け、布団を窓枠にかけるようにして干し、洗濯物をまとめて洗濯し、干して乾くのと待つ間に室内に箒をかける。埃が気になる所にははたきをかけたりもした。
 定めた位置からずれた場所に転がされたモノを元の位置に戻したところで、室内をザッと見回す。
「――――まぁ、こんなもんで良いか」
 自分の仕事に満足して大きく頷く。
 ここ最近仕事が忙しく、ろくに掃除をする時間も無かったからいつもより少し散らかっていた。だから片付けには時間がかかると思っていたのだが、思っていたよりも時間はかからなかった。今の部屋の状態はこの部屋に移動したときと同じくらいに整理整頓できている。これで、気分良く自室ですごすことが出来るだろう。
 などと考えてみたけれども、別にフリックは綺麗好きというわけではない。まぁ、綺麗なのにこしたことはないと思ってはいるのだが、自室が散らかりまくっていてもいっこうに気にならない性質ではある。どこに何が置いてあるのかさえ分かっていれば、床の隅に埃が溜まっていようが棚に埃が溜まっていようがモノが床の上に散らかっていようが構わない。
 だが、自室をそんな状態にしておいたら自分の評判が落ちてしまう。『青雷』さんとしては、生真面目に室内を綺麗に整えておかねばならないのだ。この城は、いつ誰が人の部屋に侵入するのか分からないデンジャラスな所なので。
 そんなわけで、フリックは暇を見つけるとマメに掃除をするようにしている。自分の部屋を綺麗に保つために、ビクトールをこの部屋に出来るだけ入れないようにもしている。自分以上に回りの事を気にしないあの男との短い同室生活時代に、毎日毎日部屋の片づけをしないといけない状態に陥って、大層ストレスを溜めたので。その時の反省を生かして、あの男は密やかに入室禁止令を発動していた。本人気づいていないようだが。気づいていたら無理にでも進入してこようとするだろうから、教える気はないのだが。
 まぁ、そんなわけで、酒を飲もうと言う話しになったときはビクトールの部屋に直行するよう、部屋が別れた時に習慣づけておいたので、ビクトールもごく自然にそう動くようになっている。そして、ビクトールがやったことにしながら心置きなくビクトールの部屋にモノを放置することにより、自室を綺麗に管理することに対して僅かに溜まったストレスを解消していたりする。その事を、ビクトールは気づいても居ないようだが。そもそも、自分が綺麗好きでは無いことに気づいても居ないだろう。むしろ綺麗好きだと思っているだろう。自分の事を分かっているようで分かっていない男だ。
「だから、やりやすくて良いんだが」
 呟きながら窓枠に干していた布団を布団叩きで叩く。ポンポンと軽い音を立てながら。
 布団から埃が舞っていく様を見ていたら、その埃が日の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。相手は埃なのに、その様は少々綺麗だったりする。なんだか不思議なモノだなと思いながら一度布団を室内に引っ張り込み、窓の外に出る部位を変えてもう一度窓枠にかけ直す。
 太陽の光を浴び始めたばかりの部分を軽く叩いて埃を払ったフリックは、やり慣れない仕事のオンパレードで凝った肩を軽く回して首を左右に倒した後、開け放たれている窓から晴れ上がっている真っ青な空を見つめた。
「――――良い天気だ」
 この天気なら洗濯物が乾くのも早いだろう。少し部屋で本を読んだ後軽く昼食を取り、その足で洗濯物を取り込みに行ってみよう。部屋に戻ったら布団を取り込んで、その後は外にでて軽くモンスターでも倒してくるか。こんなに天気が良いのだ。モンスターの一匹や二匹ヤッテおかなければ罰が当たる。
 自分の考えに大きく頷いたフリックは、では早速本でも読もうかと見つめていた空から視線を外しかけた。

 が。

 すぐにまた、空を見つめ直した。
「あれ?」
 遠くで何かがキラリと光った気がして、声を漏らす。
「――――流れ星か?」
 昼間に見えるとは、珍しい。いや、もしかしたらただの気のせいか見間違いだろうか。
 そう考えながら何となく空を見つめ続けていたら、もう一度遠くの空がキラリと光った。どうやら見間違いではなかったらしい。と、思っていたら、その光が段々大きくなってきた。
 フリックは軽く首を傾げた。妙な流れ星だなと、考えて。あんな動きをする流れ星は、今まで見たことがない。
 訝しむように眉間に皺を寄せる。だが、その皺は徐々に解け、瞳は驚きを示すように大きく見開かれていった。

 その光が、どう考えても自分に向かってきているとしか、思えなくなって。

「――――なっ!!!」
 思わず声を漏らして息を飲んだ。

 なんだ、これは。新手の紋章術だろうか。

 そんな事を考えながら、フリックは再度眉間に深い皺が刻み込んだ。そして、それを迎え撃とうと全身から青白い光をはじけ出させる。
 が、その力が発動することはなかった。
 飛び込んできた光のあまりの早さに、身体が条件反射で逃げを打ったために。

 光が室内に飛び込んでくる直前に身体を流して部屋の隅に逃げ、次ぎに来るであろう衝撃に備える。
 だが、思っていたような爆発音も振動も無い。変わりに、飛び込んできた光が室内で壁にぶつかって床にぶつかって天井にぶつかって壁にぶつかって床にぶつかって壁にぶつかって天井にぶつかって、という行動を繰り返している。

 いったいこれはなんなのだろうか。

 事の事態が飲み込めずに思わず呆然とその光の動きを見つめていたフリックの目の前で、その光が床の中央部分に落ちた。その瞬間に目映い閃光を迸らせ、キラキラと輝く何かを床の上にぶちまけられる。
 淡く発光しているそれらは、トランプカードのような形をしていた。
 新種の紋章札か何かだろうか。だが、そんなモノが開発されたなんて話は今まで一度も聞いたことがない。
 訳が分からず、フリックはピクリとも身動きを取らずにジッとそれらを伺った。それらが何か動きを見せたら、すぐに対処できるようにと。
 そうしながらも、じっくりとそれらを観察して、それらの真ん中に妙な形状のモノが落ちていることに気がついた。
 形は楕円に近い。床についている部分は平らになっているらしい。床の上を転がる事無く、安定感のある雰囲気で停止している。色は、三対一の割合で白とピンクの二色に分かれている。床についている平らな部分は、五六ミリ程度の範囲でピンク色になっているように見える。デザインはとても可愛らしい。ナナミあたりにくれてやったら大喜びしそうだ。
 その白とピンクの物体の側面から、突然ブシューっと音を立てながら白い煙が沸き上がった。そして、その煙を吐いた隙間から物体が二つに割れ、上部分がゆっくりと持ち上がる。
 その情景を簡単に言い表すと、貝が口を開くような動きだ。網の上で火にあぶられたホタテ等がカパリと口を開けていくような、あんな動きだ。
 だがまさか、これは貝では無いだろう。あんな無機物臭い貝があるわけがない。そもそも、あんな色の自然物があったら間違いなく猛毒だろう。
 そんな事を考えながらそれの動きを見つめていたら、それの口が完全に開ききった。と、思ったら、いきなりポンっと何かがはじける音が鳴り響き、その物体があった場所に白い煙が沸き上がった。
 フリックの全身に緊張が走る。やはりこれはハイランドの攻撃かと、考えて。意表をついて油断させ、その油断した一瞬をついて毒ガスを発生させるという、大変高度な技術を必要とする攻撃だったのかと、考えて。
 自然と右手の紋章に意識を集中させていた。だとしたら、この部屋を吹っ飛ばしてガスを外の空気にちらしてやらなければと考えて。自分が考えているモノよりも強力な毒ガスだったらその行動で被害が広がる事になるかも知れないが、そうだったらどっちにしろ城内の人間はただでは済まないだろうからその行動で良いだろう。
 そう、少々無責任な事を考えながら力を溜め込み、その力をぶつける場所と、もたらす被害を素早く計算し、その計算通りに力を発動させようとした、その瞬間。


「ペポーーーーーっ!」


 と言う、大変緊張感を殺ぐ声が室内に響きわたった。
 その声に思わず溜め込んでいた力を霧散させる。そして、声の発生源をジッと見つめた。

「――――な………………」

 それしか、口に出来なかった。
 床の上に立つ、クリーム色っぽい奇妙な生き物を目にしたフリックには、それしか。
 ジッと、それを観察する。黒くて大きなまん丸の瞳の回りと額には、水色でトランプの模様のなり損ねのような柄がついている。
 ぬいぐるみの様にふわふわしていて、ムクムクやらマクマクやらに似ていなくもないが、ちょっと違う。
 どちらかというと――――
「タヌキか…………?」
「誰がタヌキペポっ!失礼な事を言うなペポっ!」
 思わず呟いた一言に、甲高い男の声で突っ込みが入る。
 その奇妙な生き物から。
 どうやら人語を理解し、発することも出来るらしい。何故かマントを羽織っているムササビ連中だって言葉を発することはないというのに。
 驚きのあまりにジッとそれの顔を見つめると、その生き物はフリックの言葉に激しい怒りを覚えたらしく、大きな黒い瞳を半円にして吊り上げてにらみつけてきた。
 だが、フリックが気にする程の迫力はない。そんな反応よりも、生き物そのものの方が気に掛かる。
「――――ハイランドの生物兵器か?それにしても、間抜けな面構えだな。作った奴のセンスを疑うぜ………」
「誰が兵器ペポっ!間抜けとか言うなペポっ!さっきから失礼な事ばかり言って、お前、嫌な奴ペポっ!」
 じろじろとその身体を観察しながら言葉を発すると、途端に激しい怒りが返された。どうやらこの間抜け面の生き物は、相手の強さを測る事が出来ないらしい。
 まぁ、そんな態度に出られることは多々あるのだが、こんな訳の話からん生き物に「お前」呼ばわりされて少々気分を害したフリックは、瞳に宿す光を通常値よりもやや冷たくしながら言葉を返した。
「お前みたいな妙な奴に良い人ぶっても仕方がないだろう」
「なっ………誰がペポーっ!ペップルは『選ばれし勇者』ペポーーっ!妙じゃないペポーっ!」
「はいはい。分かった分かった」
 どうやらフリックの言葉は目の前の小動物の怒りに火を注ぐことになったらしい。小さな身体についている小さな腕を振りまわして怒鳴り返してくる。
 そんな姿を見せられても怖がるどころか笑いを誘われるのだが、と思いつつ適当に言葉を返したフリックは、ゆっくりとそれに近づくように足を一歩前に出した。
 剣の柄に、手をかけながら。
「『タヌキの勇者様』だったな。任務はチッチの抹殺か?勇者様。ご苦労様」
「まっ………またタヌキって言ったペポーーーーっ!」
 きぃっ!と叫び、もう一度文句の言葉を発しようと口を開いた生き物だったが、その開いた口を驚愕の意味にすり替え、素早くその場から飛び退いた。
 鞘から一気に抜きはなった剣の切っ先が、目標を見失って床を打つ直前で止まる。
「――――ちっ。すばしっこい奴だな」
 舌打ちし、逃げた生き物を睨み付ければ、一気に壁際まで逃げ込んだそれが、ブルブルと小さな身体を震わせ、大きな瞳に涙を溜めながら叫び返してきた。
「なっ………何するんだペポっ!死ぬかと思ったじゃないかペポーーーーーッ!」
「当たり前だ。殺すつもりだったんだからな」
「ペポーーーーーーーっ!」
「ほら、分かったら大人しく殺されてろ。お前みたいな生き物には会った事がないから、急所が分からないんだ。一瞬で殺せる自信が無いんだよ。まぁ、首を一太刀で落とせば苦しまないで死ねるだろうがな。だから、楽に死にたかったらそこを動くなよ?小さくて狙いにくいから」
「なっ………なっ………何でボクを殺すペポーーーーーっ!」
 サラリと結構酷い言葉をかけてやれば、小動物はブルブルと震えながらも必死に言い返してきた。そんな生き物に、フリックは答えを返してやった。
「ハイランドの兵器だからだよ」
「ボクはそんなんじゃないペポーーーーっ!」
「捕まった奴は、みんなそう言うぜ?」
「ボクは本当に違うペポーーーっ!」
 必死に首を横に振る生き物にニッコリと笑いかけながら言葉を返せば、生き物はその言葉にも必死に言い返してきた。そして、自分の潔白をしめそうとするかのように言葉を続ける。
「ボクは『選ばれし勇者』ペポーーっ!『希望の姫君ピップ』ルと『伝説の戦士ブリキュア』と共に闇の王、『ジャアクキング』を倒す使命を持ってる勇者ペポーっ!ハイランドなんか知らないペポーっ!」
「分かった分かった」
「全然分かって無いペポーーーー!」
 自分の命の火が消えかかっているのを察しているのだろう。生き物の震えはますます大きくなってきた。それでも。いや、だからこそか。奇妙な生き物は子供の戯れ言のような言葉を必死に語り続けた。
「今、光の園が闇に覆われていて大変なんだペポっ!このままだと光の園はドツクゾーンに完全に飲み込まれて仕舞うんだペポっ!そうなったら、この虹の園も無くなるペポっ!だから、そうならないように光の女王がボクとピップルを虹の園に送ったんだペポっ!伝説の戦士ブリキュアを探すためにペポっ!僕たちと一緒に戦ってくれる、伝説の戦士ブリキュアをペポっ!」
「ほう。良くできた話しだな。ナナミが聞いたら喜びそうだ」
 いや、さすがにナナミはもう喜ばないだろうか。
 言ってから首をひねったフリックに、生き物は必死の形相で叫び続ける。
「本当だペポっ!ボクがここに来たって事は、その戦士の一人、キュアブラックはお前って事だペポッ!だから、僕たちに強力して欲しいペポっ!光の園を救って欲しいペポっ!」
 どうやらその話の登場人物に組み込まれたらしい。その不愉快さにフリックの眉間に皺が一本増える。
 だがまぁ、すぐに殺す奴の戯れ言なので放っておこうと気持を切り替え、にこやかに言葉を返しておく。
「悪いな。もう他と契約中なんだ。二重契約はしない主義難でね。他をあたってくれ」
「他じゃ駄目ペポっ!キュアブラックはお前だけなんだペポーーっ!」
「そうか。でも悪いな。俺にその気は無い。そもそも、お前を逃がす気も無いんでな」
「ペポーーーーーっっ!!!!!」
 そろそろ話に付き合うのも止めにしようかと、生き物の顔面に切っ先を突きつけてやったら、ソレは降参するように両手を大きく上げ、全身をガクガクと振るわせ始めた。
 大きな瞳からは涙がぼろぼろと零れている。
「ほ、本当のことだペポ〜〜〜嘘じゃないペポ〜〜〜信じてくれペポ〜〜〜僕はここで死ぬわけにはいかないんだペポ〜〜〜光の園を救える勇者は僕だけなんだペポ〜〜〜ピップルが待ってるんだペポ〜〜〜だから、だからぁ〜〜〜〜………」
 アグアグと嗚咽を漏らしながら必死に言い募ってくる生き物の姿は、少々どろこかかなり哀れだった。その姿を見ていると、自分がめちゃくちゃ悪人になったような気分がしてくる。いや、善人でないことは確かなことなのだが。
 ギロリと睨み付けると、生き物はビクリと体をこわばらせた。それでもフリックの顔を必死に見上げてくる。己にはなにもやましいことがないと言う様に。その瞳を覗き込めば、確かに一点の曇りもなかった。強い信念を持つ者特有の瞳だ。何があってもやり遂げると決意した。
 そういう瞳に弱い自覚は大いにある。自分が今まで興味を持った人間は、皆そんな奴らだったから。
 フウッと深く息を吐き出した。そして、ゆっくりと剣を引き、鞘に戻す。そんなフリックの行動に、生き物ははっと息を飲んだ。
「し、信じてくれるのかペポ?」
「あぁ。嘘を吐いているのかどうかを区別する目くらい、持ち合わせているからな」
「あ………ありがとうペポーーーーーーっ!」
「うわっ!」
 情けない表情ですがるように問いかけてきた生き物に苦笑を浮かべながら答えれば、涙で顔面をグシャグシャにした状態でソレが胸元に飛び込んできた。
 その突然の行動に、思わず腕を大きく振って生き物の小さい体を力いっぱい叩き落とす。
 と、それは床の上にぶつかり、数度バウンドした後でうつぶせの状態で床の上に倒れこんだ。
「――――ひ、酷いペポ………」
「悪い。いきなり来られたから。もう大丈夫だぞ。ほら」
 恨みがましい目と口調で言われてごまかす様に笑ったフリックは、犬猫を誘うような手つきでその奇妙な生き物を呼び寄せる。すると、ソレは恐る恐るといった様子で身を起こし、よろよろとフリックの傍らまで歩み寄ってきた。そして、わずかに逡巡した後でフリックの胸元に飛びつく。
 しばしその状態で動きを止め、引き剥がされないことを確認してから、生き物が再度高いテンションを取り戻した。
「ありがとうぺぽーーーーっ!」
 叫びながらシャツの胸元にグリグリと己の顔を押し付けてきた妙な生き物は、がばりと音がしそうなほど勢いよく顔を上げ、満面の笑みを浮かべながら言葉を発してきた。
「じゃあ、頑張ってジャアクキングを倒そうペポっ!これからよろしくだペポっ!」
「――――――はぁ?」
 告げられた言葉に、フリックは盛大に顔をゆがめた。そして、ソレの首根っこをつかんで目の前の高さまで引き上げ、睨みつける。
「何がよろしくなんだ?お前のことは見逃してやるが、戯言に付き合う気はないぞ?」
「戯言じゃないだペポっ!本当の事だペポっ!ボクが『選ばれし勇者』で、そのボクがここにいるから、お前はキュアブラックだペポ!一緒に戦う定めだペポっ!っていうか、放せペポーーーーっ!」
 言い切ってから自分の状況に気づいたらしい。生き物は盛大に暴れだした。だが、フリックの手が緩むことはなく、首根っこを掴み取ったままの状態で眉間に深く皺を刻み込んで言葉を返した。
「だから言っているだろう。二重契約はしないって。いくら金を詰まれてもそれは変わらない。早いもの順なんだよ。だから悪いな。諦めて他を当たってくれよ」
「契約じゃないペポっ!運命ペポっ!他なんてないペポーーー!」
「いや、そっちももう間に合ってるから」
 しかも自分はその運命とやらに二回も巻き込まれている。これ以上は勘弁してもらいたい。いや、戦うのは好きなのだが、好きでやっているはずの自分の行動を『定められたモノ』とされるのが大層不快でならないのだ。
 だから丁重にお断りしたのだが、生き物はしつこかった。ビクトール並みにしつこかった。一切引く気を見せてこない。
「ふざけるなーーーーーーペポっ!光の園が滅びたら、この虹の園も滅びるんだペポ!お前が戦わないと、この世界がなくなるんだペポよ?!お前は、それでいいのかペポーーーーっ?!」
「あ〜〜〜はいはい。それは大変だ」
 しつこく何度も何度もファンタジーな話をされてなんだかどうでも良いような気分になったフリックは、ペポペポ騒ぐ生き物を布団の無いベッドの上に放り投げた。
 小さな体がマットの上でボヨンボヨンと跳ねているのを視界の隅で確認しながら、フリックは先ほど整理したばかりの本棚へと歩み寄った。
 妙なことに時間を使ってしまったが昼食までにはまだ時間があるので、何か簡単な読み物でも読んでおこうかと思って。
「なっ………何するんだペポっ!この乱暴者!ちゃんとボクの話を聞くペポーーーーっ!」
 背後でぎゃんぎゃん騒いでいるモノがいるが、警戒するまでもない程弱っちい生き物だったのでその存在を意識の外に追い出し、適当に本を一冊引き抜いて椅子に腰掛ける。
 そんなフリックの元に生き物が駆け寄ってきたかと思うと、足を伝って腿の上に乗り上げ、小さな手でシャツの胸元を一生懸命引っ張り出した。
「なに本なんか読んでるペポ!ボクの話を聞くペポーーーーっ!」
「あぁ、聞いてるから、好きに喋ろ」
「本を読んでるじゃないかペポーーーーーー!」
「耳は貸してる」
「人の話を聞くときは、相手の目を見て聞けペポーーーーー!」
 いつだったか、立ち寄った村で母親らしき女が子供に向かってそんなことを言っていたな、と思いながらも、フリックは適当に言葉を返し続けた。多少煩いが、ビクトールのように容量がないからそれほど邪魔にはならないので、叫びたいだけ叫ばせ、叫び疲れて黙るのを待とうと考えて。

 疲れて大人しくなって寝込んだところでナナミにでもくれてやろう。

 そんなことを考えながら、フリックは本を読み続けたのだった。




 その頃。自分の自称相棒が、同じような目にあっているとも、思わずに。


























これの続きをオフで出したら、誰か買ってくれるのだろうか………と、考えた本日でありました。
………いかがなものでしょうかね………微笑。















                                ブラウザのバックでお戻りください。







このお話は、日曜朝八時三十分から放送しているアニメを元に(?)書かれております。
ダブルパロ(というのか良く分かりませんが)が苦手な人はご注意下さい。
「あのアニメは知らない。でも読む!」という方を止めたりはしないので、そう言う方はお読みくださいませませ。
色々な意味で、苦情は受け付けられませんが………ウフフ………

二人はブリキュア