「一つだけ、どんな願いでも叶えて貰えるとしたら、なんて願う?」
 いつものように、前後の会話の繋がりなど何もなく唐突に、ナナミがそんな事を聞いてきた。
 そんなナナミの言葉に、城の食堂で同じテーブルに座っていたチッチ。それにビクトールとフリックは、またかと苦笑を浮かべつつ視線を交わした。
「ねぇねぇ!ビクトールさんは、なんて願う?」
「俺か?俺は、この先一生こいつと一緒に居させてくれーって、願うかな。」
 そう言って、ビクトールは隣に座る青年の背中を思い切りよく叩いて見せる。ビクトールの言葉に嬉しそうな笑みを返したナナミは、今度はそれを迷惑そうな顔で眺めていた青年へと、向き直った。
「じゃあ、フリックさんは?」
「俺も、ビクトールと同じで良いよ。」
「えーーーっ?なにそれっ!いい加減っ!」
 ふて腐れたように頬を膨らませながらも、ナナミはそれ以上追求してこなかった。
 言い方が軽くても、それが真実の言葉だと思ったのかも知れない。
 そして最後に、己の隣に座る義弟へと、問いかけた。
「じゃあ、チッチは?」
「僕?僕は、前みたいに僕とナナミとジョウイの三人で暮らせる様になりますようにって、お願いするかな。」
 明るい声で言われた言葉。
 だけど、その言葉はとても重い。
「・・・・・・・・・・チッチ・・・・・・・・・・」
 言葉を無くして黙り込むナナミに、チッチは困ったように苦笑を返して見せた。
「やだな。そんな顔しないでよ。これは、誰かに願うまでもなく自分でなんとかしようと思っている事なんだよ。ナナミだって、そう思っているでしょう?」
「あ・・・・・当たり前でしょっ!!例えチッチが諦めても、私はぜーーーーーったい、諦めないんだからねっ!!」
「それは僕の台詞だよ。」
 仲良くと言うには一見語弊が有りそうな様子で語り合う姉弟に、大人二人の視線は自然と優しくなる。そして、このリーダーをしっかり支えて行かなければと、心に強く思う。
 自分達にも、彼等を定められた道へと引き込んだ責任の一端はあるのだと、そう思うから余計に。
「おい、チッチ。おしゃべりも良いが、シュウに呼ばれているんじゃ無かったのか?早く行かないと、どやし付けられるぞ。」
「あっ!そうだった!!!」
 フリックの言葉にビクリと身体を揺らしたチッチは、慌てて目の前に並んだ料理を口の中に放り込んだ。そして、勢いよく椅子から立ち上がる。
「じゃあ、僕はシュウさんの所に行ってきます。」
「おう。虐められても泣くんじゃないぞー。」
「チッチ、待って!私も行く!!」
 レストランから駆けだして行く二人の姿を見送ってから、ビクトールはクッと喉の奥で小さく笑いを零した。
「ったく。あいつ等は落ち着き無いなぁ・・・・・・・・・・」
「あいつらも、お前にだけは言われたくないだろうな。」
「どういう意味だ、そりゃ。」
「別に。意味なんて無いさ。」
 くすっと笑いを零したフリックは、ゆっくりと食後のコーヒーへと手を伸ばしている。
 その様を横目で眺め見ながら、どうやらこのテーブルの上に残っているものは全て自分が食べないといけないらしいなと、心の中で呟いたビクトールは、手近にあったフォークへと手を伸ばした。
 残った料理を景気よく口の中に放り込みながら、ビクトールは隣に座る男の端整な横顔をチラリと流し見る。
「ところでよ、さっきのは、本心か?」
「さっきの?」
「ああ。『俺と一生共にいたい・・・・・』ってやつ。」
「他に適当な言葉が無かったからな。」
 サラリと返された言葉に、しばし考える。
 ようは、口から出任せを言ったという事だろうか。なんとなくそんな気はしていたが、本当にそうだと認識すると寂しさが倍増するのは何故だろうか。
「・・・・・・・・じゃあ、本当の所は何を願うんだ?」
「別に何も。」
「何もって・・・・・・・・何も願わないのか?」
「ああ。そんな必要は無いからな。欲しいモノは自分で手に入れるし、やりたい事は自分の力でやってみせるさ。他の力を借りるなんて、絶対に嫌だね。」
 重さを感じさせずに発せられたその言葉は本心なのだろう。真剣さは無いが、言葉にも瞳にも揺るぎがない。
 そんな彼だから、自分の心ははここまで激しく引かれるのかも知れない。
 共に歩いていけると、歩いて行きたいと、思ったのかも知れない。
 ビクトールは、ニッと口の端を持ち上げた。
「俺も、チッチと同じで人の力に頼らなくても、自力で自分の願いを叶えようと思ってるんだぜ?」
 だからどうしたと言わんばかりのフリックの瞳に、ビクトールは力強く語りかける。
「お前が嫌だと言っても、俺はお前のそばを離れないからな。覚悟して置けよ?」
 そう言えば、フリックは驚いたような呆れたような、何とも言えない複雑な表情を浮かべて見せた。
 だが、その表情もすぐに苦笑へと取って変わる。
「・・・・・・・鬱陶しくなったら、予告なく逃げてやるよ。」
「そしたら、追いかけるだけだぜ。」
「お前ごときに捕まるかよ。」
 他愛の無い言葉の掛け合い。
 それが出来る関係でいる事が、たまらなく嬉しかった。











































               

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