「美青年コンテスト?」
 言われた言葉に、ビクトールは素っ頓狂な声を出して首を傾げた。
 なんだかその単語がしっくり来なかったのだ。だからつい、聞き返してしまった。
「ふつうは美人コンテストとかじゃ無いのか?ミスコンとか。」
「ミスコンは、女性差別だなんだとうるさい事を言われるんで、許可出来ないんです。だったら変わりに美青年コンテストをやりたいと言うので、それならって事で、許可したんですよ。」
 キッパリと言い切る城主チッチの言葉に、ビクトールは確かにと、小さく頷いた。
 別に目くじら立てて怒るような事でも無いと思うのに、その手の事で大騒ぎする女性が多いのだ。男は女を物として見ているのかとか、女は男を喜ばせる道具じゃないとか。意見は様々ではあるが。
「それはまぁ、分かるが。だったらそんなコンテストそのものを止めれば良いんじゃないねーのか?」
「そう言う訳にはいきません。季節に関係なく馬鹿騒ぎ出来る行事っていうのは貴重なんですから。」
「馬鹿騒ぎねぇ・・・・・・・・。確かに、それをやれば盛り上がるだろうが・・・・結果は見えてるだろ?やらなくてもよぉ。」
「見えて・・・・・・・・ますか?」
 自信満々なビクトールの言葉に、チッチは不思議そうに首を傾げて見せた。そんなチッチに、ビクトールは力強く頷き返してみせる。
「ああ。そんなもの、フリックに決まりだろうが。」
 彼以上の美青年がどこにいると言うのだと、かなり本気でそう言いきったビクトールの言葉に、背後から待ったの声がかかった。
「聞き捨てなりませんね。その言葉は。」
「ああん?」
 首だけ捻って声の主を仰ぎ見ると、そこには眉間に皺を寄せたマイクロトフの姿があった。
「・・・・・・・そりゃあ、どういう意味だ?てめーはフリックが美青年じゃ無いとでも言うのかよ。」
「いいえ。そうは言いませんよ。言いませんが、フリック殿よりもカミューの方が美人だと、俺は思ってますから。フリック殿に決まったという発言には、納得出来ませんね。」
「・・・・・・・・・なんだと?」
 マイクロトフの言葉に、ビクトールは座っていた椅子から立ち上がる。そして、見下すような瞳で彼の事を睨み付けた。
「じゃあ、何か?てめーはカミューの方が一番になると、そう言いたいのか?」
「ええ。カミューは見目も良いですが、人当たりも良く人望も厚い。カミュー程優れた人間は、おりませんよ。」
「そんなの、フリックだって同じだぜ。女子供に人気はあるし、剣の腕はめっぽう強い。数字にだって強いし、頭も良い。オールマイティーな男だぜ?カミューなんか目じゃねーよ!」
「失礼なっ!カミューだって、負けておりませんよっ!」
「カミューなんかがフリックに勝てるわけねーだろうが。モノの五分でアノ世行きだぜっ!」
「なっ・・・・・・・・・!!侮辱する気ですかっ?!」
「事実を言ったまでだ。」
「それを侮辱したと言うのですよっ!!」
 そう叫んだマイクロトフは、スラリと腰から剣を抜き払った。
 此処が人の賑わう食堂だという事は忘れたらしい。その瞳は、かなり真剣だ。
「・・・・・・・・・その言葉。早々に撤回して下さい。」
「おっ!やる気か?なら、受けて立つぜ?」
 言うなり、ビクトールも己の剣を引き抜き、構えてみせる。
 その場の不穏な空気を感じ取ったレストランの客達は、一斉にがたがたとテーブルをずらし始めた。とばっちりを食わないためにだろう。しかし、場所を空けはしても立ち去ろうとしない。
 同盟軍の中でも名の知れ渡った二人の勝負の行方が気になるのだろう。いつでも逃げられる体勢を取りながらも、二人の様子を窺ってる。どうやらこんな城に集まっている人々だけに、なかなか肝が据わっているようだ。
 そんな多くのギャラリーが見守る中、ビクトールとマイクロトフはかなり真剣ににらみ合っていた。
「・・・・・・・カミューの方が美青年です。」
「ふざけんな。フリックの方が美青年だ。」
 そう言い合い、しばし間を開けた後、どちらからとも無く大きく一歩前に踏み込んだ。
 相手に攻撃を加えるために。
 その瞬間。
 激しい光が二人の瞳を焼いた。
 と、思ったら、全身に強烈な電流が走り抜けた。
「・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!!!!!!!!」
 叫び声も上げられない程の痛みの中、ビクトールとマイクロトフは揃って床の上に倒れ込んだ。
 辺りには、ブスブスという音と、妙な焦げ臭さが充満している。
「・・・・・・・・・相変わらず、見事なコントロールですね。」
「馬鹿熊とつき合うようになってから磨きがかかったんだ。幸か不幸か分からんが。」
 感嘆するような声と、冷ややかな声が倒れたビクトールとマイクロトフの背に落ちてくる。
 倒れ込んだ二人の男には、その声だけで、顔を見なくてもその二人が誰なのか分かってしまった。
「・・・・・・・・フリック・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・カミュー・・・・・・・・・・」
 それぞれの相棒の名を呟く焦げた二人にチラリと目を向けた美青年二人の瞳には、心の底から馬鹿にしたような光が宿っていた。
「・・・・・・本当にお前は下らない事しか言わないな。」
「マイク。褒めてくれるのは嬉しいが、過剰な賛美は頂けないよ。」
 それだけ言うと、二人はさっさとレストランを後にしてしまった。どうやらこの場で食事をする気が失せたらしい。
 彼等の姿を見送ってから、他の客達もガタガタとテーブルを元の位置に戻し始める。
 どうやら、フリックの雷一つで全てのオチがつくと思われているらしい。
 それは確かにそうなので否定出来ないが、なんとなく寂しくなるのはどうしてだろうか。
「・・・・・・・・・お前の相棒も、冷たいな。」
「・・・・・・・・・貴方に言われたくありません。」
 焦げて床に這い蹲ったままの二人はそう呟きあった後、深々と溜息を吐き出した。
 そんなに冷たい相棒でも、離れがたいのだと。そう内心で呟きながら。






















愛が痛い。




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美青年