朝起きて、髪の毛をセットしようと鏡の中を覗き込んだら、そこにパーシヴァルが映っていた。
「パ・・・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・?」
 驚きのあまり、ボルスは鏡を見つめながらその場に固まってしまった。
 そして、ハッと気付く。
 もしかしたら、パーシヴァルはこの鏡の中に吸い込まれてしまったのかも知れないと。
 どんな仕掛けか分らないが、そうでもないと鏡の中にパーシヴァルが映っているわけがない。今現在遠征に出かけていて城を留守にしている彼が鏡の中に居るという事は、遠征中に新種のモンスターに襲われてこういう状況になったのかも知れない。そして、自分に助けを求めて今ここに現れたのかも知れない。
 そう思い、ボルスはしきりに鏡の表面を叩いてみた。しかし、鏡の中のパーシヴァルは、自分の行動を忠実に写し取るだけで何かを訴えてくる事はない。
「・・・・・・・・・どういうことなんだ・・・・・・・?」
 首を傾げながら呟いた声は、いつもと全然違うモノだった。風邪を引いて喉を痛めたときの声とも違う。そんな変化ではなく、まったくの別人の様な声だ。誰のモノとも違う。今まで聞いた事の無い声音。
 その声音がなんなのか気になりはしたが、今はそれどころではない。鏡の中のパーシヴァルをどうにかして救出しないといけないのだ。
 ジッと、真剣な眼差しを鏡の中のパーシヴァルへと向ければ、パーシヴァルもまた、真剣な瞳で見つめ返してくる。まるで、自分に助けてくれと懇願しているように。
 角度を変えてみたら何か変化があるかも知れないと、右を見たり左を見たり。下から見上げたり上から見下ろしたりと色々やってみたものの、鏡の中のパーシヴァルはボルスと同じ行動をするだけで、救出の手がかりを与えてくれる事はない。
「・・・・・・なんなんだ?いったい。どうしたって言うんだ・・・・・・・・?」
 いつも眉間に寄っている皺が、さらに深く刻まれる。すると、鏡の中のパーシヴァルも同じように顔を顰めてくる。
 睨み付ける様に彼の顔を見つめれば、パーシヴァルもまた睨み付けてくる。
 その表情に、ボルスは一気に寂しくなった。彼に怒られたような気分になったから。
 寂しさのあまりに泣きそうに顔を歪めると、鏡の中のパーシヴァルも寂しそうに表情を曇らせてきた。
 その表情に、ボルスの胸がドキリと高鳴る。
 今まで見た事がない彼の寂しげな表情が、なんだか妙に庇護欲を駆り立てる程に可愛くて。
 見慣れた髪型ではなく、整髪料が何も付いていないサラサラヘアだったから余計にそう思ったのかも知れないが、可愛いと思った事に偽りはない。
 何故彼は、自分にそんな表情を見せるのだろうか。いつもいつも取り澄ましたような顔をしている彼が、どうして。
 やはり、自分に救いの手を求めていると言う事なのだろうか。それなのにいつまでたっても救い出してくれないから、怒ったり寂しがったりしているのだろうか。
 そう考えたところで、ハッと気が付いた。
 今までのパーシヴァルの表情の変化は、自分の表情の変化とまったく同じである事に。 自分が怒れば彼も怒り、自分が泣きそうになれば彼もまた、泣きそうになる。
 と、言う事は、自分が微笑めば、彼は自分に笑いかけてくれるという事だろうか。
 ボルスは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。そして、鏡の中のパーシヴァルの顔を、これ以上無いくらい真剣な眼差しで見つめる。
 自分の気持ちを落ち着けるように大きく息を吸い込み、深く吐き出したボルスは、意を決したように鏡の中のパーシヴァルに向って微笑みかけた。
「・・・・・・・・・・うっ!」
 その途端。ボルスは慌てて己の鼻を手の平で覆った。
 あまりにその笑顔が可愛すぎて、興奮が一気に高まってしまったのだ。
 危うく鼻血を吹き出しそうになったが、それはなんとか堪える。堪えながら、興奮で沸き立つ脳みそで考えた。
 今、鏡の中に天国があると。
 ボルスは真面目にそう思った。
 そう思っただけで、己の顔がパーシヴァルの顔に替わっていると言う事実には、少しも気付いていなかった。




























 ボルスのテンションは、朝から上がりっぱなしだった。
 何しろ、自分が望むパーシヴァルの表情を心おきなく拝めるのだ。
 いつも冷ややかな笑みを自分に向けてくる彼が、鏡を覗き込めばとても可愛らしく微笑みかけてくれる。
 遠征中でしばらく会えないと思っていた彼の顔を見られただけでも喜ばしいのに、今日はそれ以上のオプションが付いているのだから、テンションを上げるなと言う方が難しい。
 その上今日は休みだから、心ゆくまでパーシヴァルの愛らしい微笑みを眺めていることが出来るのだ。
 こんな素晴らしい日が、今まであっただろうか。
 いや、無い。
 そう心の中で呟きながら、ボルスはジッと鏡の中を見つめ続けていた。
「・・・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・」
 どうして此処にあるのか分らないが、いつの間にか部屋の中においてあった手鏡を手に取り、ベットの上に腰掛けながら鏡の中の愛しいモノの顔を覗き込む。そして、そっと彼の名を呼んだ。呼びながら、情事の最中でもジロジロ見たら怒られる顔をジッと見つめる。
 本当にどこからどう見ても整った顔だ。非の打ち所も無い位に。
「・・・・・・・・・やっぱりお前は、この世で一番美人だぞ・・・・・・・・っ!」
 かなり本気で鏡の中のパーシヴァルに向って語りかける。
 しかし、今のボルスはパーシヴァルの姿なのだ。鏡に向ってパーシヴァルの容姿を褒め称えるその姿は、はっきり言って変な人以外の何ものでもない。
 それだけで止めておいても十分変態の烙印を押してやれるのに、ボルスは更に大胆な行動を起こし始めた。
「・・・・・・・・これくらい、良いよな・・・・・・・・・・・・・」
 そう呟きながら、ゆっくりと鏡の中のパーシヴァルに向って己の顔を寄せていく。その唇を、少し突き出す様にして。
 コレではただのナルシスト以外の何ものでもないが、ボルスはそんな事に気付いてもいなかった。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」
 そう、妙な声を漏らしながら鏡の中のパーシヴァルの唇に己の唇をくっつけた瞬間。なんの前触れもなく、部屋のドアがガチャリと音をたてて開いた。
 突然の事で思わずその場に硬直してしまったボルスの様子を見たのであろう侵入者が、ハッと息を飲み込んだのが気配で分った。
 と、言う事は、あの妙な犬ではなく人間だという事だろう。自分の取っている行動がちょっとばかりおかしいと認識出来ているボルスは、言い訳の言葉を脳裏に描きながら、ゆっくりとドアの方へと視線を向けていく。
「・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・・」
 そこに立っていたのは、愛してやまない男だった。朝起きてから散々眺め回していた男の顔ではあるが、やはり生で見た方が愛しさが沸き上がるというモノだ。ボルスは、強ばりかけていた身体の力を一気に抜きさりながら、嬉々としてパーシヴァルの傍らへと歩み寄った。
「やっと帰ってきたのかっ!今回は随分長い遠征だったんじゃないか?」
 しばらく振りに感じる彼の気配に心を躍らせたボルスは、喜色を満面に描きながらパーシヴァルの身体を抱きしめようと腕を大きく開いた。
 しかし、その腕はパーシヴァルの身体を抱きしめることなく、空を掴み取る。何事かと視線をパーシヴァルに向けると、彼は先程まで立っていた位置とずれ、微妙にボルスとの距離を取っていた。
 久し振りに会ったというのに、何故この男はこんなにも意地が悪いのだろうか。少しくらい抱擁させてくれても良いじゃないか。そう思いながら再度抱きつこうとしたのだが、今度もスルリと避けられてしまった。
「・・・・・・・・おい。なんで逃げるんだ。」
「・・・・・・・・当たり前でしょう?・・・・・・・なんなんですか?貴方は。」
 何故彼が自分相手に敬語を使っているのだろうかと首を傾げるところではあるが、一度に二つの問題を解決する能力に乏しいボルスは、取りあえず一番心に引っかかっている事柄について言葉を返した。
「何って・・・・・・・・。帰ってきた事を喜ぶ抱擁を・・・・・・・・」
「そうじゃなくて・・・・・・・・・」
 そこで一旦言葉を切ったパーシヴァルは、窺うような瞳でボルスの顔をジッと見つめてくる。
 その視線が同じ高さにあると思うのは、気のせいだろうか。そう思って首を傾げていると、パーシヴァルがいつも以上に冷たい声音で問いかけてきた。
「・・・・・・・・・誰だ?お前は。」
 射抜くような瞳で睨み付けられ、ボルスは僅かに息を飲み込んだ。口調がいつもと同じに戻ったのは良いとして、なんでこんな風に不審なモノでも見るような目で見つめられないといけないのだろうか。何か、彼を怒らせることでもしただろうか。
 しばし考え込んでみたが、遠征に出ていたパーシヴァルと自分との接点は何も無い。怒られるわけがないのだ。いや、もしかしたら、彼が不在中に自分がやったかも知れない失敗を誰かから聞いて、その事について怒っているのだろうか。
 そうも考えたが、怒られるような失敗をした覚えはない。
 だから、ちょっと不機嫌そうに顔を歪めながら言い返した。
「そんな事を言って、煙に巻こうとする気か?」
 久し振りに会ったというのにつれない事を言ってくるパーシヴァルの態度に、段々腹が立ってきた。パーシヴァルが自分に対して優しい態度でいたことの方が少ないのだが、先程まで彼の笑みを堪能していたボルスには、本物のパーシヴァルのつれない態度が悲しいやら腹立たしいやらで。思わず目の前に居るパーシヴァルの腕を掴み取る。
 その行動は予測していなかったのだろうか。パーシヴァルは捕まれた腕をギョッとしたような顔で見つめ、逃げるように腕を振り払おうとしてくる。
 そんな事はさせまいと、彼の腕を掴んでいた手に力を込め、己の胸の中へと引き込む。
「何をするんだっ!放せっ!」
 ギュッと抱きしめれば、腕の中のパーシヴァルがそう抗議の声を上げてくる。
 何やら、いつもよりもパーシヴァルの身体が小さく感じるのだが、気のせいだろうか。
 多分気のせいだろうと思う事にして、ボルスは暴れるパーシヴァルを抱きしめたままベットへと歩み寄った。そして、ベットの上にその身体を押し倒す。
「・・・・・・・・っ!」
 遠征帰りで鎧を纏ったままのパーシヴァルが、小さく息を飲み込んだ。その秀麗な顔には、僅かに苦痛の色が浮かんでいる。多分、押し倒され瞬間に鎧がどこかに当たったのだろう。そう思いはしたが、そこで怯んでしまったら事に及べ無いのは学習済みだ。ボルスは、気にせず唇を寄せていく。
 それを嫌がるように必死に顔を背けるパーシヴァルの頬を手の平で覆うようにして捉え、啄むような軽い口づけを繰り返す。
 そうしながら、片手で鎧の留め金を一つずつ外していき、外れたパーツを床の上へと転がして行く。そのたびに鈍い金属音が室内に響き渡った。
「・・・・・・・・・・お前、いい加減に・・・・・・・・っ!」
 ボルスの行動を咎めるようにパーシヴァルが上げかけた声を、唇で飲み込む。そして、啄むような口づけから、貪るような深い口づけへと変え、久し振りのパーシヴァルの味を存分に味わった。
 たったそれだけの行為で、ボルスの下半身に熱が集まり始める。さっさとパーシヴァルの白い肌を露出させたい所だが、全身を覆っている銀色の甲冑を外すのは、興奮で指先が震えるボルスにはなかなか難しく、上手くいかない。
「・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・・」
 もどかしい気分を胸に秘めながら、熱の籠もる声音で耳元にそっと彼の名を吹き込んだ。
 その吐息にビクリと身体を震わせたパーシヴァルは、ボルスの視線から逃れるように視線を反らしながら、掠れた声で呟きを漏らしてきた。
「こんな、昼間から、何を・・・・・・・・・・」
「良いだろ?遠征でずっと会えなかったんだから。」
「・・・・・・・・良くない。大体、鍵が開いたままなんだぞ。誰かが入って来たら・・・・・・・・・」
「じゃあ、締めたらやっても良いのか?」
 問うようにパーシヴァルの瞳を見つめたら、彼は逡巡するような間の後に、微かにコクリと、頷き返してきた。
 そんな反応は今までに見た事が無い。
 なんだか妙に可愛らしくて、気分が盛り上がってきた。
「分かった。すぐに締めてくるぞっ!」
 ガバリと身体を起こしたボルスは、その顔に喜色をあからさまに表しながら、ウキウキとドアへと足を向けた。やはり今日は良い日だと。可愛いパーシヴァルの顔が沢山見られるのだから、これ以上無いくらい良い日だと。そう思いながら。
 ドアに辿り付いたボルスは、しっかりと施錠をする。確かに締まっている事を確認して小さく頷いたボルスは、ベットの上で待っているであろうパーシヴァルの元に戻ろうと、素早く身を翻した。
 その途端。
 身体に電撃が走り抜けた。
「パ・・・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・・」
 途端に暗くなる視界に、それでも根性で愛する男の姿を捉えれば、彼は自分に向けて右手を突き出していた。その右手は、僅かに光を放っている。
 どうやら、今回の遠征は雷鳴の紋章を付けて出かけたらしい。そう脳裏で呟きながら、ボルスはガクリと膝を付いた。そして、バタリと上半身を床の上に倒れ込ませる。
 消えかける意識の向こうで、パーシヴァルが自分に近づいてくるのを感じた。だが、ボルスには顔を上げる力すら残っていない。それどころか、指先一つ動かす事も出来ない。
 そんなボルスの頭付近で足を止めたパーシヴァルが、ボソリと言葉を落としてきた。
「・・・・・・・このアホな行動と言動はボルスだろうが・・・・・・・・。なんだって俺の顔をしているんだ?まったく、冗談じゃないぞ。自分の顔に迫られるなんて・・・・・・・・・。それにしても、俺は父さんと声が似ていたんだな。父親に口説かれてるのかと思ったぞ、まったく・・・・・・・・・。本当に冗談じゃない・・・・・・・・」
 いったい何を言っているんだ、パーシヴァル。
 そう言い返したかったが、その前に意識が遠のいていき、結局問い返す事の出来なかったボルスだった。























 ハッと気が付くと、辺りは既に暗くなっていた。
 慌てて視線を巡らすと、机の所にランプの明かりが見えた。そして、そこには何かを読みふける同僚の姿が。
「・・・・・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・」
 かすれる声で名を呼べば、彼は小さく身体を揺らし、ゆっくりとこちらに視線を向けてきた。そして、いつもの感情の窺えない薄い笑みを浮かべてみせる。
「やっと目が覚めたのか。どうだ、具合は。どこかおかしな所は無いか?」
「いや、コレと言って無いが・・・・・・・・・」
 言いながらゆっくりと身を起こす。なんだか妙に身体がだるい気はするが、おかしな所はない。それでも確認するように手首を軽く振っていると、パーシヴァルがゆっくりと近づいてきた。
 そして、傍らまで歩み寄ってきたパーシヴァルが、何かを探るような瞳でボルスの事を見つめてくる。
「ボルス。」
「なんだ?」
「・・・・・・・・・・昨日今日と、何か変なモノを食べたか飲んだかしたか?」
「変なモノ?」
 問われた言葉に軽く首を傾げた。何故そんな事を言われたのか分からなかったのだ。しかし、見つめ返したパーシヴァルの瞳は何やら真剣だったので、取りあえず記憶を探りながら言葉を発していく。
「・・・・これと言って何も。いつもと同じようにレストランで朝昼夜は食事を済ませたし、昨夜は酒も飲まずにさっさと寝たし、今朝も昼も食事には出てないし・・・・・・・・・・」
「仕事の合間に何か飲んだりは?」
「水は飲んだが・・・・・・・・・・。そうだ。トウタ先生に新作のスポーツドリンクだとかいう物を貰って、飲んだな。」
「・・・・・・・・トウタ殿に・・・・・・・?」
 その途端、パーシヴァルの瞳に鈍い光が走ったのだが、ボルスはまったく気付かずに素直に頷き返す。
「ああ。運動をした後に減る栄養素をより多く吸収出来るように改良した、とか言っていたが。べつにこれと言って変わったところは無かったな。ちょっと味が薄かった位で。」
「・・・・・・・・・そうか。変わったところは無かったか・・・・・・・・・・・・」
 その言葉に、パーシヴァルが妙に寒々しい笑みを浮かべていた。自分は何かおかしな事を言ったのだろうか。
 不安になってパーシヴァルの顔を覗き込めば、彼は取り繕うようにニコリと笑いかけてきた。
「・・・・・・で?お前はどうして鏡に向ってキスなんかしていたんだ?」
「そ、それは・・・・・・・・・・」
 痛いところをつかれて、言葉を飲み込む。
 素直に白状するべきか、誤魔化すべきか。
 視線を辺りに彷徨わせて考え込んだボルスは、最後にパーシヴァルの瞳を見つめ返した。
 その瞳は、嘘や言い逃れを許さないと言っているようで、ボルスは意を決して口を開く。
「・・・・・・・・・朝起きたら、鏡の中にパーシヴァルが居たんだ。」
「ほう。それで?」
「それで、遠征先で新種のモンスターにやられて鏡の中に閉じこめられたのかと思って、助け出そうとしたんだが、何もいい手が浮かばなくて。」
「で?」
「それで、しばらく観察してたら、なんか、いつも俺には見せない表情とか見せてくれて、それがなんだか嬉しくて、それで・・・・・・・」
「鏡に向ってキスしたって言うのか?」
「う・・・・・・・うん・・・・・・・・」
 自分で言ってて恥ずかしくなり、頷きも力無い物になってしまった。そんなボルスに、パーシヴァルは呆れたように深々と息を吐き出し、冷たい声でこう言ってきた。
「馬鹿だろ、お前。」
「うっ・・・・・・・」
 否定しきれないその言葉には、反論のしようもない。小さく呻いて項垂れれば、もう一度深く息を吐き出された。
 また何か罵倒されるのかと内心でビクビクしていたボルスだったが、予想に反して、パーシヴァルは労るように肩を叩いてくる。
「・・・・・・・お前が馬鹿なのは元からだから今更何も言わないが、今後トウタ殿にはあまり近づかないようにしておけよ。」
「なんでだ?」
「・・・・・・・・お前は、良い鴨になりそうだからな。」
 それだけ言って、パーシヴァルは元居た机へと足を向けた。そして、何かを問いたげなボルスの瞳を無視して、中断していた読書へと戻っていく。
 取り残されたボルスには、何がなんだか分からない。
「・・・・・・・鴨?」
 それは、確か食用に出来る鳥の事だ。何故自分がそんな鳥にならねばならないのだろか。
「・・・・・・・・わけが分からん・・・・・・・・」
 そんなボルスの呟きが聞えているだろうに、パーシヴァルは何も答えてくれない。
 多分、答える気は無いのだろう。そう言う態度のパーシヴァルに詰め寄っても答えを得られない事は経験上分かっている。
 そして、いくら悩んでも自分で答えが出せない事も、分かっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・寝るか。」
 明日も仕事があるのだ。日中寝ていたから眠れるとは思えないが、この時間から起き続けて仕事に赴くのは辛い。そう判断し、ボルスは再び横になった。
 なんだか分からないが、昼間のパーシヴァルの事を思い出すだけでも今夜は良い夢を見られるだろうと、そう思いながら。


















「・・・・・・・・・また失敗したみたいなんですよ。」
「またですか?」
「ええ。昨日一日城の中を散策して回ったのですが、不審な動きや言動をしている人は一人も居なくて・・・・・・・・・」
「ボルスさんだったら、絶対に分かりやすいと思ったんですけどね・・・・・・・」
「ええ。・・・・・・・上手く行きませんね。」
「大丈夫ですよ!まだまだこれからですわ。失敗は成功の母とも言いますし。頑張りましょう!先生!」
「・・・・・・・・はいっ!」




 そんな会話が繰り広げられた医務室で、再び怪しげな薬が作られている事に、城の住民の殆どは気付いていなかった・・・・・・・・・・。



















ボルスはアホで可愛いね。笑!



















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鏡の中のアイツ