薬の力

「食あたりの様ですね。それでしたら丁度今、凄く良い薬があるんです。是非、飲んで下さい。」
 やたらと嬉しそうにそう言いながら薬を渡してくるトウタに見送られ、ボルスは医務室を後にした。
「・・・・・・・・薬か・・・・・・」
 わざわざトウタがくれたのだ。飲まないといけないだろうと思うのだが、不調の原因が分かった事でなんとなく気が楽になり、医務室に行った時よりも全然調子が良くなった。むしろ、具合など悪くない位だから、薬を飲まなくても良い感じだ。
 しかし、貰った物を放置しておくのも悪い気がする。何しろトウタは、ボルスにこの薬を飲んで貰いたくてしょうがないという顔をしていたのだ。
「とは言え、具合が悪くないのに薬を飲むと言うのもな・・・・・」
 考え込んでいたボルスの視界の端に、色鮮やかな青色が引っかかった。思わず視線をソレに向けると、そこには最近城にやってきた青年の姿があった。
 やたらと見目の良い男だ。恋している者のひいき目で見なくてもパーシヴァルの方が綺麗な顔をしていると思うが、それに匹敵するくらいに整った顔をしていると思う。城に住む女性だけでは無く、男でさえも彼の容姿の良さを噂するくらいだ。
 その男が、常から白い肌を更に白く、と言うよりもなにやら青ざめさせた顔で歩いている。
 彼等がこの城に来てから今まで、ボルスとの交流は一切無かったとは言え、具合の悪そうな人間を放っておくのは心苦しい。なにしろ自分は騎士なのだ。困っているモノを助けなければ、騎士道に反するというモノだ。そう思い、ボルスはそっと声をかけた。
「・・・・・フリック殿。どうしたんだ?」
「・・・・・・・・・・ああ、ボルスか。」
 ボルスの存在に声をかけられてから気付いたと言うように、その青い瞳を驚きに見開いた青年は、すぐにその顔に苦痛の色を浮かべて見せる。見目が良いだけに、ほんの少し苦しげな顔をするだけで妙に絵になるのはどうしてだろうか。絵になるどころか、妙な気分になってくる。
 そんな自分の動揺を押し隠しつつ、ボルスは更に声をかけた。
「・・・・・・どうしたんだ?どこか、具合でも?」
「いや・・・・・ちょっと、腹がね。食あたりでもしたのかも知れないな。何しろ、慣れない土地だから。」
 苦笑いを浮かべながらそう返してきたフリックの言葉に、ボルスの頭に名案が閃いた。
「では、この薬を譲るぞ。」
 そう言って、先ほど貰ったものを懐から取り出し、サッと差し出す。
 そんなボルスの行動を不思議そうに見つめていたフリックは、手の平の上に乗せられた錠剤に視線を移し、軽く首を捻ってきた。
「・・・・・・コレは?」
「先ほどトウタ先生に頂いた食あたりの薬なんだが、俺の食あたりはもう治ってしまったから、必要無いんだ。とはいえ、貰った物を放置しておくのも忍びないから、貰ってくれると助かるんだが・・・・・・・」
 その言葉に、彼は何やら考え込んだ。何を考え込んでいるのか、ボルスには良く分らない。ボルスに想像出来るのは、せいぜい自分と同じように、彼は薬に頼らない人間なのだろうかと思う事くらいだ。
 そうだとしたら、自分の申し出は余計な事だったのかも知れない。そう思い、自分の言葉にほんの少しだけ後悔し始めたとき、フリックが口を開いてきた。
「・・・・・・そう言う事なら、ありがたく貰っておくよ。」
 ニコリと、綺麗に微笑まれ、ボルスの心臓は思わず高鳴った。
「い・・・いや・・・・・。」
 動揺を面に出さないようにしようとしたが、上手く行かず。薬を手渡す動きがぎこちなくなってしまった。
 何をしたわけでもないのに、浮気をした気分になるのはどうしてだろうか。
 ドギマギしながらフリックの姿を見つめていたら、彼はボルスに微笑みかけたまま言葉を発してきた。
「悪いな。仕事中だったんだろ?」
「え?あ、ああ。大丈夫だ。問題ない。」
「そうか?なら、良いが。・・・・・・・・・・・とにかく、薬。ありがとうな。」
「・・・・・・いや。貰い物だから・・・・・・・・・」
 気さくな笑みを浮かべそう言ってくるフリックに、ボルスは慌てて首を振り返した。そんなボルスの様子にニコリと笑いかけて立ち去るフリックの背中を、ジッと見つめた。
 なんだか、視線を反らすのが勿体ないような事に思えて。そんな自分の考えを振り払うように激しく頭を左右に振ったボルスは、視線の先にある細い背中を見つめつつ、ボソリと。だが、力強く拳を握りしめながら呟いた。
「俺は、お前一筋だからな!パーシヴァル!」
 そんな決意はパーシヴァルにとって迷惑でしか無いだろうが。
 それでも宣言したくなったボルスだった。





























 酒場で浴びるように酒を飲んできたビクトールは、上機嫌で仮の宿である部屋へと足を向けていた。
 いつも連れたって酒場に行くフリックは、調子が悪いからと言って飲みに出てこなかった。
 彼が自分の不調を訴えるのは珍しい事だ。とは言え、食あたりだと言っているのでそう心配する事は無いだろうと、ビクトールは判断していた。図太いようでいて、フリックの内臓は意外と繊細なのだ。
 彼は、土地が変わると良く腹の調子を崩している。どうやら、体質に合わない水質があるらしい。そのことに気付いてからは、水を口にしないようにしているのだと、以前話の流れで教えてくれた事があった。
 そうだと分かっているから、フリックは滅多に水を飲まない。しかし、今回腹をこわしたという事は、どこかで水を飲んだのだろう。もしかしたら、料理に混ざった水の成分で反応が出てきたのだろうか。
 どちらにしろ、内臓不調時の相棒は、下手に突かない方が良い。何しろ、やたらと機嫌が悪いのだ。彼の神経に障る事を口にしたら、焦がされるどころの話ではない。長年の経験からそう学習しているビクトールは、ギリギリまで酒場で時間を潰してきたのだった。
 のんびりとした足取りで己の部屋の前にたどり着いたビクトールは、ゆっくりと部屋の扉を開く。
 僅かに開いた隙間から室内を窺えば、そこには一切の音が無く、月明かりが僅かに差し込んでいるだけなので、薄暗い。その様子から、相棒はもう寝ているのだろうと判断した。寝ているのなら、腹の調子は戻ったという事だろうか。そう思い、ビクトールは音を立てないように慎重に足を運びながら、そっとフトンの中を窺った。
「随分と、お早いお帰りだな。」
「・・・・・っ!!!フ、フリッ・・・・・・・!」
 突然、何の気配もなく背後からかけられた声に驚き、その声の主の名前を呼ぼうとしたビクトールだったが、それは叶わぬ夢となった。
 なぜならば、いきなりベットの上に蹴り倒されたから。
 しかも容赦なく。
 蹴られた背中が、じんじんと痛むくらいに。
「フリックっ!てめーーーーっ、何・・・・っ!」
 突然の襲撃に、夜中である事も忘れて怒りを露わに声を荒げたビクトールは、俯せに蹴倒された身体を勢いよく仰向けの状態にヒックリ返した。そして、いきなりそんな攻撃を仕掛けてきた男に掴みかかろうとしたのだが、怒りに燃える瞳をフリックへと向けた途端、言葉途中で驚きに目を見開いた。
 なぜなら、相棒が何の躊躇いもなく衣服を脱ぎ捨てていたから。
 誘うような動きは一切無い。これから風呂に入るのだと言っているかのように、その動きは極々自然だ。
 思わず、その脱ぎッぷりを観察してしまった。まずはその額を覆っていた青いバンダナをむしり取り、上半身に羽織っていたシャツを脱ぎ捨てた。そして、履いていたズボンを一気に脱ぎさり、なんの躊躇もなくパンツも脱ぎ捨てる。
 僅かに差し込む月明かりに照らされて、フリックの均整の取れた裸体が更に輝きを増した気がした。
 そして、驚きに硬直しているビクトールへと視線を合わせて、妖艶な笑みを浮かべてみせる。
「・・・・・・フ、フリック・・・・・?」
 その行動と笑みに呆気に取られたビクトールは、思わず問いかけた。今まで、フリックがこんな誘い方をしてきた事は無かったから。夢かと思い頬をつねって見たが、十分すぎるほど痛い。
 そんな事をしている間に、フリックはベットの上で金縛り状態に陥っているビクトールの上に跨り、ビクトールの服を剥ぎ取りっていく。
 まったく予想していなかった行動に思考も身体も停止状態に陥ったビクトールだったが、フリックの手がビクトールのズボンを引き下ろそうとしている時点で、ようやく我に返った。
「お、おいっ!一体どうしたって言うんだ!」
 慌ててそう声をかけると、言われたフリックはその眉間に深い皺を刻み込みながら抗議の声を上げてくる。
「五月蠅いな。やらせてやるって言ってるんだから、ボケッとしてないでさっさと自分の仕事をしろ。馬鹿熊。」
「いや、だから、それは嬉しいんだが、なんでこんな性急に・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・知りたいか?」
 問い返してくるフリックの表情は微笑んでいたが、瞳の奥は笑っていなかった。笑っていないどころか、怒っている。それも、かなり本気で怒っている。
 上手く自分の心を隠すことの出来るフリックにしては、こんなにあからさまな感情を浮かべた瞳を、例え自分相手にでも見せて来るのは珍しい。
 余程の事があったに違いない。そう判断したビクトールは、ゴクリと、生唾を飲み込んだ。
 興奮したからではない。大きな恐怖を感じてだ。
 こういう場合、下手に突かない方が身のためだと、学習している。下手な事を言うと、とばっちりを受けかねない。そのとばっちりというか八つ当たりは、命の危険を伴う程の威力を発揮するに違いない。今のフリックに、手加減という文字は無いだろうから。そう判断したビクトールは、慌てて首を横に振った。
「い、いやっ!いいっ!!聞かなくても、俺は全然オッケーだっ!」
「だったら、グチャグチャ言ってないで、とっとと抱けよ。それとも、俺に抱かれるか?」
「・・・・・・・・・・・・いや。それは勘弁してくれ。」
 今のフリックならば、本気で自分を抱きかねない。力では負けないが、変に争いたくない。いや、今のフリックだったら、力押しではなく、妙なテクニックを発揮して自分の動きを封じてきそうだ。それこそ、一瞬の隙を付いて縛り上げられたりとか、変なツボをついて四肢の動きを封じてくるとか。そう思い、少し身震いした。それはかなり、勘弁して貰いたいと。
 そうならないためにも気持ちを切り替えなければならない。
 深々と息を吐き出したビクトールは、キッと顔を引き締めてから自分の上に跨っているフリックの腕を引っ張り、体勢を入れ替えた。そして、貪るように深い口づけを繰り返す。
 待っていたと言わんばかりに、フリックがビクトールの舌の動きに反応を返してくる。
 その生暖かく柔らかな舌に己のソレをこれでもかと言う位に絡みつけ、あふれ出る互いの唾液を飲み込む。
 そうしながら、既に一糸纏わぬ姿になっているフリックの白く滑らかな肌に己の剣ダコだらけのごつごつした手の平を滑らせた。
 その動きに、何かを期待するようにフリックの身体がビクリと跳ねる。
 そんな彼の反応にニヤリと口元を引き上げたビクトールは、口付けていた唇を放し、熱に潤んだ青い双眸を覗き込んだ。
 そして、こう囁く。
「・・・・・・じゃあ、お望み通り、抱かせて頂きましょうか。」
 その言葉に、フリックはこれ以上ないくらいに綺麗な笑みを返してきた。
「・・・・・・・ああ。今夜は、俺が満足するまでつき合って貰うからな。」
 こんな時にしか見せない妖艶な笑みを見せるフリックの言葉に、ビクトールが逆らえるはずはなかった。























「・・・・・・・・・・あぁっ!」
 深く突き上げれば、フリックは惜しげも無く嬌声を上げてみせる。
 慣れない場所だからか。それともそう言う気分なだけなのか。何やらいつも以上に反応が良い。
 だから、ほんの少し気分が良くなった。
「・・・・・・・どうしたんだよ、お前・・・・・・・・・」
 耳元でそっと囁くと、かかる吐息さえもが性感を刺激するのか、ビクリと身体を震わせた。
「なぁ、いつもより、えらく反応良いんじゃないのか・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・五月蠅い・・・・・・・・、下らない事言ってるんじゃ・・・・・・・・あっ!」
 可愛くない事を言ってくる口を黙らせるために腰を大きく突き入れれば、思った通りにフリックは口を噤んだ。
 そのまま、彼の反応が良いポイントを何度も突き上げてやれば、更に言葉は無くなった。
 替わりに、快感を訴えるような甘い声が零れ落ちてくる。
「・・・・・・・やっ・・・・・・・・ぁっ・・・・・・・んっ・・・・・・・!」
 その声音に、ビクトールのモノが力を増していく。
「・・・・・・・・フリック・・・・・・・・・・」
 名を呼びながら、再び唇を彼の口元に寄せる。
 軽く口付けて、そのまま己の唇を耳朶に移し、軽く犬歯で噛みついた。
「・・・・・・・・・やめっ・・・・!」
「止めろじゃねーだろ?・・・・・素直になれよ・・・・・・・・」
 途端に逃げを打つ身体をガッチリと支え、からかうような笑みを浮かべてやる。
 浮かべながら、今度は首筋をゆっくりと舌先で舐め下ろしていく。そうしながら時々、痕に残らない程度その白い肌に吸い付いた。
 鎖骨を甘噛みし、ゆっくりとくぼみを舐め上げてやると、フリックに髪の毛を引っ張られてしまった。
「・・・・・・・・いい加減、焦らすなよ・・・・・・・・・」
 抗議の声に、伏せていた顔を引き上げ、涙がにじんで、より一層瑞々しさを感じる彼の双眸を見つめ返す。
 そのビクトールの瞳を見つめ返してきたフリックが、言葉を繋げてきた。
「・・・・・・・今日は、そう言う気分じゃ無いんだよ・・・・・・・もっと・・・・・・・・・・」
「もっと、なんだ?」
「もっと激しく、身の内にある、欲を発散しようぜ・・・・・・・・・?」
 ニッと、笑いかけてくる彼の表情に、彼の体内に埋め込んでいた己のモノが更に力を増した。
 それは、フリックにも分ったのだろう。実に楽しそうに微笑み返してきた。
「・・・・・・・・お前の息子は、やる気みたいだぜ?」
「・・・・・・・・・うるせーよ。」
 揶揄が含まれた彼の言葉にムッと顔を歪ませ、仕返しとばかりに腰を激しく突き入れた。
 そして、そのまま入り口付近まで一気に引き抜き、再び最奥まで突き入れる。
「ああっ!やぁッ・・・・・・・・ふっ・・・・・・・ぁっ!」
 そのたびに、フリックが高い声を上げる。
 それがまた、ビクトールのモノに力を与えている事に気付いているのだろうか。ビクトールがフリックの白く細い身体を突き上げるたびに、その声に甘さが増してくる。
「・・・・・・・フリック・・・・・・・・っ!」
 思わず、口から彼の名がこぼれ落ちた。
 その落ちた言葉に、フリックがゆっくりと視線を合わせてくる。
 熱に潤んだ真っ青な瞳に、自分の姿がゆらめいている。
 そんな自分の姿を見つめながら、ビクトールは己の欲望を彼の体内へと、迸らせた。


























「薬?」
「ああ。多分、媚薬の類だろう。持っていた相手が相手だっただけに、警戒しないで飲んじまった。・・・・・・・畜生。トウタの野郎・・・・・・。後で、絶対仕返ししてやるからな。」
 これ以上ないと言うくらいに交わった後、ベットの上に気怠そうに俯せながら、フリックが詳細を教えてくれた。
 知りたいと言ったわけでもないのに、実に事細かに。
 どうやら、誰かに言わないと気が済まなかったらしい。
 説明を終えた後にブツブツと呟くフリックの言葉に、仕返しってのはどうだろうかと内心で突っ込みを入れつつ、ビクトールは問いかけた。
「しかしお前。薬の類は効かないって言ってなかったか?」
「ああ。滅多な事ではな。余程怪しい調合をしたんだろう。飲んだのが俺じゃなかったら、どうなっていた事か・・・・・・・・」
 お前でも十分おかしな事になっていたぞ、と再び声にならない突っ込みを入れるビクトールの事など気にした様子もなく、フリックは更に言葉を零し続けていた。
「人の良さそうな顔をしてとんでも無い事をするのは、ホウアン譲りか?昔の恩を仇で返しやがって・・・・。二度と、こんな馬鹿なマネを出来ないよう、徹底的に叩いてやる!」
 どうやら本気で怒っているらしい。彼の全身から、恐ろしいくらいに強力な怒気が迸っている。
 そういう激しい感情を表に出す事が滅多に無い彼がこれ程までに怒りを露わにしているのだから、そうとうお冠なのだろう。そう思い、ビクトールは気付かれないように溜息を吐き出した。
 本気の彼ほど怖い物は無いのだ。何をやらかすのか、付き合いが長くなり始めたビクトールにでさえも、分からないのだから。
 状況が状況だけに、殺す事はないとは思う。そうは思うが、死んだ方がマシだと思う事は、するかも知れない。何しろ、彼は綺麗な外見とは裏腹に、かなり中身が黒いのだ。
 ビクトールは胸の内でそっと、トウタの無事を祈った。
 フリックを狙っていたわけでは無いのだろうが、彼に変なちょっかいをかけたトウタが悪いのだと思う。それでも、小さい頃の彼を知っているだけに、祈らずにはいられない。
 自分には、怒り狂うフリックを止める事は出来ない。ビクトールとて、自分の命が惜しいのだ。
「俺たちの時代に戻ったら、お前の教育を見直すよう、ホウアンに言って置いてやるからな・・・・・・・・」
 そう。声に出さずに呟く。
 ビクトールには、そうしてやることしか、出来そうも無かったから。



















それから数日後。
妙に青ざめた顔をしたトウタの姿が城内で発見された。
何があったのかは、彼は頑なに口を閉ざして、語ろうとしなかった。






















企画の主旨間違えてる?スミマセン・・・・・・。
私が暴走中。ガクリ。









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