「トーマスさんは、セシルの事どう思っているんですか?」
「・・・・え?」
 何の脈絡も無く突然尋ねられ、トーマスは返事に窮した。
「どうって言われても・・・・」
「好きなの?嫌いなの?」
 はっきりしない返答に焦れたように、ヒューゴはさらに詰め寄ってくる。
 何故そんな事を聞いて来るのか困惑するところだが、元来気の弱いトーマスは、強気でこられると思わず従ってしまう。
「好きか嫌いかって聞かれたら、そりゃあ、好きだけど・・・・・。」
「そうなの?じゃあ、キスとかもうしたの?」
「キっ・・・・・!」
 思いも寄らない単語に、トーマスの顔は面白いぐらいに赤くなっていく。自分でも、顔が熱を持ってきているのが分かるほどだ。端から見るともっと分かりやすいだろう。
 そんな反応を示してしまう自分自身にも恥ずかしさを感じ、トーマスの顔はもっと赤く色づいていく。
「・・・・そんなに照れなくても・・・・・。」
 呆れたような、困惑したようなヒューゴの声音に、トーマスは慌てて言葉を発した。
「ゴ・・・ゴメン。あまりにも、自分と関係ない言葉を聞かされたから・・・・。」
「じゃあ、キスしてないの?」
「してるわけないでしょっ!僕はまだ16だし、セシルなんて13なんだよ!」
「・・・その歳なら、キスくらいするよ?」
「僕はしない!」
 何をそんな事でむきになっているのかと、自分自身呆れながらもトーマスは強気にそう主張した。
 たしかに、セシルの事はかわいいと思う。自分に好意を寄せてくれていることも、十分に分かっている。しかし、彼女の心はあまりに幼くて、その好意が男に対するものなのか、それとも家族への思いに等しいのか、いまいち判別付かない。
 そんな状況で、自分からなにか行動を起こしていこうなど、考えれるわけが無い。これ以上何も言わせないぞ、という態度を如実に表しながらヒューゴに向き直ると、彼はなにやら嬉しそうに微笑んでいる。
 その笑みをいぶかしく思いはじめたトーマスに、ヒューゴはさらに尋ねて来た。
「じゃあ、二人の間には、何も無いんだね。」
「うん。当たり前だろ。」
 そう言い切った瞬間、ヒューゴはその場に飛び上がった。
「よっしゃーっ!俺の勝ちだよっ、アイラ!」
 僅かに背後に視線を向けながらそう叫ぶヒューゴの言葉に答えるように、茂みの中からアイラがいきなり顔を出した。
 その顔には、あからさまな怒りが浮かんでいる。
 一体何事だと目を見張っていたトーマスに、アイラは憎々しげな視線を向けてきた。
「あんたって、本当に甲斐性無しだね。」
「そういうこというなよ。じゃあ、僕らは部屋に戻るから。ほら、行こうぜ。」
「うるさいわね。命令しないでよ。」
「約束どおり、奢ってよ。」
「分かってるっていってるでしょ!」
 肩を怒らせて歩く歩くアイラと、どこか楽しげに歩を進めるヒューゴの背中を見送りつつ、トーマスはぼそりと言葉を漏らした。
「・・・・何だって言うんだ?」
 しかし、その言葉に答えてくれるものは、その場に誰にいなかった。

















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