二週間程の遠征から帰り着いたビクトールは、自分の部屋に荷物を放り込み、適当に着替えを手にして直ぐさま風呂場へと向かった。本当はすぐにでもフリックの顔を見たかったが、二週間分の汚れが付着した自分の相手を割ときれい好きな彼がしてくれるわけがないので、仕方なく。
 番台で金を払い、脱衣所で衣服を脱ぎ落とす。一応のマナーとして股間の一物をタオルで隠しながら浴場内に足を踏みいれたビクトールは、まずは旅の汚れを落とそうと洗い場へと身体を向けた。そして、そのまま固まる。
 信じられないものを目にして。
 ソレは何か。
 フリックの背中を、カミューが洗い流しているのだ。
 どれくらい前からここにいるのだろうか。元が白い二人の肌が上気してピンク色に染まり、辺りに妙な色気を振りまいている。
 風呂場に居るスッポンポンの男二人に色気もクソも無いだろう、普通は。と、己の考えに突っ込みを入れながらも、ビクトールは二人の姿から視線を反らすことも出来なければ、声をかけることも出来なかった。何か、二人の間に壊してはいけない空気を感じて。
 この場に居る全員が同じ考えなのだろう。皆遠慮がちに、中にはあからさまで不躾な視線をフリックとカミューのツーショットに注いでいた。
 その視線に気づいているだろうに、二人は無視を決め込み、二人の世界を作り上げている。
「あ。ここにも小さい傷がありますね。記憶にありますか?」
 泡の付いた指先でそっと肩を撫でるカミューの手つきが、大変イヤラシイ。
 狙ってやってるとしか思えない。
 いや、絶対に狙っている。自分達の振る舞いで何人の男のモノを反応させることが出来るか賭けているのではないかと思うくらい、彼は故意に男の欲情を誘うような動きを見せている。
 そんなカミューの動きを咎めることもなく、フリックは平然と言葉を返している。
「イヤ、小さい傷なんか一々覚えてないからな。それこそ、数え切れない位に怪我してるし。」
「フリックさんが?」
「ああ。昔は結構無茶な事をしでかしてたから。良く怪我をしたもんだよ。」
「無茶をするフリックさんですか・・・・・・見てみたいですね。」
 妙に艶めいた声で相づちを打ったカミューが、泡だったスポンジでフリックの背中を撫で上げる。丁寧に、優しく。奉仕するように、恭しく。
 その様は思わず見入ってしまう程に美しく、ビクトールは身体が冷えるのも気にせず呆然とその場に立ちつくして見つめ続けた。
 長い間フリックの背中を磨き上げていたカミューだったが、ようやく納得がいくまで洗えたのだろう。桶に湯を満たし、フリックに声をかけた。
「泡を落としますので、お湯をかけますよ。」
「ああ。」
 当然のようにその言葉を受け入れたフリックは、身体に掛かるお湯の感触に気持ちよさそうに瞳を細めている。
 そんなフリックの反応に満足そうに笑みを深くしたカミューは、綺麗に泡が流れ落ちた背中に、己の掌をゆっくりと滑らせた。
「・・・・・傷は沢山ありますが、でも、綺麗な肌ですね。」
「そうか?」
「ええ。肌理が細かくて滑らかですし・・・・・何よりもその傷が、より一層貴方の美しさを際だたせているようにも見えますよ。」
「・・・・・・・・その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」
 フリックはクスリと小さく笑みを零しながら背後を振り向き、キスするのでは無いかと言うくらいにカミューの顔に己の顔を接近させながら囁いた。そして、ゆっくりと口角を引き上げる。その先の行為を誘うように。
 そんな二人の様子に、風呂場にいた全員がゴクリと息を飲み、ビクトールの身体の血は一気に沸き上がった。
「お・・・・・・・・・お・・・・・・・・・・・おおおおおおおお前らっ!」
「おう、ビクトール。遅かったな。」
 風呂場の壁を振るわせるような怒声に、フリックは気軽な態度でそう言葉を返してきた。先程までの怪しい気配など、綺麗さっぱり霧散させて。
 そんなフリックの背後に座ったまま、カミューもにこやかに声をかけてくる。
「おやおや、随分と汚れてますね。ちゃんと綺麗にしてから浴槽に入ってきて下さいよ。さっ、フリックさん。我々は湯に浸かって身体を温めましょう。」
 まるで淑女を促すような手つきでフリックの前に手を出したカミューに、フリックはなんの疑問も持たずに。むしろそうされて当たり前だと言わんばかりにカミューの手に己の掌を重ねた。そして、軽い口調で頷き返す。
「そうだな。」
「え・・・・・・・・?あ・・・・・・・・・・っ!」
 カミューの仕草に度肝を抜かれてその場に固まっている内に、フリックはカミューに手を取られたまま浴槽へと歩き去ってしまった。その事にまた、怒りが沸く。
 大体、二週間ぶりに会ったというのにかけてきた言葉が「遅かったな」だけというのはどうなんだろうか。もっとこう、優しく労を労ってくれても良いのではないだろうか。
 そんな甘いことをフリックがしてくれる訳がないのだが、長く離れていたら思わずそんな夢を見てしまう。少しは自分の不在を寂しがっていてくれたのではないかと、期待して。
 一人で居る事が平気な。むしろ、一人で居る事を好む彼がそんな事に寂しさを感じるわけがないのだが。
 自分の考えに妙な寂しさを覚えたビクトールは、その寂しさを打ち払うために態と乱暴な動作で洗い場に備え付けられた椅子の上に腰掛けた。そして、力任せに全身を磨き上げる。これでもかと言うくらい丁寧に。その行動で、今夜はヤルぞと、フリックに告げるように。
 身体も頭も綺麗に洗い上げたビクトールは、全身を覆う泡をザッと洗い流し、身体を磨くのに使ったタオルを綺麗にすすいだ。それを、小さく畳んで頭の上に乗せ、少しの迷いも無く、浴槽に沈み込んでいるフリックの元へと足を向けた。
 フリックとカミューは壁に背を預けるようにして仲良く肩を並べ、柔らかな表情で楽しそうに談笑している。そんな二人の姿にこめかみに血管が浮き上がったが、ここで騒ぎ立てるのも大人げないと自分に言い聞かせ、冷静なフリをして浴槽に足を踏みいれた。そして、フリックの右隣に腰を下ろす。左隣にはカミューが陣取っていたから。
 ビクトールが腰を下ろした途端、まるでそれを待っていたかのようにカミューが話題を変えてきた。
「あ、フリックさん。こんな所にホクロがありますよ。」
「ホクロ?」
「ええ。ここのところに。」
 言いながら、カミューは上げた指先でついっとフリックの首筋を撫で上げた。
「肌が綺麗だからホクロなんか無さそうなんですが。あるんですね、フリックさんにも。」
「そりゃあ、それくらいあるぜ。そこにあるのは、知らなかったけどな。」
 言いながら撫でられた首筋に己の掌を這わせたフリックに、カミューはジンワリと瞳を細めて見せる。
「そうなんですか?・・・・・・・凄く色っぽいですよ。そのホクロ。」
「そうか?」
「ええ。思わず口づけたくなる程に・・・・・・・・・・・・」
 実際に唇をフリックの首筋に近づけたカミューの行動に、ビクトールの堪忍袋の緒が切れた。
 ブチリと、景気のいい音を立てて。
「公共の場でイチャイチャするなっ!しかもここは風呂場だっ!周りの人間の事を考えろっ!」
 ビクトールは、その声で浴室が震える程の怒鳴り声を上げながらその場に立ち上がり、その視線で人を簡単に殺せるのでは無いだろうかという程の目つきで二人を睨め付けた。
 そんなビクトールに、ふたりは眉間に皺を寄せる。そして、訝しむような声でフリックが問いかけてきた。
「周りの人間の何を考えろって言うんだ?」
「股間の事情だっ!」
 力強く言いきってやったら、フリックもカミューも押し黙った。
 チラリと、何にも隠されることなく晒されたビクトールの一物に目を向けて。
 やたらと元気に己の存在を主張しているモノをイヤそうに見つめていた二人は、示し合わせたように揃った動きでフイッと視線を反らした。
 そして、吐き捨てるように呟く。
「・・・・・・・・・見苦しいモノを隠せ。」
「こんなにしたのはお前等だろうがっ!責任取れ、責任っ!」
「責任って・・・・・・・・・・・」
 ビクトールの言葉に、フリックは呆然と呟いた。そして、チラリとカミューの顔を確認してからキッパリとした口調でこう続けた。
「お前が勝手に興奮したんだろうが。」
 自分達には関係の無い事だと言いたげなフリックに、ビクトールのこめかみに新たな血管が浮き上がる。だが、感情に任せて怒鳴りつける事はしなかった。ここで騒いでも状況が好転するとは思わなかったので。
 ビクトールは理性を総動員して怒りを収めた。だが、抑えきれないモノもある。その昇華しきれなかった怒りを霧散させるために、ビクトールは己のモノを二人に見せる付けるようにしてふんぞり返った。
 嫌がらせをするように。
 それは嫌がらせと言うよりは、変態行為に近い行いだったのだが、怒りに心が捕らわれているビクトールはその事に気づかず、そびえ立つモノを二人の眼前に晒しつづけた。
「いいや。お前等がヤラシイ会話をしてたのが悪い。アレは言葉攻めだ。だから、お前等が悪い。」
 キッパリと言い切る。そして、自己主張を続ける己のモノを更に主張してやった。お前等の取った行動の結果がコレなのだろ、見せつけるように。
 そんなビクトールの態度に、フリックとカミューが視線を交わした。どうしようかと、相談するように。そして、おもむろに頷き会う。
「・・・・・・・・・・分かった。」
「え?」
「責任を取ってやろうじゃないか。二人で。」
 告げられた言葉に、ビクトールはしばし固まった。まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなくて。
 てっきり「下らない事を言っているな」とフリックが騒いで終りだと思っていたのだ。そこで一発雷が落とされても、カミューとフリックが離れる事になるのならばオッケーだと、身体を張る価値があるだろうと思っての作戦だったのだ。ソレがあっさり受けいられると、戸惑ってしまう。
 そして、ふと気づく。
「・・・・・・・・二人で?」
「ああ。俺とカミューの二人で手を尽くしてお前の興奮を静めてやるよ。」
 思わず漏らした疑問の声に、フリックがあっさりとした口調でそう返してきた。その告げられた言葉に、再度呟きを漏らす。
「二人って・・・・・・・・・・・」
 ソレは何か問題があるような気がするのは、気のせいだろうか。
 野生の勘が危険を告げ、ビクトールは一歩足を引いた。ここにいてはヤバイと、思って。そんなビクトールの胸の内を読み取ったのだろうか。素早く立ち上がったフリックが逃すまいとするように腕を掴み取り、嫣然と笑いかけてくる。
「何故逃げる?」
「い・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありがたく俺たちの奉仕を受けてくれよ。」
「いや、ちょっと、ソレは・・・・・・・・・・・・」
 やっぱり遠慮したいな、と続けようとした言葉は、フリックの口から発した声でかき消された。
「カミューっ!」
「いつでもどうぞ。」
 軽いカミューの声を合図にするように、フリックが何かをブツブツと呟きだした。そして、目の前で目映い光が沸き上がる。
 と、同時に凄まじい突風が風呂場に吹き荒れ、ビクトールの身体を宙に放り投げた。
「うわっ!」
 自分の足元に突如沸き上がった竜巻の飲み込まれ、身体がグルグル回る。
「な・・・・・・・・・なんだっ!いったいっ!」
 騒いでみたが、答えは返ってこない。こんな現象を巻き起こしたのであろう、男達の口からも。
 どうにかしてこの状況から脱しようと四肢を動かしてみたが、高速回転する渦の中ではソレもままならず、翻弄されるに任せる形になっている。
 いい加減目がまわり始めた頃。その竜巻の中で何かがパシリと音をたてた。グルグル回る視界の中でその音の正体と見ようと視線を動かしたビクトールは、音の発信源を確認して全身から血の気を薄れさせた。
 竜巻の中。あからさまに様子のおかしい雷雲が出来上がってたのだ。
「ちょ・・・・・・・・ちょっと待てっ!!!」
 思わず絶叫を漏らす。
 だが、ソレは待ってくれそうにもない。内在する力を迸らせるように、パシパシと軽い音をたてながら細く明るい光を迸らせている。
 確かに、雷を打たれる決意はした。だが、それはフリックとカミューを引き離すためにだ。自分の屹立した一物を萎えさせるためではない。というか、こんな方法で萎えさせようとするのは人としてどうなのだ。コレのどこが奉仕だと言うのだ。ただの虐めだろう。いや、虐めなんて言葉は生ぬるい。暴行だ。リンチだ。なんて酷い奴なんだ、お前は。最愛の相棒にこんな仕打ちをするなんて。
 フリックが聞いたら「誰が愛してるか。馬鹿野郎。」とのお言葉が返されるであろう事を心の内で騒ぎ立てていたら、上空の暗雲から見慣れた雷が落ちてきた。自分の胸の内を聞いていて、突っ込みを入れるように。
 一つ落ちると、雷は次々とビクトールの身体に突き刺さった。いつもより威力が低い気がするが、竜巻で回転させられているために全身くまなく雷が落ち、いつも以上に身体が焦げ付いていく。そして、焦げ臭さが鼻についてくるのに従って、ビクトールの意識は遠のいていった。
「今回はマジに死ぬ。」
 本気でそう思った。いくらフリックでもまさかそこまではしないだろうと思っていたが、今回はやる気かも知れない。そう思ってしまう程に、ビクトールの身体に掛かるダメージは強かった。
 フワリと、視界が回った。頭の中がぐらぐらする。内臓は締め上げられたような感じがして、吐き気が収まらない。
 竜巻の回転に酔ったのか。はたまた死の予兆なのか。果たしてどちらだろうかと妙に冷静な部分で考え込んでいたら、ドサリと、重たいモノが落ちた音が風呂場に響き渡った。ソレと同時に、ビクトールの全身に鈍い痛みが走る。散々雷に打たれた後だから、蚊ほどにも効かない痛みだったが。
 どうやらようやく竜巻から逃れる事が出来たらしい。冷たい床に落ちた全身に感じる水気でそう思う。そして、苦痛から解放された身体が休息を求め、意識が遠のいていく。
 そんなビクトールの耳に、何かを考え込むようなフリックの声が聞えてきた。
「・・・・・・・・・八割方完成、と言うところか。」
「そうですね。まだまだシンクロ率が低い様ですから、更なる相互理解に努めないといけませんね。」
 答えるカミューの声も、何かを思案しているようだ。いったいなんの話だと、落ちそうになる意識を必死で繋ぎ止めて二人の会話に耳を傾ける。
「他人の紋章との合わせ技って言うのは、なかなか難しいモノだな。」
「私とフリックさんとでは魔力の差がありますからね。足を引っ張らないように頑張りますよ。」
「ああ、頼む。」
「じゃあ、そろそろ上がりますか。」
「そうだな。夕食までにはまだまだ時間もあるし。また図書館に行って研究するか。」
「そうしましょう。」
 爽やかに言葉を交わしながら、二人は風呂場から立ち去った。
 何事も無かったように。
 ボロボロになったビクトールと、恐怖のあまり己の一物を萎えさせた男達を放置して。










 その夜。なんとか死地から生還したビクトールは、よろける身体を引きずって居住エリアへと足を向けていた。
 目指すのは自分の部屋ではなく、フリックの部屋だ。例え死にかけていようとも、今日中に文句の一つでも言ってやらねば気が済まなくて、ホウアンの制止の声を振り切って医務室から飛び出したのだ。
 いつもの倍以上の時間をかけて目的の部屋のドアの前までやって来たビクトールは、大きく息を吐き出して呼吸を整えた後、ノックも無しに勢いよく押し開けた。
「・・・・・・・・・ノックくらいしろと言ってるだろうが。」
「うるせぇ。」
 途端に投げつけられた不機嫌そうな声に、それ以上不機嫌そうな声を返してやったビクトールは、痛む身体にむち打ってズカズカと大股で室内に踏み込んだ。そして、椅子に腰掛け、酒を片手に読書に勤しんでいたフリックの目の前に仁王立ちして、彼の顔を見下ろす。
「・・・・・・・・・アレはどういうことだ?」
 低い押し殺したようなビクトールの声は、ナナミやニナが聞いたら震え上がっていただろう。だが、フリックは恐ろしがりもしないでキョトンと瞳を丸めた。そして、軽く首を傾げてくる。
「アレ??」
「風呂場でのカミューとのイチャ付きっぷりだよっ!」
「ああ、アレか。」
 そんな彼の仕草に「可愛いぜ、こんちくしょうっ!」と胸の内で騒ぎながらも怒鳴り返せば、フリックは合点がいったと言うように小さく頷きを返してきた。そして、テーブルの上に開かれた本を己の指を指し示す。
「コレだよ、コレ。」
「あぁ?」
「合体魔法。」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
 告げられた言葉の意味が分からず、ビクトールはしばし固まった。固まりながら、風呂場でもそんな事を言ってた事を思い出す。
 そんなビクトールの胸の内を察したのか、フリックは僅かに口角を引き上げて言葉を続けてきた。
「この間図書館で見付けたんだよ。他人と合体魔法をやる方法を。見付けたからには試してみたくなるのが人間ってもんだろ?だから、カミューと二人で研究していたんだ。」
「それと、あのイチャコキっぷりにどう関係が・・・・・・・・・・・・」
「ここだよ、ここ。」
 パラパラと何かを探すようにページをめくっていたフリックがその動きを止め、とある一文を指し示してきた。その動きにつられて書面に目を向けたビクトールの視界に、指し示された一文が飛び込んでくる。



『合体魔法に一番必要なのは、互いに互いを理解する事だ。魔力のレベルをあわせるよりも、まずは寝食を共にする事を勧めたい。』



「ッてわけだ。最初はなんの冗談だと思ったが、一週間も同じ布団で寝ていたら技のキレが良くなったから、あながち嘘でも無いらしい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
 またしても意味の分からない単語が耳に届いた。その言葉をゆっくりと噛み下す。
 告げられた言葉が脳内に届き、意味を理解した途端に身体が震えた。拳に力が籠もる。
「お・・・・・・・・・お前、まさか、カミューと・・・・・・・・・・」
「馬鹿か、お前は。そんな事ある分けないだろうが。」
 濁したビクトールの言葉を読み取ったらしい。フリックがキッパリと否定してきた。その事にホッと胸を撫で下ろしはしたが、だからといって安心出来ない。フリックが嘘を付いている可能性は捨てきれないのだ。
 あの風呂場でのやり取りは、ただの友人のレベルを超えていた。思い出しただけでも股間の一物が力を宿しそうな程、強烈な色気を発していたのだから。
 ビクトールの脳裏に浮かんだモノが見えたのだろうか。フリックが小さく鼻で笑い飛ばしてきた。そして、心底馬鹿にしたような声音で言葉を続ける。
「アレはお前が来たからやったんだよ。からかうために。」
「な・・・・・・・・・・・・・・・・」
「意外と反応が遅かったのには驚いたがな。速攻で喚くと思ったから。」
 だから『遅かったな』だったのか。ようやく合点がいった。そしてホッと胸を撫で下ろす。
 自分をからかうためだけに衆人環視の元、あんな行動に出る彼等のことをどうかと思いはしたが。
 ビクトールが自分の言葉に納得したのを覚ったのだろう。フリックが微妙に話の方向を変えてきた。
「それにしても、良くもまぁカミューはああも臭い台詞を吐けるよな。」
 心底呆れたような、感心したような口調でそう告げてくるフリックに、ビクトールはなんの事だと一瞬考え込んだ。だがすぐに合点がいき、言葉をかけた。
「傷がお前の美人度を上げてるってか?」
「ああ。・・・・・・・・・首筋のホクロは色っぽいのか?」
 ビクトールを上目遣いに見上げ、軽く首を傾げながらそう問いかけてきたフリックに、ビクトールは口角をひきあげた。そして、彼の肩に手を伸ばしながらそっと囁く。
「ああ。まったくもってその通りだよ・・・・・・・・・・」
 言いながらフリックの首筋に唇を落とし、カミューが指し示したホクロを吸い上げるように肌を強く吸ってやる。
 白い肌だから、軽く吸い付いただけでも痕になる。だから滅多に痕は付けないのだが、今日くらいは良いかと思いきり痕を付けてやった。フリックの口から苦痛を示す声が漏れる程に。
 ゆっくりと唇を放し、自分の付けた痕を眺め降ろす。白い肌に、一点だけ浮かび上がった赤い痕を。その紅く色づいた肌を満足そうに見つめていたら、クスクスと笑われた。
「芸がないな。人が言った事をそのまま実行するのは。」
「じゃあ何か?俺がお前の色気を再確認しても良いのか?」
「さぁな。・・・・・・・・・・・・どう思う?」
 問いかけながら、フリック青色の瞳がキラリと光った。ビクトールの身の内にある欲を煽るような光が。
 挑発するような笑みに、返す言葉など決まっている。
「駄目だって言っても、探索するぜ。」
 キッパリと言い切り、文句の言葉を吐かれる前にフリックの身体をベッドの上に放り投げた。途端に文句の言葉がかけられる。
「・・・・・・・・・・乱暴だな。」
「うるせぇ。溜まってんだよ、俺は。」
「そろそろ枯れてもいい年じゃないのか?」
「ざけんな。俺はまだまだ現役だってーの!」
 軽い言葉の応酬を繰り広げながらも、ベッドに押し倒した身体から手際よく衣服を剥ぎ取っていく。そして、露わになった白い素肌に掌を這わせ、目にしたモノ一つ一つに唇を落としていく。

「腕の付け根」

「右腕の手首」

「へその右上」

「左の腰骨」

「左内股」

 ホクロがある位置を一つ一つ口で説明しながらその場所に口付ける。
 最初は適当に相づちを打っていたフリックだったが、それが20を超えた辺りには飽きてきたらしい。呆れを大いに含んだ声で問いかけてきた。
「お前な。ホクロを全部数える気か?」
「ああ。出来るもんならな。」
「ソレをそのまま放って置いてか?」
 フリックが指し示したモノは、ビクトールの股間で激しく自己主張しているモノだった。確かに、コレをこのまま放置しておくのは辛い。
 辛いというか、それはかなり厳しい。昼間一度強制的に萎えさせられたとは言え、焦らされ続けているような状態のソレは、既に出口を求めていっぱいいっぱいなので。
 だが、これだけ肌を撫でくり回しても駄目出しされない今の状況は捨てがたい。次ぎにこんな機会に巡り会うのはいつの事かさっぱり分からないだけに、この機会にフリックの甘い肌をくまなく味わっておくのが得策ではないだろうか。
 そう考えたビクトールは、己の息子に鞭を打つ決定を下した。
「ああ、まだまだ大丈夫だぜ。」
「・・・・・・・・・・ふぅん・・・・・・・・・・・」
 キッパリと、出さなくても良い根性を出して余裕の笑みさえ浮かべて見せたビクトールに対して探るような瞳を向けてきたフリックだったが、結局それ以上何も言わずに曖昧な頷きを返してきた。
 そして、心の底からどうでも良さそうな声音で呟く。
「まぁ、お前が良いならそれで良いけどな。」
 それでこの話題は終わったのだろうと、ビクトールは目の前の白い肌に意識を集中した。そんなビクトールに、フリックは悪戯を思いついた子供のような笑みを向けてくる。
「だったら、数え終わるまで入れるなよ?」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
 何を言われたのか分からず、軽く首を傾げて問い返せば、フリックはニッコリと、大変可愛らしい笑みをその顔面に描いて見せた。そして、機嫌良さそうな声音で問いかけてくる。
「まだ大丈夫なんだろう?」
「ソレは・・・・・・・・・・・・・」
「今ここで選択しろ。」
 にこやかに。だが逆らえない強さを含んだ言葉をピシャリと叩き付けられ、ホンノ少しだけ股間のモノから力が抜けた。そんなビクトールの股間に再び力を呼び覚ますように、フリックは嫣然と微笑みかけて来る。
「今すぐ入れるか、数えきるまで入れないか。どっちにする?」
「う・・・・・・・・・・・・」
 究極の選択に、ビクトールは言葉をつまらせた。からかいの色が大いに含まれたフリックの瞳が、じっと見上げてくる。悪戯めいた光が宿ってはいるが、彼が本気なのは痛い程良く分る。本当に、そのどちらかしか選ばせないつもりだという事が。
 妥協案を求めて青い瞳をじっと見つめたが、すげなく交わされた。
 さあ、どうすると、青い瞳から無言の圧力がビクトールにかけられる。その瞳を見つめながら、ビクトールはゆっくりと口を開いた。自分の選択を告げるために。





 翌日。不本意そうな、だがどこかすがすがしさを感じさせるような笑みを振りまくビクトールの姿が、城内で目撃されたとかされなかったとか。























フリックさんが焦らしプレイに耐えかねたので強制終了。(吐血)







スイマセン。お題が・・・・・お題が中途半端な様相で・・・・・・・・・・
ビクフリではなくカミフリですかい。アンタ!
ってな感じですが、なり損ねてるのでご安心下さいませ。
そして、ビクフリエロ未満文で手を打って下さいませ。(弱小)
エロ以前に何やら妙に文章が下品な感じがしないでも無い・・・・ああ。スイマセン。汗。


リク有難うございました。コレに懲りずにまたお願い致します。(平伏)














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綺麗な花には棘がある