脇腹から熱いモノがしたたり落ちた。
正直言って、しくじったと思う。こんな怪我を負う予定ではなかったから。もっとスムーズに、スマートに、少しの埃も被らずに済ませるはずだったのだ。
それなのに、こんな怪我を負っている。不覚も良い所だ。
こんな怪我をこさえて船に帰った日には、剣士には馬鹿にされ、船医には泣かれながら怒られることだろう。
馬鹿にしやがった剣士は三枚に下ろすとして、船医に泣かれるのは少々辛い。自分がもの凄く悪いことをした気分になるから。
「・・・・・・・・・・・隠し通せる・・・・・・・・・わけ、ねーか」
何しろ船医は鼻が良いのだ。ちょっとした怪我でも感づかれてしまう。下手に誤魔化して後でばれるともの凄く怒るし。ここは素直にげろった方が身のためだろうと思う。
「なら、少しでもダメージを減らしておかねーとな」
じゃないと、確実に数日間の安静を言い渡されてしまう。
安静を言い渡されると、料理をすることすらも禁止されてしまうので少々どころかかなり辛いのだ。
「だから、さっさとくたばりやがれっ! クソ野郎共っ!」
叫びながら両手を地に付き、地面に突いた両手で己の体重を支えて開脚し、勢いよく回転する。
「ぎゃーーーーっ!」
「うわーーーーーっ!」
放った蹴りと、その蹴りの風圧で、敵の男共がバタバタと倒れていく。
それでもまだ敵は沢山居た。気持ち悪いくらいに。いったい何処から集まってきたんだと、呆れかえるほどに。
「ッたく。いい加減相手をする気も失せるってのっ!」
回し蹴り一つで背後から襲いかかってきた敵を五人程一気に蹴り飛ばし、横から襲いかかってきた敵には足払いをかける。
振り下ろされた敵の武器を横っ飛びする事で避け、体勢を整えるなり、前方に駆け出して目の前の敵の腹に鋭い蹴りを叩き込んだ。
その蹴りを受けた敵が後方に吹っ飛び、仲間を10人程巻き添えにしてひっくり返る。
凄まじい蹴りの威力に、敵が怯む。
敵の怯える様を視界の端で確認しながら、懐から煙草を一本取り出した。
ゆっくりと火を付けて煙を吸い込み、長く長く息を吐き出す。
口の中に広がった慣れた味に目元を綻ばせながら、右足のつま先で軽口を蹴った。
そして、不敵な笑みを浮かべて自分を取り巻く男共を睨め付ける。
「・・・・・・・・・・まだまだ、これからだぜ?」
馬鹿にした色が大いに含まれたその言葉に、敵共が一斉に躍りかかってきた。
その姿を冷静に見つめながら、ニヤリと口角を引き上げる。
「おう。ドンドン来い。まどろっこしいのは嫌いなんだよ・・・・・・・・・・・」
全部まとめて片付けて、そしてさっさと船に戻ろう。
腹を空かせて待っている、大切な仲間達の元へ。
そう思いながら、ゆっくりと足を振り上げた。
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帰るため