パーシヴァルの朝は早い。
 それこそ、日の出と共に起きあがる位に早い。
 しかし、だからといって目覚めが早いわけではない。むしろ遅いくらいだ。
 実は、パーシヴァルは恐ろしい程に低血圧なのだ。
 体温も低いのでそれは仕方の無い事ではある。
 だから目が覚めたと言っても起き出すのにもの凄く時間がかかる。むしろ起きているようで起きていないと言うのが実情なのだ。
 だが、それを知っているものはイクセの村の者達だけ。
 騎士団連中はまったく知らない。
 むしろ、起きた瞬間に行動出来ると思われている節がある。
 何故か。
 それはひとえにパーシヴァルの努力が功を奏しているからだと言っても過言ではない。



「うっ・・・・・・・・・・」
 小さくうめき声を上げた後、パーシヴァルはゆっくりとベットの上に横たえていた上半身を持ち上げた。
 外はほんの少し暗い。完全に明け切っていないのだ。
 それを何となく察知しながら、パーシヴァルは半分目が開いていない状態でベットの上に座り続けていた。
 動きは一切無い。呼吸しているのかどうかすら怪しい程、起きあがったままの姿勢で固まっている。
 しかし良く見ると、時々半分だけ開いた目蓋が再び閉じようとするのをなんとか堪えるように、ピクリと眉間に皺が寄っている。それでも時々その目蓋は閉じられ、いつも知的な光を放っている瞳が数分間姿を消したりもするのだが、気力を振り絞るように何度も開け直し、ベットの上に座り続ける。
 その状態を一時間ばかり続けた後、ようやくパーシヴァルの身体が動き出した。
 と言っても、目が覚めたようには見えない。
 相変わらず半目の状態で、しかも身体は左右にフラフラ揺れている。いつもの背筋を真っ直ぐに保っている彼とは別人のような動きだ。
 そんな動きをしているので、ベットから抜け出す際に隣で寝ていたボルスの足を思いっきり踏んでしまった。
「うっ!!」
 踏まれたボルスの口からうめき声が零れたが、半覚醒状態のパーシヴァルの耳には届かず、気にせずその足を踏みつけたままベットの上から抜け出した。ボルスもボルスでこの段階で起きあがっていたら世にも珍しいモノを拝めたのだが、痛みに強いのかただの鈍感なのか、パーシヴァルの身体が自分の足の上から退いた時点で安らかな寝息を立て始めてしまったので、見る事は叶わない。
 それはともかくとして、ベットから起きあがったパーシヴァルはというと、フラフラと部屋の中を横切り、朝日の差し込む窓辺へと足を向けた。明るい日差しをその開ききらない瞳に入れれば少しは覚醒が早まるからだ。
 とは言え、通常の人よりも覚醒するのは遅い。
 窓際にボンヤリしながら立ちつくす事20分。ようやくパーシヴァルの瞳に理性の色が見え始める。
 でもやはり目蓋は開ききっていない。
 それでも身体を自分の意思で動かせるくらいに、意識が冴え始めた。
 先程よりもしっかりした足取りで部屋の中を移動したパーシヴァルは、汲み置いていた水桶の中の水で顔を洗い、意識の覚醒を促す。
 昨晩用意しておいたその傍らに置いてあるタオルに顔を埋めたパーシヴァルは、深々と息を吐き出した。
「・・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・・・」
 水を吸って顔に張り付く前髪を掻き上げたパーシヴァルは、首を左右に傾けた後、その首を大きく右回りに回す。そして、俯く形で止まった顔を天井に向けながら、一言呟いた。
「・・・・・・・・だる・・・・・・・・・」
 朝からやる気の無い一言を発したパーシヴァルだったが、その後の行動は早かった。
 さっさと寝間着から私服に着替える。
 仕事のある時は鎧の下に着るインナーを着た後に髪の毛を整え、鎧を纏うのだが、今日は久々の休みなのだ。その上、バーツに畑仕事を手伝うようにも言われていない。ある意味、完全なオフなのだ。
 着替えを終えたパーシヴァルは髪の毛を整えるべきか悩んだが、とくに予定も無いのでそのまま放っておく。
 何もセットをしないと割と眺めな髪の毛だけに邪魔になるのだが、だからといって一々セットするのも面倒くさい。邪魔になったら適当に縛れば良いさ、と、彼のビジュアルをこよなく愛している者達が聞いたら騒ぎ出しそうな事を考えながら、パーシヴァルは部屋を後にした。
 ボルスに声はかけない。
 起こさないといけない時間でもないし、ワザワザ起こしてやる義理もない。
 社会人ならば自分で起きられないといけないだろうと言うのが、パーシヴァルの持論なのだ。一度甘やかすと絶対にボルスはつけ上がる。パーシヴァルが起こさない限り起きなくなりそうな気がしてならないので、パーシヴァルは同室になってから一度もボルスに声をかけた事が無かった。
 そもそも、寝起きの自分を人に見られたくないのだ。
 一度寝起きで前後不覚だったところを襲われて痛い目を見た事があるだけに、二度と同じ過ちはしまいと、妙に早く起きあがるようになったとかんなだとかで。早く起きても結局フラフラしているので状況は余り変わらないが、常人よりも早く起きあがるおかげでなんとか事なきを得ている。
 そんな幼少期の体験を経て、今のパーシヴァルの起床体系が築かれたのだった。
 それはともかくとして、部屋を抜け出したパーシヴァルがどこに向ったのかと言うと、城に隣接する形で作られたレストランに向ったのだ。
「おはよう。」
「あ、おはよう、パーシヴァル。今日も早いね。」
「メイミに言われたくないな。」
 早朝だというのに昼間とまったく変わらないテンションでそう返してくるメイミに微笑み返しつつ、パーシヴァルは厨房の中に足を踏みいれた。
 実はパーシヴァルは、ほぼ毎日のようにここの厨房を借りていた。別にレストランの従業員として働いているわけではない。自分とバーツと、借りてる礼にメイミの分の朝食を作っているのだ。
 何しろ無駄に朝早く起きているのでやる事がない。ブラス城時代は厨房に入れる事など滅多に無かったので図書館で勉強して時間を潰していたのだが、メイミが快く厨房を貸してくれる事に甘え、今では朝食作りが日課となっていた。朝から勉学に励んで知識を詰め込むのも良いが、息抜きも兼ねて料理に勤しむ事はかなり楽しかったりするのだ。
 そんなわけで、パーシヴァルは料理に専念する。材料も調理器具も適当に借り、何品か作ってメイミの分を取り分け、自分とバーツの分を手に厨房を後にする。
「バーツ。」
「おう!パーシヴァル。おはよう!」
 バーツの畑に赴き声をかければ、彼は朗らかに笑いながら軽く手を振ってきた。
 そんなバーツの態度に笑みを返し、言葉をかける。
「おはよう。相変わらず朝から元気だな。」
「そう言うパーシヴァルは朝からしけた顔してるな。今日は起きるのに何時間かかったんだ?」
「五月蠅いよ。それよりも飯持ってきたぞ。すぐ食べるか?」
「うーーーん、もうちょい収穫してからかな。」
「じゃあ待ってる。」
「なんだよ、手伝ってくんねーの?」
「朝から働きたくないからな。」
「ちぇっ!じゃあイイヤ。飯食おう。さっさと食って、で、手伝ってくれ。」
「イヤダって。お前につき合ってたら一日何も出来なくなるんだから。今日はやりたい事が他にあるんだよ。」
「ケチクセー。」
「誰がだ。そんな事言ってると、朝飯作ってやらないぞ?」
「分かった分かった。ゴメンってば。」
 クスクスと笑い返してくるバーツにパーシヴァルも笑みを返し、近くにあるベンチに座って一緒に朝食を取る。
 一頻り話をしてバーツと別れたパーシヴァルは、今度は図書館に足を向けた。
「・・・・・・・・おはようございます。」
「おはようございます。いつも早いですね。」
 パーシヴァルの姿を目にしたアイクが声をかけてくるのに微笑みを返しながら挨拶を交わすと、目の前にスッと一冊本を差し出された。
「新刊ですか?」
「はい。・・・・・・・・・・良いですよ。」
「それは楽しみですね。」
 素直にそれを受け取り、パーシヴァルは一旦部屋に戻った。アイクが勧める本はマニアックなモノが多い。あまり複数の人が出入りする場所で読みたい物ではないのだ。
 いや、読んでも良いのだが、一度それを読んでいる所をクィーンに見つかり、しこたま怒鳴られた上に殴られたので、以来彼女が来そうなところでは読まないようにしている。そんなわけで、一番安心なのが自分の部屋というわけだ。自分の部屋で読んで居れば、例えクィーンが来ても嫌そうに眉間に皺を寄せる程度で留めてくれるので。
 図書室の真向かいと言っても良い自室に戻ると、ボルスの姿はそこになかった。
「・・・・・・・・・・さすがにもう出掛けたか。」
 誰にともなくそう呟いたパーシヴァルは、持っていた本を机の上に置いてからベットの方へと歩み寄る。
 ボルスがかけ布団を直してから出掛けた験しが無いので、直すために。今日も見事にグチャグチャなままのかけ布団を直していたパーシヴァルは、ふとその手を止める。
「・・・・・・・・干すか。」
 今日はなかなか良い天気だったのだ。布団を干したら、今日の夜はさぞ良い気持ちで眠れるだろう。
 そう考え、取りあえずかけ布団を退かして敷き布団からシーツを剥ぎ取る。そして大きく窓を開け、そこに布団を干した。その際、ちょっと布団を叩いてみる。
 明るい日の光に、沸き上がった埃がキラキラと輝いていて、なんだか綺麗に見える。埃のくせに。
「・・・・・・・ついでに洗濯してくるか。」
 言うなり、シーツと汚れ物を手に部屋を出る。
 ちなみにボルスの汚れ物には手を付けない。あの手のお坊ちゃんは人にやって貰う事に慣れていて、自分で何かをしよう等と思わないので、何も言わないと恐ろしいくらいに洗濯物を溜め込み、部屋から異臭を放つ事態に陥ったりするのだが、それでも絶対に手を出さない。
『自分がアイツを仕付けないで、誰が仕付けるんだ。』
 と言うのがパーシヴァルの考えなのだ。
 家なんか関係ないと豪語しながら家の力に頼っている感の強いボルスを、本当の意味で一人前に仕立て上げなければと、一緒に暮らし始めて思ったとか何だとか。
 ボルスにはそんな使命感は余計なお世話かも知れない。実際「そんな事を男がしなくても良いだろうっ!」などと言って反発していた。だが、「洗濯も出来ないような男とは付き合えない」などと言ってやったら面白いくらいに躍起になって洗濯に勤しむのだ、あの男は。掃除も然り。
 そんなわけで、ボルスの弱みを逆手に取って家事を仕込んでいるパーシヴァルだった。おかげでボルスも人並みに家事を出来るようにはなった。料理以外は。しかし、言われないとやらないのでどうにもこうにも中途半端な感じが否めない。
 それはともかくとして、洗濯を終えたパーシヴァルは所定の位置に物を干し、部屋へと戻る。
 ようやく落ち着く事の出来たパーシヴァルは借りた本を開いた。
 タイトルは
『実録!!騎士団の裏の世界。関係者しか知らないあの騎士の秘密を暴露!』
「・・・・・・・・・相変わらず、良い趣味をしていらっしゃる・・・・・・・・・・・・」
 思わず本気でそうアイクのことを称してしまった。
 はっきり言って、こんなものブラス城では手に入らないだろう。ビネでもかなり怪しい。
 いや、あの街は結構ごみごみしているから、こういう発禁本を扱っている店の一軒家二軒余裕で有るだろうが、ワザワザ探し出す気力はパーシヴァルにはない。
「さてさて。何が書いてあるのやら・・・・・・・・・・・・」
 自分の事が書いてあったら笑えるなぁとか思いながら読み進んでいく。
 丁度最後の一ページに目を通し終えた所で、部屋のドアが勢いよく開いた。
「パーシヴァル!昼飯食いに行こうぜ、昼飯。」
 入ってきたのはバーツだった。
「なんだ、ワザワザここまで向かえに来たのか?」
「ああ。じゃなきゃ、休みの日のパーシヴァルは飯を食わなかったりするだろ?お前の健康の為に来てやったぜ!」
「とかなんとか言って。俺に何か作れとか言う気だろ?」
「あ?ばれた?」
「当たり前だ。何年一緒に居ると思ってるんだよ。」
「30年。」
「ばーか。どっちも生まれてないだろ。」
 下らない事を言ってくるバーツの額を拳で軽く小突きながら、パーシヴァルはバーツを伴って部屋を後にした。
 メイミに頼んで厨房の一角を借り、朝よりも食いでの有りそうな料理をメイミの分だけでなく他の従業員の分も作り上げたパーシヴァルは、レストランの一角で自分達の分を平らげ、雑談を交わした後に再びバーツと別れる。
「さて、何をしようかな・・・・・・・・・・」
 借りた本を返してアイクとあの本に書かれている内容について検討するのも良いが、昼間は結構人がいるので大っぴらに話をするわけにはいかない。話が身内の事だけに、余計に憚られる。
「・・・・・遠乗りにでも行くか。」
 そう言えば最近忙しくて愛馬と共に出掛ける機会が無かったし。
 そうと決まれば行動は早かった。何時に帰れるのか分からないので干していた洗濯物を回収し、部屋に戻って干していた布団をベットに戻し、直ぐさま馬屋に向う。そして馬の面倒を見てくれている少女と雑談を交わした後、愛馬に跨り草原を駆けた。
「・・・・・・・・・一日の休暇じゃ、イクセに行く時間も無いよな・・・・・・・・・」
 行くには行けるが、村人達が解放してくれないだろうから、二日は時間を取らないと里帰りは出来ないだろう。
「もう少し状態が安定したら、お前を連れて行ってやるからな。」
 良い村だから、絶対にお前も気に入るぞ、と声をかけれやれば、愛馬は小さく鼻を鳴らして返してきた。そんな愛馬の返事に愛しげな笑みを向けたパーシヴァルは、心ゆくまで草原を駆け、日が落ち始めた頃に城へと戻る。
 愛馬を馬屋に戻したパーシヴァルは、残った時間に何をしようかと考えながら道を歩いていた。もう一冊何か本を借りてこようか。それとも、兵法の勉強でもしようか。そう言えばこの間、アップルがお勧めの本があると言っていた。それを借りてくるのも良いかも知れない。
 そんな事を考えながら歩いていたら、背後から肩を叩かれた。
「パーシヴァルっ!今暇かい?」
「クィーン。」
 振り向けば、そこには飲み友達であるクィーンの姿があった。
「ああ、とくにやらなきゃいけない事は何も無いが・・・・・・・なんだ?」
「じゃあさ、飲みに行こうよ。飲みに!」
「ああ、良いよ。」
 妙にテンション高く誘ってくるクィーンに軽く頷き、連れたって酒場に向った。連れたってと言うか、何故かクィーンに腕を組まれて。
 これは何かあるかも知れない。そう思いながらも、まぁ彼女のやる事だから良いかと諦めつつ、酒場の扉を開く。
 そこは、ついさっき日が落ちたばかりだというのに既に酒臭さが充満していた。
 席に着けば、いつもは向かいの席に座るクィーンが腕を組んだままパーシヴァルの隣に座り込んでくる。その上、やたら愛想良く酌までしてくる。つまみが無くなれば一々パーシヴァルに何が食べたいか尋ねてくる。
 これはいよいよもって怪しいと思った所で、頭上から声をかけられた。
「・・・・・・・・おやおや。なんだい?その男は。」
 その言葉に視線を上げれば、そこには豊かな胸の谷間を見せつけるような衣服に身を包んだ女性。エレーンが、仁王立ちのような姿勢で立っていた。
「決まってるだろ。私の彼氏だよ。どこからどう見てもラブラブだろ?」
「そうは見えないけどねぇ・・・・・・・どこからどう見ても、同伴出勤前のホストと客だよ。いやいや。女も30過ぎると見境無くって困るね。」
「なんだってっ!!!」
「なんだい。ヤル気かい?」
 途端に、女共のとっくみあいが始まった。
「・・・・・・・・やれやれ。」
 いったい何度このやり取りを続けたら気が済むのか。呆れているパーシヴァルの前に、飲み慣れた銘柄の瓶が一本、置かれた。
「お疲れ様。取りあえずこれは、クィーンに付けて置いてあげるよ。」
「ありがとう。」
 悪戯めいた笑みを浮かべるアンヌに同じような笑みを返し、渡された酒をグラスに注ぐ。
 繰り広げられる女の戦いを目で追えば、かなり白熱しているのが分かった。追い出されるのも時間の問題だろう。
「まったく。何が楽しいのやら。」
 呟きながら、ゆっくりとグラスを傾ける。
「よっ!お兄さん!何一人で黄昏れてんの?」
 そう、軽薄そうな声がかかったのは、クィーンとエレーンが強制退場させられ、アンヌに出された酒瓶の中身が無くなった時だった。
 どう考えても狙っているとしか言えないタイミングに、パーシヴァルの眉間に自然と皺が寄ってくる。
「・・・・・・・・ナッシュ殿。」
「そんな怖い顔しないでよ。一人なら一緒に飲まない?」
「最初から飲む気なんて無いんでしょう?あなたには。」
「おやおや。ばれましたか。」
 そう言いながら悪びれ無く笑いかけてくるナッシュに、パーシヴァルは深々と息を吐き出した。関係を持ちだした頃はボルスが遠征に行っている時にしか声をかけてこなかったのだが、最近ではボルスが居ようが居まいが気にせず声をかけてくる。
 それは多分、パーシヴァル自身がそれ程気にしていない事に気が付いたのだろう。
 昔はパーシヴァルも気にしていたのだ。何を切っ掛けに自分の人間関係がボルスにばれるか分からなかったから。ボルスに知られたら面倒くさい事になるだろうから、奴にだけはひた隠しにしようと思っていたのだ。恋人でも何でもないのに無駄な嫉妬をされる事程鬱陶しい事はないので。
 しかし、身体を重ねる毎にボルスはそんな事には気が付けない事に気が付いた。痕がついていたらさすがに気付くかも知れないが、パーシヴァルのその他の身体の状態を見て、感じて、他の男との関わりがいつあったか、等という事は微塵も察知する事が出来ないと、パーシヴァルは判断した。
 馬鹿と素人はこれだから扱いやすい。
 パーシヴァルがそう内心で呟いている事を、ボルスは全然知らない。
「で?良いの?」
「良いですよ。どこに行きます?」
 今日は一日ゆっくりしたので気力体力共に充実している。ナッシュは言動こそおかしいが、性交渉においては極ノーマルな交わり方をしてくるので、身体の付き合い的には悪くない。
 ちょっと親父が入っていてねちっこい事もあるが、力押しをされるよりはパーシヴァルも感じられるので嫌だと思う程ではないのだ。
「いつもん所で良いだろ。今日はアイツが部屋に居る事だし。」
「そうですね。まだ夜でも暖かいですし・・・・・・・・行きますか。」
 言いながら、グラスの中に残っていた酒を一気に煽る。
「今日は付き合い良いんだな。」
「休みでしたからね。」
 からかうような笑みを浮かべてみせるナッシュにそう返しながら、誘うような笑みを向けてやる。
 キスしたがるように伸ばされたナッシュの腕をスルリと交わしたパーシヴァルは、苦笑を浮かべてこちらの様子を見つめているアンヌに軽く手を振りながら、さっさと酒場を後にした。
 ナッシュがついてくるかどうかなど、気にもしないで。





















「・・・・・・・・・だるぅ・・・・・・・・・・」
 力無く呟きながら、パーシヴァルは湯船の中に己の身を沈めていた。湯船の端に頭を乗せ、天井を仰ぐ形で。
 思えば、夕食をろくに食べていない。食べる前にクィーンに酒場に連行され、そのまま酒と適当なつまみを食べてナッシュと事に及んでしまったのだから。
 とは言え、そんな事はよくある事なので大した問題ではない。
 今日は朝と昼にしっかり食べている事だし。栄養的には十分だろう。
「・・・・・・もっと食べれば肉が付くのかなぁ・・・・・・・・・・」
 そう零しながら、自分の腕を天井に向けて持ち上げる。
 決して筋肉が無いわけではないが、身長の割には細いと思う腕。そして、職業の割にはやはり細い。と、思う。
 ボルスの腕は自分よりも身長が低いのに太いし、ナッシュも年齢の割にはかなりしっかりとした筋肉が付いている。フッチも言わずもがなだし、レオなど比較するのもおこがましい位だ。
 細そうに見えるロランも、扱っている武器が武器だからか、腕から背中にかけての筋肉が素晴らしく発達している。思わず触りたくなった程だ。
「筋肉フェチかよ、俺は。」
 男共の肉体をその脳裏で思い浮かべていたパーシヴァルは、思わずそう零す。
 一概に否定しきれない物を感じてしまうのが何ともはやだ。
 思えば、自分から誘いをかけているような輩は自分よりもしっかりと筋肉の付いている輩が多い。上司の命令で評議会議員の相手をする事も多々あったが、その時は精神的ダメージがかなり大きかった気がする。まだ、直属の上司の相手をしていたときの方が気が楽だったきがしないでもないのは、やはり筋肉の差だろうか。
「・・・・・・・・・気分悪くなってきた・・・・・・・・」
 この気分の悪さは湯当たりではない。そんなものでは絶対無いと思いながら、仰向けていた身体を俯ける。
 風呂場には誰も居ない。
 それはそうだ。日付が変更してから数時間経っている。そろそろ自分も眠りにつかなくては、また朝起きるのに無駄に時間を使ってしまう。
「睡眠時間が足りないんだよ、絶対的に・・・・・・・・・」
 決して寝汚いわけではないのだ、と誰にともなく口の中で訴えながら、パーシヴァルは湯船から足を踏み出した。
 そもそも、人の居ない時間に風呂に入ろうとするのがいけないのだ。もっと早い時間に風呂に入ればもっと早く眠れるだろう。少なくてもあと二時間くらい早くは。
 しかし、パーシヴァルは他人の居る所で風呂に入りたくなかった。別に入っても良いのだが、奇異な目で己の身体を見られるで有ろう事は分かり切っているだけに、なんとなく嫌だと思う気分が多い。
「・・・・・・まぁ、良いんだけどな。」
 ずっと宵っ張りな生活が続いているだけに、早く寝ようにも眠れやしないのだから。
 さっさと衣服を身に纏ったパーシヴァルは、夜中で誰も居ない番台の前を通り過ぎて自室に戻る。
 そこにあるベットの上では、ボルスが幸せそうな寝顔で眠りについていた。
「・・・・・・・・・悩みなんか無さそうだな。」
 クスリと笑いながら、なんとなくボルスの柔らかい金髪に指を通す。
 その感触をむずがるように眉間に皺を寄せ、軽く首を振って見せるボルスの反応に小さく笑みを零したパーシヴァルは、ボルスの身体を踏みつけないように気を付けながらベットの中に入った。
 ボルスが壁際に寝てくれればそんな気遣いをしないで済むのだが、何故か彼は必ずと言って良い程手前側を占領している。そのせいで毎朝パーシヴァルに踏みつけにされている事を、ボルスもパーシヴァルも知らなかったが。
 ベットに横たわれば、暖かい日差しの香りがした。
 昨日まではボルスとパーシヴァルの体臭が染み付いていた布団から。
「・・・・・・・・・やっぱり、布団を干して正解だったな。」
 何となく幸せな気分になりながら、パーシヴァルはその瞳を閉じる。
 突如現れた体温に気がついたのか、ベットの端から飛び出しそうだったボルスがパーシヴァルの方へと近づいてきて、その身体を抱きしめてくる。
 起きているのかと思ったが、寝息は相変わらず深いので条件反射なのだろう。
 そんなボルスの様子に笑みを誘われながらパーシヴァルはそっと囁いた。
「・・・・・・・・お休み。」
 そして、ボルスの額に唇を落とす。
 幼子に与えるような口づけを。
 眠りに落ちる瞬間、そう言えば今日はボルスと会話していなかったな、と思ったが、そんな事はよくある事なので気にも留めずに一気に眠りへと落ちていった。
 それでも、パーシヴァルは毎朝毎晩ボルスの顔を見ている事に変わりない。
 ボルスがパーシヴァルの姿を見かける事は希だったとしても。



















そんな一日。






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パーシヴァルの休日