「パーシヴァル様っ!」
 背後から己の名を呼ぶ高く明るい声に振り向くと、そこには薄い金色の髪を風になびかせながら駆け寄ってくる少女の姿があった。
 年の頃は14・5歳といった所だろうか。成長途中の四肢は細く頼りない心象を与える。いつもぶかぶかの甲冑を被っているだけに、余計にそう思うのかも知れないが。
「こんにちわ、セシル殿。今日は仕事がお休みなのですか?」
 珍しく私服の彼女にそう問いかければ、セシルは力一杯明るく言葉を返してきた。
「はいっ!トーマス様にお休みを取るのも大切なお仕事だって言われたんで、今日はお休みを取ってますっ!」
「そうでしたか。では、あなたの変わりに今日は誰が門番を?」
「はいっ、コロク達ですっ!今日一日あの子達がしっかり城を守ってますっ!」
「・・・・・・・・・・そうですか。それは、頼もしいですね・・・・・・・・・・」
 犬に任せられる門番の仕事というのもどうだろうかと思ったが、深く考えないで置く。
 そんなことを言い出したらきりがない事ばかりなのだ。この城は。
 だから、さっさと話題を変えることにした。
「セシル殿は今日の休日をどのように過ごすのですか?」
「今日は武器屋さんに新作のモグラアーマーを見に行ったあと、素振りを千本する予定ですっ!」
 何故そんなものを見に行くのだと突っ込みを入れたくなったが、パーシヴァルに納得出来る答えをセシルの口から聞くことは出来ないだろうと判断し、それについては口を噤む事にした。
 しかし、もう一つの答えには言葉を返す。
「素振り千本とはまた、随分気合いが入ってますね。」
「はいっ!ボルス様に強くなる秘訣を教えて貰ったんですっ!」
「・・・・・・・・・ボルスに?」
「はいっ!ボルス様はどうやって強くなったんですか?どんな事をしたらそんなに強くなれるんですか?って聞いたら、毎日素振り千本してるって言ってました。だから、私もチャレンジしますっ!この城を守る為にも、毎日素振りですっ!」
「・・・・・・・・・そうですか。頑張って下さいね。」
「はいっ!ありがとうございますっ!私、頑張りますっ!頑張って、トーマス様をお守りしますっ!」
 力強く頷く彼女の姿を微笑ましく思いながら、相手を見てコメントしてやれと、内心でボルスに毒づく。
 まだ身体の出来ていない、身体の使い方も分かっていない少女にいきなり素振りを千本もやらせて、変なクセが付いたらどうするんだと。
 ふうっと。セシルに気付かれないように息を吐き出したパーシヴァルは、ニコニコと満面に笑みを描き続けている彼女の顔を見つめた。
「確かに、毎日素振りを千本もしていたらそれなりの技術は身に付くでしょうけれど、ただ剣を振っただけでは強くなれませんよ?」
「えっ!そうなんですかっ!!」
 驚きを示すように、元から大きな瞳を更に大きく見開いたセシルの言葉に、パーシヴァルはコクリと頷き返す。
「ええ。何事にも基本というものがありますからね。その基本を無視して我流で腕を磨き続けるのは、少々難しいですよ。」
「・・・・・そうですか・・・・・・・・・・・・・」
 目に見えてしょんぼりと項垂れたセシルの様子に笑みが零れた。
 自分はこの手の感情過多な人間に弱いらしい。
 肩を落としたセシルの頭を慰めるように数度優しく撫でたパーシヴァルは、己の腰を軽くおり、彼女の顔を覗き込むようにして語りかけた。
「基本は今から私が教えて差し上げます。長い時間は付き合えませんから、しっかりと覚えて下さいね。」
「はっ・・・・・・・・はいっ!ありがとうございますっ!!!」
 途端に喜色を満面に浮かべたセシルに、剣を取ってくるように促す。
 パーシヴァルの言葉を聞いた途端、脱兎の如く駆け出したセシルの後ろ姿を見送っていると、なんとなく楽しい気分になってきた。
「さて。飲み込みが早いと良いのだが・・・・・・・・・・・・」
 残っている仕事の量を思いだしながら呟いた。
 最悪、徹夜で仕事をする羽目になるかも知れない。
 それでも彼女に声をかけたことは、後悔していなかった。
 ボルスの尻ぬぐいをするような形になったことには、少々腹立たしさを感じないでも無かったが。
























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