『たかりに注意!!』


『ここ最近、城内で行き倒れを装い、食事を奢らせるという手口のたかりが発生しているとの情報が記者の元に寄せられた。
一人に対してかなりの金額分の食事を要求するらしい。
城内で倒れている人間を見付けたら、まずは財布の中身を確認してから声をかけよう!』





「・・・・・・・・・なんだ、この記事は?」
 新しい新聞が張り出されるたびに隅々まで読んでいるパーシヴァルは、その記事を見て呟いた。
 注意するだけで取り締まりはしないらしい。
 まぁ、戦況が逼迫しているのにも関わらず、妙にのどかな雰囲気を醸し出している城なので、そんな対応を取るのも仕方のない事かも知れないが。文を読む限り声をかけなければ被害は出ないらしいし。
「・・・・・・・・・・・一応気を付けておくか。」
 そんな感想を胸に抱きながら、パーシヴァルはバーツの畑に行くべく、足を動かした。
 今日は午後から休暇なので昼食を一緒に取った後に、畑仕事を手伝う約束をしていたのだ。
「天気も良いし。畑仕事をするには最適な日だな。」
 自分の考えに頷きながら玄関を抜け、段の少ない階段を降りようと視線を地面に向けた途端、ソレが視界に飛び込んできた。
 その背中に派手な入れ墨をした上半身裸の男が、態とらしく俯せにヒックリ返っている姿が。
「・・・・・・・・・・・コレのことか・・・・・・・・・・・・」
 記事を見た後に速攻ヒットするとは、運が良いのか悪いのか。
 果たしてどちらなのだろうかと悩みながら、パーシヴァルは腕を組んだ。そして右手の指先を顎に当て、軽く首を倒す。
 さて、どうしようか。
 今日の昼はバーツの畑で取れたものをレストランに持ち込んで調理しようと思っていたので、今は1ポッチも持っていないから、奢ることは出来ない。
 そもそも、この男に食べ物をくれてやるのは良いことなのだろうか。何もせず、ただ倒れているだけで食事にありつけてしまったら、この男に怠け癖が付いてしまうだけでは無いだろうか。
「どうしたものかな・・・・・・・・・・・」
 このまま無視して置こうか。
 そう考えながら一歩踏み出すと、それまでピクリとも動かなかった男の指先がホンノ少しだけ揺れた。だが言葉を発しては来ない。
 パーシヴァルに自分の作戦に引っかかる気配が見えないから、このままやり過ごそうとしているのだろうか。
「・・・・・・・・・まったく。教育に悪い城だな・・・・・・・・・」
 良い手本になる大人が少なく、悪い手本になる大人が多くて。
 この城で生活している子供達の将来を本気で心配しながら、パーシヴァルは男の頭のすぐ近くまで歩み寄った。そして、腕を組んだまま見下すように男の後頭部を睨みつける。
「・・・・・・・・・食事をしたかったら食べさせて差し上げますよ。ただし、その分働いて貰いますが。・・・・・・・・どうします?」
 問いかけに、男の指がピクリと震えた。そして、迷うような間の後、ノソリと身体を引き起こす。
「・・・・・・・了解しやした。あっしの力、遠慮無く使ってくだせぇ。兄さん。」
「その言葉、忘れないで下さいね?」
 天使か聖母かと思われるほどに慈悲深く美しいパーシヴァルの笑みに、男・・・・・・・・ワン・フーは魂を抜かれた。
 だがそのワン・フーが、パーシヴァルの笑みは悪魔の笑みであることに気付くのには、そう時間がかからなかった。
 バーツとパーシヴァルに良いようにこき使われて。
 しかし、その後与えられたパーシヴァルの手料理は居間まで食べたどんなものよりも美味く、ワン・フーの心は再度鷲捕まれた。
 悪魔に魂を売っても構わないと、本気で思う程に。 



























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