強い力で叩き落とされたモノを、ただ呆然と見つめていた。
自分の足元に転がったモノを。
それは凄く大切なモノのはずなのに、ソコに有ることになんとも思わない。
いや、思えない。
衝撃が強すぎて。
一切の感情が動かなくなっていて。
怒りすら沸かない。
悲しみもわいてこない。
もしかしたら後々に沸いてくる感情なのかも知れないが、今は何も感じ取れなかった。
だから、ただ見つめ続けた。
たたき落とされたソレを。
そして、叩き落としたモノが満足そうに笑っている様を。
それを見て、思う。
ああ、自分にはもう自由は無いのだ。
と。
ちょっと前まではそんな事を思おうモノなら激しく抵抗しただろう。
自分の主は自分だけだと。
誰にも自分を拘束する権利はないと。
だが、今はそんな事を思う事も出来なかった。
大切なモノを無くしたから。
人として。
自分が自分として生きるために大切なモノを、壊されたから。
だから、何も感じない。
そう思ったところで、胸の奥深いところでひっそりと隠れているモノがある事に気が付いた。
自分の目から逃れるように。
自分の周りを取り囲む奴らの目から逃れるようにひっそりと、息を殺して膝を抱えているモノが有ることに。
それは、今壊されたモノよりももっと大切なモノだ。
自分の命を賭けてでも守り通さないといけない、大切なもの。
壊されたと思っていたが、それだけはなんとか守られていた。
その事に気付き、ふっと頬を緩めた。
そんな自分の反応に、胸の内で呟く。
まだ大丈夫だ。
まだ心から笑えるから。
だから、まだ大丈夫だ。
自己暗示にかけるように、何度もなんども胸中で呟く。
そんなことしか、今の自分には出来なかったから。
大丈夫。大丈夫。
自分の足元に転がったモノは二度と身の内に取り込むことは出来ないだろうけれど。
それでもまだ大丈夫。
自分はまだ生きていて、己の足で大地を踏み締めているから、
だから、大丈夫。
大丈夫