『驚異っ!狙われたダッククランっ!
数日前から、ダッククランの面々を狙う怪しげな瞳があるとの報告が記者の元に寄せられた。被害は今のところないようだが、舐めるような視線と、舌なめずりする音が草むらから聞えるらしい。その視線と音を聞くと生きた心地がしないとのこと。ダッククランの皆さんは十分に注意して下さい。
記者の取材に対して、軍師シーザーはこう語った。
【一人での外出は避け、怪しい植え込みに近づかないように】
とくに夜は気を付けてっ! 』
「・・・・・・・・・・また、わけの分からない事件が・・・・・・・・・・・・・」
いつものように壁新聞を熟読していたパーシヴァルは、その記事を目にして溜息を零した。
確かに、ダッククランの連中は自分達の目から見ると大変に美味そうである。彼等を食材として見たことが一度たりとも無いかと問われたら、首を縦に振ることは出来ない。あのしまりが良さそうな腿の肉を焼いて食ったら美味そうだなと思ったことは、一度や二度ではないのだから。
が、生のままの彼等に舌なめずりするようなアホな行動はさすがにしていない。そんなアホ、いくら奇人の集まりであるこの城にも居ないだろう。
いや、リザートクランの様相から考えるとアヒルくらい丸飲みしそうだが、彼等はグラスランドの仲間だ。間違っても食用肉として見てはいないだろう。見ていたとしたら、手を組むことなど出来るわけがない。
騎士団の中で一番食欲が旺盛なのはレオだが、彼だってさすがにそんな行動は取るまい。
「こんな記事が出ると言うことは、平和な証なのかな・・・・・・・・・」
呟きながら、新聞の前を離れた。戦争真っ只中の昨今に平和もクソも無いが、異様な程にこの城には緊張感が足りない。それは城主の気質のためなのか、種族が雑多に入り乱れているためなのか、いまいち判別出来ないが。
一番の原因はなんなのだろうかと首を捻りながら、パーシヴァルはバーツの元へと足を向けた。いつもならどんなに早くても日が落ちてから終了する仕事が珍しく日が高い内に終わったため、少し彼の仕事を手伝おうと思って。
その後は久し振りに一緒に夕食を取ろう。メイミの店に行くのも良いが、収穫したばかりの野菜を使って自分が調理するのも良いかも知れない。
そんなことを考えながら、パーシヴァルは畑の中で作業をしているバーツへと、声をかけた。
「バーツ。調子はどうだ?」
「よう、パーシヴァル。俺も畑も絶好調だぜ。最近天気も良いからな。トマトの熟れ具合が最高だ。」
早い時間に顔を出したパーシヴァルに一瞬驚いた顔をしたバーツだったが、すぐにいつも浮かべている少しの陰りもない明るい笑顔を返してきた。
そんなバーツに、パーシヴァルの顔にも自然と笑みが浮かび上がる。
「そうか。それは良かったな。」
「そう言うパーシヴァルは?随分早い時間にうろついてるけど、もう仕事が終わったのか?」
「ああ、珍しくな。だからお前の手伝いをしようと思ったんだが・・・・・・・・」
「え?マジ!!サンキューッ!パーシヴァルっ!」
喜色を満面に表して飛びついてくるバーツにくすぐったさを感じたパーシヴァルは、苦笑を浮かべながら抱きついてくる身体を己の身体から引き離そうと、バーツの肩に軽く手を伸ばした。
「大げさだな、お前は。そんな過剰な歓迎をしなくても、手が空いたときには手伝って・・・・・・・・・・」
やるよ、と続けようとしたパーシヴァルだったが、その言葉は途中で飲み込まれた。
なぜならば、とても怪しい男の姿を発見したからだ。
バーツもパーシヴァルの視線を辿ってその男の姿に気づいたのだろう。パーシヴァルの肩に手をかけたまま、ジッと男の姿を見つめていた。
「・・・・・・なんだ、あれ?」
「・・・・・・・・さあな。」
聞かれても、パーシヴァルは彼ではないので彼の考えている事など分かるわけもない。元から彼は色々と不審な男なのだ。今更奇っ怪な行動の一つや二つ取っても驚きはしないが、大きな体を精一杯縮こませて木の陰に隠れ、これ以上ないくらい真剣な眼差しで何かを見つめている彼の姿は、いつも以上に奇っ怪だ。
一体何をしているのだろうかと彼が熱心に見つめる先に視線を向けてみると、そこには可愛らしい尻をプリプリと振りながら歩くダッククランの者がいた。
それを確認した途端、パーシヴァルの脳裏に先程見た新聞記事が浮かび上がった。そして、全身にドッと疲れが沸き起こる。
「・・・・・・・・・・ハレック殿・・・・・・・・・・・・」
頭が痛くなった。
確かに、彼ならばダッククランの連中を食材と見ることが出来るだろう。『材』どころか、『食料』そのものかもしれない。
この場であの可愛い尻に飛びかかって羽をむしりとり、火にかけもしないでかぶり付きそうな彼の姿に、そう思う。
「・・・・・・・バーツ。」
「なんだ?」
「ヒューゴ殿を呼んでくる。しばらく見張っててくれ。」
「オッケー。任せろ。」
パーシヴァルの意図を悟ったのか、バーツは苦笑を浮かべながらそう返してきた。そのバーツに軽く手を振り、ヒューゴを探して城内を目指した。
ハレックの行動を止めて貰うために。
後日。ダッククランの面々にはハレック注意報が発令され、ハレックにはダッククランの面々との接触が禁じられたのだった。
アホでスイマセン。
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喰