「やっ・・・・・・・・あっ・・・・・!」
 妙に艶めかしい声が、突如ボルスの耳に飛び込んできた。その声に、大股で歩いていたボルスの足が思わず止まる。
 時は昼下がり。場所は、人通りの多い場所から少し離れた所にあるベンチの辺りだ。そのベンチがある場所をここから窺うことは、周りにある木々が邪魔で出来ない。従って、その声の主が誰なのか、ボルスには分からなかった。
 分からなかったが、声の感じからして若い女だという事は、分かった。
 そして、その声の調子から何をしているのか見当も付く。
「・・・・・・・・こんな真っ昼間から、何をやっているんだ・・・・・・!」
 自然と眉間に皺が寄ってきたボルスは、城に住む子供達の教育の為にもさっさとその行為を止めさせなければならないと、そう判断した。判断したのだが、だからといって他人の濡れ場に飛び込む事もどうなのだろうかと、首を捻る。
 さて、どうしたものかと悩んでいたら、木々の向こうから再び艶めかしい声が聞えてきた。
「ふっ・・・・・・・・・んっ・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・気持ち良いですか?クリス様。」
「ああ・・・・・・・・・・・。やはり、お前は巧いな、パーシヴァル・・・・・・・・・・」
 その会話に出てきた名前に、ボルスはドキリと、心臓を大きく脈打たせた。
 二つとも、ボルスが愛してやまない者の名だ。
 はっきりと聞き取れた声も、紛れもなく彼等の物だと胸をはって答えられる。
 だが、その二人がこんなやり取りを、しかも白昼堂々とするような関係だとは思いたく無い。だから、自分の聞き間違いであってくれと、胸の内で祈る。しかし、その祈りは神に届くことなく、二人の会話は続けられた。
「それはもう、クリス様の為に身につけた技術ですからね。」
「また、そんな事を。そう言いながら、他のヤツにも披露して・・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・!」
「クリス様は、ココが弱いですねぇ・・・・・・・・・・・」
「あっ・・・・・・・馬鹿っ!止めろッ・・・・・・・・!!」
「何を仰っているのですか。ココを解さなくて、どこを解せと?」
「それはそうだが・・・・・・・・・でも・・・・・・・・あぁっ・・・・・・・!」
「意地をはらずに、私に任せて下さい。いつも、気持ちよくして差し上げているでしょう?」
「それは・・・・・・・・・・・・・」
「クリス様。強情も過ぎると、可愛くないですよ?」
「・・・・・・・・・・・分かった。任せる。だけど、あまり痛くするなよ?」
「ええ。腕によりをかけて、奉仕させて頂きますよ。ですから、怖がらずに力を抜いて・・・・・・・・・」
「パーシヴァルっ!!貴様っ、クリス様に何を・・・・・・・・・・・っ!!!!」
 二人の会話を黙って聞いていたボルスだったが、とうとう我慢出来なくなり、木の枝をかき分けるようにして二人の前へと躍り出した。
 そんなボルスの事を、二人はキョトンとした顔で見つめ返してくる。
「・・・・・・・どうしたんだ?ボルス。そんなに慌てて。」
 不思議そうに首を傾げてくるクリスは、珍しく甲冑ではなく私服を着ている。そもそも、昼間にこんな場所に出没している事自体が珍しいのだが。
 そんな彼女はベンチに腰掛け、その背後にパーシヴァルが立っている。
 パーシヴァルもまた、クリスと同じように甲冑ではなく私服を着用していた。そして、その両手はクリスの肩の上に乗せられている。二人の接触部分はそれだけで、、ボルスが想像していたような衣服の乱れは少しもない。慌てて周りを見回してみても、声の出所と思われる男女の組み合わせは、目の前にいる二人しか居ない。
「ボルス?」
「え・・・・・・・・・?いや・・・・・・・・・・その・・・・・・・・・」
 再度名を呼ばれて、ボルスはしどろもどろに言葉を口から発した。しかし、その言葉は意味を成してはいない。
 どうにかこうにか自分の勘違いを誤魔化そうと考えながら視線をフラフラと彷徨わせていたボルスは、ふと、自分に注がれている強い視線に気がついた。
 慌ててそちらに顔を向けると、そこにはニッコリと、じつに綺麗な笑みを浮かべて自分を見つめるパーシヴァルの姿があった。
 その笑顔に、ボルスの背中に冷たい汗が流れ落ちる。
 彼がそう言う笑みを浮かべているときは危険なのだ。大体自分にとって悪い事を考えていると、ボルスはちゃんと学習していた。そう学習をしていたが、それを回避する方法は、まだ学習出来ていない。
 だから易々と、彼が言葉を発する事を許してしまった。
「おやおや。ボルス卿は、いったい何を想像していらしたのですか?」
「いや・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・」
「私とクリス様が、昼間の、こんな場所で。何をしていたとお考えで?」
「それは・・・・・・・・・その・・・・・・・・」
「なんですか?はっきり仰って下さい。貴方が想像していた事柄を。」
 誤魔化しは許さないと言いたげに、パーシヴァルはその瞳に強い光を浮かべて見つめてくる。その瞳の中に己を蔑むような色を見つけたボルスは、ブルリと、身体を震わせた。
 嫌な予感が、ボルスの全身を駆けめぐる。
「お、俺は、別に、何も・・・・・・・・・・・・」
 しどろもどろになりながらもなんとか言葉を発しようとするが、元々回転が良くない脳みそが慌てた状態では、良い言葉など思いつくわけもない。背中と言わず、全身から冷や汗が滴り落ちてきた。
「なんだ?ボルスがどうかしたのか?」
 そんなボルスの動揺に気付いているのかいないのか。二人の会話の意味を捉えられなかったらしいクリスが、ジッとボルスの顔を見つめた後、問うようにパーシヴァルの顔を見上げている。
 そんなクリスの言葉に、彼女に向ってニッコリと笑いかけたパーシヴァルがゆっくりと言葉を発してみせた。
「ボルス卿は、私とクリス様がここで抱き合っていたと、思ったようですよ。」
「抱き合うって?・・・・・・・・・・っ!!」
 言われた言葉を一度口にしてから、その意味に気付いたのだろう。途端に、クリスの顔が真っ赤に染まり上がった。
 そして、汚い物でも見るような瞳でボルスの事を睨み付けたクリスは、一言叫ぶようにボルスに言葉を叩き付けてくる。
「最低っ!!!!!!!!!!!」
「ク・・・・・・・・クリス様っ!!!」
 そう叫んだ途端、クリスは凄い勢いで走り去ってしまった。そんなクリスに、ボルスは慌てて声をかけたが、彼女はチラリとも振り向いてはくれず、そのまま姿を消してしまった。
 もしかしたら、凄く嫌われてしまったかもしれない。今まで築き上げてきた信頼関係が消し飛んだ気がした。
 ボルスの頭の中に、自分の事を睨み付けたクリスの顔が、向けられた怒りに震えた一言がエンドレスで回っている。その脳内の映像からもう一度ダメージを受けながらガクリと膝を地面について崩れ去るボルスの視界に、影がさす。
 その気配に助けを求めるように瞳を上げると、そこには冷たい瞳で自分の事を見下すパーシヴァルの姿があった。
「パ・・・・・・・・・パーシヴァル・・・・・・・・・」
 救いを求めて名を呼びながら震える右手を彼に差し出した。
 その手を取って、俺を助けてくれと。瞳で訴えながら。
 そんなボルスの願いに気付いているだろうに、パーシヴァルはその手を一瞥しただけで手を出そうとはしてこない。逆に、嘲るように鼻で小さく笑われてしまった。
「本当、お前って馬鹿だよな。」
 そう短く告げたパーシヴァルは、泣きそうに顔を歪めたボルスの反応を気にした様子も見せずに、クリスが走り去っていった方向へと足を向けて歩き去ってしまった。
 残されたボルスは、上げていた右手を地面に落とし、力無い声で呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・酷いぞ。パーシヴァル・・・・・・・・・・・・・」
 なんの恨みがあって、クリス様にそんな事を告げるんだ。
 お前が言わなければバレなかった物を。
 そう心の中で呟きを漏らしながら、どうやって汚名を返上すれば良いのだろうかと、無い脳みそを捻って考え込むボルスだった。






















やってた事は肩たたきで。
中身無くてすいません。汗。

















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真昼の情事