「・・・・ねぇ。桃先輩。」
「あん?なんだ?」
 いつもの部活帰りのファーストフード店の中。
 不意にリョーマが声をかけてきた。
 食べかけていたハンバーガーに齧り付きながら視線を向けると、彼は自分の手元を見ながらなにやら考え込んでいる。
「なんだよ。気になるからさっさと言え。」
 話の先を促せば、彼は真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
「・・・・・・・・ルートって、何?」
「・・・・はぁ?」
 いきなりの質問に、頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がる。
 何を唐突に。
「ルートって・・・・。『道』とか、そう言う意味じゃなかったっけ?」
「そっちのルートじゃなくて。コレ。」
 多少いらだった様子でそう良いながら、リョーマはドリンクカップの端に伝っている水滴を指に付けながら、テーブルの上に記号を書いて見せた。

 √

「ああ。そのルートか。あれだろ?平方根とか、そう言うの。ヒトヨヒトヨノヒトミゴロ。フジサンロクニオームナクってヤツ。」
「だから、そういうことじゃなくてさ。」
 いつも仏頂面をしている愛らしい顔をさらに歪ませ、リョーマの声が尖り出す。
「なんで、このヘロヘロしたのが、ルートって言うわけ?」
「はぁ?何言ってんの、お前。」
 質問の意味が分からず、思わず声が高くなる。
 その態度が気に入らなかったのか、リョーマの眉間の皺は更に深くなっていく。だが、疑問はかなり深いらしい。話を切り上げることなく、先を続けてくる。
「分けわかんなくない?何をどうみても、このヘロヘロしたヤツをルートって読めないじゃん。おかしいって、コレ。」
「考案したヤツが『ルートさん』って人だったってオチだろ。そんなもん。」
 何をそんなにこだわっているのか分からず、桃城はサラリと言ってのけた。
 実際の所どうだか分からないが、世の中の名前なんてそんなモノだ。古いモノは、とくに。
 しばらく呆気に取られたように桃城の顔を見ていたリョーマは、盛大なため息を付いた後、小さく言葉を零した。
「・・・・・使えないっすね。桃先輩。」
「なんだっと!越前!!その言い草はっ!」
 その、心の底から自分の事を馬鹿にしたような声音に、桃城の怒りは一気に沸点に達した。
 可愛くないと思っていたが、この後輩は本気で可愛くない。年上を敬うという気持ちは無いのだろうか。
 怒りで震える桃城の様子を気にする事もなく、リョーマは冷めた瞳のまま言葉を続けてくる。
「だってそうでしょ。そんな、ありきたりな答えしか返してこられないなんて。あーーーーあ。聞いて損した。」
「おまっ・・・・・!言うに事欠いてっ・・・!」
「やっぱ、桃先輩聞くのが間違いだったね。最初から、部長に聞きに行けば良かった。」
「てめーっ!まだ言うかっ!このやろう!」
 少しも収まろうとしない後輩の生意気な口を塞いでやろうと、桃城はリョーマの背中から押さえつけに入った。
「ちょっ!止めて下さいよっ!」
「うるさいっ!生意気な後輩は、こうしてやるっ!」
「ちょ・・・っ!桃先輩っ!」
 羽交い締めにした上に、自分の体重で彼の身体を押しつぶすようにのし掛かる。
 身体の下から、蛙を潰したような声が聞こえてきたが、気にしてなどやるモノか。
 ちっさくて、すぐに壊れてしまいそうだけど、この後輩が思いの外頑丈だと言うことは、十分に知っている。
「ちょっ・・・・!マジ、桃先輩っ!マジ苦しいっ・・・!」
「嘘付くな、この野郎っ!嘘つきには、こうだっ!」
「ちょっ・・・・・!」
 制服の上からでは効果がないと思いつつ脇腹をくすぐってやれば、細い身体が面白いぐらいに跳ね上がる。
 生意気で、だけど可愛い後輩とこんな風に過ごす時間が凄く楽しいと、最近思う。




















小野坂さんの声でお読み頂けると幸い。









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