「ミッチーは女性とつき合ったことがあるのかね?」
 部活の後、デカイ男が集まって狭い部室の中でもそもそと着替えをしていたら、桜木が怖ず怖ずとそんなことを聞いてきた。
 いったいなんでそんな問いかけをされなければならないのかさっぱり分からなかったが、別に隠すことでも無いのであっさりと答えてやる。
「はぁ?んなの有るに決まってンじゃねーか。俺様を馬鹿にすんなよ、こら!」
 語尾で少々すごんでやったが、桜木は大してビビッてはいないようだ。
 それはそうだろう。鉄男相手でもなんとも思っていなかった男なのだ。三井程度のガン付けではビクともしないだろう。
 が、何やら様子がおかしい。ビビっているわけではないのだが、なんだか言葉を発し難そうな顔をしている。そんな桜木の様子を訝しく思いながら言葉の先を待っていると、彼は意を決したように問いかけてきた。
「じゃ、じゃあ、キ・・・・・・・キスとかも、したことあるのか?」
「それくらい今時小学生だってやってるだろうが。」
 聞かれた言葉に心底呆れてそう返してやれば、桜木は本気で驚いたような顔で三井の胸ぐらに掴みかかってくる。
「そ、そうなのかっ!・・・・じゃ、じゃあその、セ・・・・・・・・」
「セックスもしたことあるぜ?それが?」
 言葉の先を読んで答えてやれば、桜木は面白いくらいに顔を紅潮させた。そして気付けば、周りの部員達も興味津々と言った様子でこちらの会話に耳を傾けている。
 なんだってこんな展開になったのだろうかと首を捻っていた三井に、桜木が尚も質問を重ねてきた。
「な・・・・・・・何回くらい?」
「はぁ?回ってなんだよ、回って。イッタ回数か?」
「イ・・・・・イッタ・・・・・・・・!!!」
 自分で質問したくせに、桜木は頭から血を吹き出すのでは無いかと思われるくらいに顔を紅潮させている。そんな桜木に、三井はたたみ掛けるように言葉を返す。
「んなの数えるかよ。一々数えてるような奴は変態だぜ?」
「うっ・・・・・・じゃ、じゃあ、つき合った女性の数は?」
「・・・・・・やけにしつこいな。んなの一々数えてねーよ。身体だけのおつき合いをした数なら、10や20じゃきかないだろうけどよ。」
 それが全部女だとは言わないが、あえてそこは伏せておく。聞かれても居ないことをワザワザ言う趣味はない。
「・・・・・ミッチー。女の敵だな。」
 だから自分が相手にしたのは全て女だと思ったのだろう。非難がましい眼でそんな事を言われた。
 が、そんな風に言われるのは心外だ。別に自分から誘ったわけではないのだから。酔った勢いで誘ったことは一度や二度くらいあるかもしれないが、基本的に来る者拒まずの精神で言い寄ってきた人間を相手にしてきたので、非難される覚えはない。
 だが、そんなことをここで言ってもしょうがないので簡潔に言葉を返した。
「そいつらだって似たようなもんだぜ。」
「・・・・・・・・・うぬぅ・・・・・・・・・・・」
 その言葉に納得出来ないという顔をした桜木だったが、それ以上問いかけても自分の理解の範疇を越えると思ったのか、大人しく次の質問を発してきた。
「・・・・・・・で?ミッチー。今はおつき合いしている人は居るのかね?」
「居るわけねーだろ。こんだけ部活に打ち込んでて、どこに女を相手にする時間があるってーんだ?」
「・・・・・・・・それもそうだな。」
「セックスすんのにも体力使うんだぜ?部活の後に昔と同じペースで女を相手にしてたら俺はもう死んでるぜ。」
 言いながら、ロッカーの中から取りだしたYシャツを羽織る。そしてボタンを留めながら、先を続けた。
「それに俺は、女に突っ込むよりもゴールにボールを放り込む方がエクスタシー感じるからな。」
「ミ・・・・・・・ミッチーッ!!!!」
「いい加減にせんかっ!この馬鹿者がっ!!!!」
「いってーーーーーっ!」
 桜木の叫び声に被さるように響いた赤木の怒声の後、三井は脳天に凄まじい衝撃を感じて思わずその場にしゃがみ込んだ。
 痛みの余り目に涙が浮かんでくる。その涙を手の甲でグイッと力強く拭い去った三井は、痛みを堪えてその場に立ち上がり、自分を見下ろす赤木の顔を睨み付けた。
「いきなりなにしやがんだっ!このゴリラ野郎ッ!」
「五月蠅いっ!場所も考えずに下らんことを話している貴様が悪いんだっ!少しは反省しろっ!」
「下らないことってなんだ、下らないこととはっ!だいたい、最初に話を振ってきたのは桜木だぞ?俺だけが殴られるってのはどーいう事なんだよっ!」
「誰もそこまでベラベラ喋ろといっとらんだろうがっ!貴様には羞恥心が無いのかっ!羞恥心がっ!」
「何を恥ずかしがれってんだよ?高校三年生にもなって未だに童貞だって事の方がはずかしくねーのか?ああん?」
 そう言い返してやれば、赤木は面白いくらいに顔を紅潮させた。
「・・・・・・・・・・あ、もしかして、図星か?」
「う・・・・・・・・・五月蠅いわっ!!!」
「いってーーーーーっ!」
 どうやら図星だったらしい。三井はもう一度脳天をかち割られるような攻撃をかまされてしまった。
 再度眦からにじみ出てくる涙を拭いつつ、三井は紅潮した顔色を抑えることが出来ずにいる赤木の顔を覗き込んだ。
「あ〜〜。悪い悪い。童貞君には刺激が強い話だったか?」
「・・・・・・貴様、まだっ!」
「そんなに童貞だって事が気になるなら適当な奴紹介してやるぜ?あ、病気持って無い奴ちゃんと選ぶから、そこら辺は安心しろ。どうだ?」
 軽く首を傾げてそう問いかければ、赤木は返答することも出来ない程に怒っているのか、はたまた恥ずかしさを感じているのか。身体をブルブルと震わせるだけで言葉を返してこようとはしない。
 そんな赤木の様子にニヤリと口角を引き上げた三井は、震える赤木の肩に己の手をかけ、スッと、己の顔を彼の顔へと近づけた。そして、唇が触れあうかふれ合わないかという距離でそっと囁く。
「それとも、俺が相手をしてやろうか・・・・・・・・・・・?」
 その言葉に、赤木の身体がビクリと震えた。
「おま・・・・・・・・・・・っ!」
 三度振り下ろされそうになった拳をスルリとよけた三井は、足元にあった己の鞄を掴み取り、流れるような動作で戸口へと、足を運んだ。
 そして、怒りと羞恥の為に顔面どころか身体全体を真っ赤に染め上げている赤木に向って、軽く手を振ってやる。
「んじゃ、お返事待ってるぜ、赤木?」
「う・・・・・・・・・・五月蠅いっ!そんなもんいらんっ!」
「はいはい。んじゃ、また明日な。お疲れさん。」
 軽い調子でそう返しながら、赤木に向って投げキスを一つくれてやる。途端に眉がこれ以上無いくらいにつり上がった赤木の攻撃から逃れるため、三井はスルリと、部室から身体を滑り出させた。
 背後で赤木の怒鳴り声と、暴れる赤木を木暮や他の部員が必死に宥めている声が聞えてきた。それをBGMにクククッと笑い声をあげる。
「・・・・・・・飽きねー連中だな。」
 少し前まで日の大半を潰していた下らない連中との関わりなんかの何倍も何十倍も楽しい。あの気の良い仲間と共にいる方が。
「・・・・・・・・明日の朝練はしごかれるな。こりゃ。」
 でも、それがまた楽しい。
「健全なのは良いことだ。」
 口角を引き上げながら、身体を目一杯伸ばす。
 心地良い疲労を全身に感じながら。


























赤木に対して失礼な・・・・・・・・・・・・
でも実際どうなのだ?彼女がいるようには見えないが・・・・・・・・












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快感